BtoBの時代に備える(5)
最終回:上を向いて歩こう

平野洋一郎
インフォテリア株式会社
代表取締役社長
2001/8/25

需要と供給のギャップのなぞ

 最近の新聞をよく賑わせている記事に、IT企業の財務状況の悪化があります。そうした記事の多くには「過剰在庫」という言葉がよく登場します。このように、過剰在庫は企業の財務状況を大きく悪化させる要因です。

 BtoBでは、競争やボリュームによる調達金額の低下や、自動化による人件費の削減が可能といった側面のほかに、情報のスピードアップによる計画性の向上も、実現可能な効果の1つです。分かりやすい例としてサプライチェーンにおける「品不足」と「過剰在庫」を例に取って考えてみましょう。

 商品のライフサイクルにおける品切れと過剰在庫が起こるメカニズムを単純化したものが図1です。特に、ヒット商品にはこのような傾向が顕著に表れます。品切れは、商品の成長段階で、生産が需要に追い付かない状態で発生します。一方の過剰在庫は、商品の衰退期の過剰生産が主な原因となります。

図1 実際の需要に対して生産が遅れてくるため、品不足や過剰在庫が発生する

 多くの商品は、需要予測と受注動向に基づいて生産計画を行います。またそれに基づいて材料の発注も行います。サプライチェーンでは、このような受発注が連鎖的に起こっています。そして、そのチェーンが長くなると、実はどんどん実需要と発注のギャップができていくのです。

解決策としてのBtoB

 需要のカーブを「山」ととらえて話を進めましょう。

 需要と供給のギャップの1つは、「山」が後ろにずれることです。これは時間のずれであり、複数の会社や人を経ることで、情報伝達に時間がかかっていくということです。そして2つ目のギャップは、「山」が高くなっていく傾向があることです。これは「品切れ」が起こるほど顕著です。

図2 消費者による実際の需要は、小売り、卸、メーカーへと伝達されるにつれ、誇張され、しかも時間的に遅れていく

 なぜ山が高くなるのでしょうか? 例えばあなたが、あるパソコンをA商店に買いに行ったとしましょう。しかし、A商店では品切れでした。仕方ないので、あなたは、B商店に行きますが、B商店でも品切れです。さらに、あなたは、C商店にも行きますが、C商店でも売り切れでした。そしてあなたのような人が50人いたとします。さて、どういうことが起こるでしょう。A商店、B商店、C商店とも、さっそく問屋にパソコンの発注をかけます。しかし、これらの商店の発注個数の合計は50個でしょうか? いいえ、A商店、B商店、C商店がそれぞれに「売るチャンスを逃すまい」と思えば、その発注の合計は50個以上になってしまうことは間違いありません。実需は50個しかなくても、です。しかも、それぞれの商店は発注前に複数の問屋に在庫照会をするかもしれません。そうすると、それぞれの問屋がこんどは見込み需要を立てるため、メーカーへの発注もさらに増幅してしまいます。

  このように、実需と生産のギャップが出れば出るほど、山の高さも高くなってしまうわけです。

 BtoBでは、こうした受発注の情報の流れを早くし、究極的にはサプライチェーン全体で同じデータを共有することで、実需に対する情報ギャップを極小化し、品切れや過剰在庫を減らすことで売上げ増、コスト減を実現することが可能なのです。

社内と社外のIT格差をなくしていく

 さらにBtoBは、企業がその資産を自社の強みの事業や部門にのみ絞り込むことを可能にします。なぜなら、BtoBが進展すると、社内でできることと社外でできることの差がどんどん縮まるからです。

 現在は、社内でできることと社外でできることには大きな差があります。その大きな原因の1つが、ITの進化の度合いです。社内のイントラネットでは、ワークフロー、グループウェア、RDB、ERPなど数多くのITインフラによって業務が支えられていますが、社外とは、単純なメール程度でしかつながっていません。しかしBtoBが進展すれば、現在社内で使用しているようなアプリケーションやインフラを社外の信頼の置けるメンバーと共有できるようになります。しかも必要に応じてその接続を行い、プロジェクトを組んだり、サービスを受けることが可能になるのです。

 こうなるとBtoBは、自社の強みで大きく利益が出せる部分以外は社外を活用し、ROA (Return On Asset:単位資産当たりの収益)を向上させ、企業の競争力を上げていくことにも貢献できるようになります。

BtoBの課題とは?

 これまで、BtoB導入における実態、課題、そして効果を見てきましたが、BtoB自体にもまだまだ課題はあります。代表的な2つの課題と、その解決に向けた取り組みを紹介しましょう。

課題1=中堅、中小企業の参加

 現在のBtoBの大きな課題の1つは、中堅・中小企業の参加に対するハードルの高さです。例えば、これまでRosettaNetの導入コスト総額は平均1億円程度といわれていました。1億円程度のIT投資というのは、中堅・中小企業にとっては相当大きなコストであり、簡単に出せるものではありません。ゴールドマン・サックス社の調査では、2000年から2005年まで各企業がBtoBにかけられるITコストは、その取引規模(金額)の1.7%から1.9%となっています。つまり、仮に導入コストが1億円だとすれば、そのシステムでの取引が50億円程度というのが標準的なケースになるということです。これは多くの中堅企業にとっては、かなりハードルが高い金額だということになります。

 そこでRosettaNetではこの課題を解決するために、RosettaNet Basics(ロゼッタネット・ベーシックス)というプロジェクトを開始しました。これは、中堅企業でのRosettaNetの採用を促進することを目的に開始されたプロジェクトです。中堅企業での導入を促進するため、取り引きに利用するプロトコルであるPIP(Partner Interface Protocol)を限定することで複雑さを減らし、さらにターンキー・ソリューションにすることで導入コストを下げるための活動を行っています。このプロジェクトでは、プロジェクトメンバー企業は、2001年末までにそれぞれ50〜100のサプライヤ企業とRosettaNetを使用して接続することをゴールとしており、実現すればRosettaNetでの接続企業は世界で800社を超えることになります。

 さらに、このプロジェクトはリーダーのインテルのほか、ヒューレット・パッカード、ペリグリン、インフォテリア、マイクロソフト、NEC、ティブコ・ソフトウェア、ウェブメソッドなどの、世界的に著名なBtoB企業が委員として活動して、各顧客におけるRosettaNet Basicsの適用を全面的に支援しています。

課題2=取引先のダイナミックな選択

 BtoBの大きな課題の2つ目は、取引先のダイナミックな選択です。これからは、会社が統合されたり、子会社やジョイントベンチャーを設立したりと、会社組織そのものがダイナミックに変化していきます。また取引先も、需要やビジネスプランのスピードに応じて素早く切り替えていかなければならない状況が発生します。これらの問題の解決には、インターネットとXMLを使っただけでは不十分です。

 こうした変化に対応して取引先を切り替える際に、新しい取引先のコンピュータシステムと自社のコンピュータシステムが、すぐに「会話」ができなければなりません。しかしビジネスプロトコルが違っていれば、すぐにはコンピュータ同士を接続して取引することはできません。現時点では、FAXのような全世界、全業界で統一されたBtoBプロトコルはありません。この課題には、当面はBtoBの導入企業で対応しなければなりません。このためには、複数のビジネスプロトコルに容易に対応できるBtoBサーバを採用したり、インターネット上のハブでの変換サービスなどを活用する必要があります。

 これらの課題を解決しようと、業界を超えたビジネスプロトコルの標準化プロジェクトが始まっています。OASISのebXMLやUBL (Universal Business Language)といったプロジェクトがそれで、ユニバーサルなeビジネスのための言語として今後注目すべきでしょう。

ダイナミックに取引先を選択する技術

 取引先を切り替えることは、従来多くの時間と労力を必要としていました。そこで、インターネットを活用した取引と企業間プロセスを速いスピードで探し、結合していくための新しい技術として、IBM、マイクロソフトなどの主導でUDDI (Universal Description and Discovery and Integration)という仕組みが提案されています。また、UDDIを支える技術としてSOAP(XML Protocol)HTTPRが提案されています。将来的には、この仕組みを使って販売サービスや購買サービス、さらには会計サービス、決済サービスなどのWebサービスをダイナミックに接続して取引を行うことが可能になるでしょう。

 UDDIによるWebサービスのダイナミックな結合はまだ提案と実証実験の段階であり、エンドユーザー企業が、すぐに使えるものではありませんが、実用化される際には、取引先をダイナミックに変える、という課題の解決に、大きく役立つことでしょう。

BtoBは永遠か?

 BtoBに懐疑的な人たちは、「BtoBは流行モノだよ」とか「BtoBなんてすぐに廃れる」といいます。確かにそうでしょう。「BtoB」という言葉はそのうち古くなり、10年後にはそれこそ「死語」とさえ呼ばれているでしょう。しかし、企業間でコンピュータをつなぎ、いろいろなビジネス上のやりとりを直接行っていくという方法自体は、大いに発展しているに違いありません。
20年ほど前、オフィスにパソコンやオフコンを入れて業務処理を行うことは「OA化」といってもてはやされていました。それがいまや「OA」という言葉を使う人はほとんどなく、死語となっています。では、「OA」は廃れてだめだったのかというとそうではありませんね。オフィスにコンピュータを入れ、そのうえであらゆる仕事を処理することは、いまや当たり前で、なくてはならないものとなっています。

 私は、「BtoB」も同様の経緯をたどると考えています。これから何回か言葉が変わり、最後には当たり前となって呼称さえなくなる、と。

上を向いて歩こう

 初回のコラムでご紹介したように、BtoBで企業間をつなぐことによってもたらされるメリットは、短期的な「時間短縮やコスト削減」だけでなく、中長期的には「資産の絞り込み」や「変化への柔軟な対応」をもって「企業の競争力」を高めるものです。そして、BtoBへの参加を容易に低コストで実現する標準ビジネスプロトコルやBtoBサーバの登場により、BtoBの普及は日々身近なものとなってきています。

 とはいえ、あなたが、「BtoBを導入しよう!」「BtoBに参加しよう!」と叫んでも、冒頭に述べたように数多くの困難に直面するのは間違いありません。そう、あなたは、最初に企業にコンピュータを導入しようとした人たちと同じような大きな困難に直面するのです。しかし、あきらめてはいけません。あなたは、BtoBの世界がいずれすべての企業のインフラとして当たり前になることを理解しています。そして、あなたの会社はその新しい世界の中で躍進している企業であることを目指しています。

 これからの世界が見えているのに、進むのをちゅうちょする必要はありません。下ばかり見て、デメリットや、やらない理由ばかり考えていてはいけません。時代が変わるとき、世界が変わるときに上を向いて歩いた会社こそが新しい時代のリーダーとなるのです。いまこそ、あなた、あなたのチーム、そしてあなたの会社の知識と経験を駆使して、来るべきBtoBの世界への第一歩を踏み出してください。

筆者紹介
平野洋一郎

熊本県生まれ。株式会社キャリーラボ設立にあたり熊本大学工学部中退。1983年から1986年の間、株式会社キャリーラボにて、日本語ワードプロセッサを開発し、1985年に年間ベストセラーになる。1987年から1998年まで、 ロータス株式会社にて、表計算ソフト「ロータス1-2-3」から、グループウェア「ロータスノーツ/ドミノ」まで、幅広い製品企画とマーケティングを統括。元ロータス株式会社戦略企画本部副本部長。1998年インフォテリア株式会社を創立し、現職に就任。


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