第2部
ターゲットを絞ることで成功したRosettaNet

新野淳一
@IT編集局
2002/1/29

 RosettaNetは、全世界で400社を超えるベンダが参加する、IT業界や電子部品、半導体業界を中心としたBtoBのためのコンソーシアムだ。その名前はエジプトで発見されたロゼッタストーンに由来しており、電子商取引の分野での基盤になりたいという願いが込められている。活動の中心は米RosettaNetが中心だが、日本にもロゼッタネットジャパンが設立されており、ソニーやインテルなど、国内のメーカーも参加している。

IT業界のBtoBに、関連業界が参加して発展

 RosettaNetについては、以前「BtoB実用の最先端:RosettaNetとは?」の記事中で詳しく解説しているが、ここではあらためて、新しい情報を加えてコンパクトに解説してみたい。

 RosettaNetの最大の特徴は、情報機器業界や電子部品などの関連性の高い業種に目的を絞ったBtoB標準だということだ。主な企業を紹介すると、下記のようになる。

情報機器業界(IT業界)
3COM、CISCO、Compaq、Dell、HP、IBM、Intel、NEC、Quantum、Siemens、Solectron、Deutsche Financial、Microsoft、Netscape、AMEX、Lucent、FedEx、UPS、CompUSA、Offic Depot、Ingram Micro、SAP、SONY
電子部品業界(EC業界)
Altera、AMD、Hitachi、Intel、Lucent、Micron、Motorola、NEC、Philips、Samsung、TI、Toshiba、Xilinx、AMP、Molex、Frametone、AVX、Bourns、Kemet
半導体業界(SM業界)
Agilent、Micron、National Semiconductor、TI、Applied Material、凸版印刷、NEC、Philips、Chartered、Adaptec、Amkor、ASE、SPIL、JSR

 もともとのRosettaNetは、1998年にIT業界の40社がBtoBを実現するために始めたものだ。1999年にはそれにEC業界が参加し、さらに2000年にはSM業界が参加する、というように徐々に対応範囲を広げてきた。

 筆者の想像だが、関連する業界の中でBtoBを実現することにフォーカスしたことが、RosettaNetがほかの標準に先駆けて迅速にビジネスプロトコルを作成し、展開する面で有利に働いたのではないだろうか。関連する業界であれば取引の内容や方法をパターン化しやすいだろうから、ビジネスプロセスやXML文書の定義もやりやすいはずだ。

 さて、RosettaNetの定義したビジネスプロトコルは、大きく3つのレイヤに分けることができる。それは「Dictionary」「PIPs」「RNIF」だ。簡単にいうと、Dictionaryで言葉を定義し、PIPでその言葉を使って取引文書を作成。そしてRNIFに定められたプロトコルで通信する。それぞれを順に説明していこう。

ボキャブラリを統一するDictionary

 世界中の会社を相手にBtoBを行うことを想定した場合、同じ名前の会社や、同じ製品名の製品などが存在する可能性を考慮しなければならない。これらを区別するためには、会社や製品ごとに固有の番号を与える必要がある。また、国や地域、そして企業によっては、同じ意味でも異なる用語を取引に使っている場合があるし、確実な情報伝達のためには、取引のときに使う用語の統一などを図る必要もある。

 そこで、RosettaNetでは、世界中の企業を一意に示すGlobal Company Identifierとして、米国の企業情報会社ダン&ブラッドストリートが定めるD-U-N-S Numberを各企業のID番号として与えている。さらに製品のID番号、すなわちGlobal Product Identifierとして、製品のコード化を促進する団体EAN/UCCのGTINを採用している。これにより、ある企業のある製品を確実に特定することが可能だ。

 Dictionaryではさらに、RosettaNetの取引で利用できる基本的な用語を定義したRosettaNet Business Dictionaryを用意している。ここでは、例えばAccountNumber(顧客番号)、CurrencyExchangeRate(為替レート)、ProductQuantity(製品数)といった、情報交換時に利用する用語とその意味、データ型を定義している。さらに、情報機器業界や電子部品業界などが取引時に必要とする、業界ごとの専門用語を定義したTechnical Dictionaryも定義している。

PIPsで文書構造とワークフローを定義

 実際に取引のためにやりとりされる「文書」は、Dictionaryで定義された用語を使って作成される。その文書の書式などを定めているのがPIPs(RosettaNet Partner Interface Processes)だ。と同時に、その文書をどのようにやりとりするのか、という「ワークフロー」もPIPsで定められている。PIPsは、RosettaNetが定義するビジネスプロセス(取引のための手順)のコア部分を表現しているといえるだろう。

 PIPsは、企業間でやりとりされるビジネスプロセスを7つに分類している。それぞれの分野は「クラスタ」と呼ばれている。

クラスタ1:取引先/製品/サービスの参照
(Cluster 1: Partner, Product and Service Review)
取引相手の取り扱い製品情報などを参照する
クラスタ2:製品情報
(Cluster 2: Product Information)
製品の詳細な情報や技術情報を定期的にアップデートする
クラスタ3:受発注管理
(Cluster 3: Order Management)
製品の注文やカスタマイズ、発送、返品、入出金などのやりとり
クラスタ4:在庫管理
(Cluster 4: Inventory Management)
補充、共同管理、価格制限、条件付き製品の割り当てなどを含む在庫管理
クラスタ5:マーケティング情報管理
(Cluster 5: Marketing Information Management)
キャンペーンプラン、先行情報などマーケティング情報の交換、
クラスタ6:サービスとサポート
(Cluster 6: Service and Support)
販売後の技術サポート、サービス契約、資産管理などが可能
クラスタ7:製造管理
(Cluster 7: Manufacturing)
製品デザイン、構成、製造プロセス、製造量などの、製造にかかわる情報の管理

 それぞれのクラスタの中に、実際にやりとりされる文書の形式とワークフローが細かく定義されたPIPが定義されている。例えば、クラスタ2に含まれる「2A2番」のPIPは「製品情報問い合わせ」のためのPIPだ。RosettaNetのホームページでは、このように7つのクラスタに属するすべてのPIPのリストがPIP Directoryのページで公開されている。

RNIFで通信プロトコル、電子署名などを枠組みを決める

 PIPsによって文書形式とワークフローが定義されたら、それを通信プロトコルに乗せてやりとりすることが必要だ。そのRosettaNetの通信プロトコルを決めているのがRNIF(RosettaNet Implementation Framework)である。具体的には、通信プロトコル(HTTP、HTTPS)、電子署名、認証など、インターネットを介して通信を実現するために必要な技術要件を規定している。

 RNIFの最新バージョンとして2001年9月にRNIF 2.0の確認作業が終了し、リリースされた(プレスリリース:RosettaNet E-Business Standards Consortium Releases Validated Implementation Framework)。RNIF 2.0では、eマーケットプレイスのような仲介取引がサポートされ、さらにXML文書と同時にGIF形式の画像やPDFファイルそのほかのバイナリ形式のファイルの送受信がサポートされたため、従来よりも柔軟な情報交換が実現されている。

 RNIF 2.0ではセキュリティも強化され、S/MIMEもサポートしたことで、RosettaNet以外の標準技術との整合性も取りやすくなるという。また、あまり大規模な取引を行わない中小規模のBtoBのために、同期通信もサポートした。同期通信は1度のセッションで送受信を行うため、複雑なサーバの動作が不要になり、よりシンプルなアプリケーションでRosettaNetへの参加を可能にするという。

 以上が、RosettaNetによるビジネスプロトコルの内容だ。Dictionary、PIPs、RNIFの3つのレイヤに分かれていることを理解していただけただろう。

さらに領域を広げるRosettaNet

 RosettaNetの仕様をみていくと、取引相手を探したり、初めての取引相手と取引相手と支払い条件や仕入れ条件などについて契約を結ぶための機能などがないことに気が付く。つまりRosettaNetを利用するには、すでに取引相手や取引条件が決まっており、あとはBtoBを実行するだけ、ということが前提となっているようだ。

 しかしRosettaNetは2001年4月に、RosettaNetが定義する83種類のビジネスプロセスをUDDIに登録したと発表した。UDDIを検索することによってRosettaNetをビジネスプロトコルとして採用している取引先を探すことが可能になる。さらにUDDIに登録された企業情報によって、自分の望む製品を扱っている企業かどうかも確認できるようになる。このように、不足している部分をUDDIのような他の標準にまかせて連係することで、引き続きRosettaNetは、取引相手が定まった後にBtoBを実現するための標準として機能し続ける目論見のようだ。

 さらに、RosettaNetはほかの標準との相互運用性を目指し、RNIFの将来のバージョンでebXMLのメッセージングサービスをサポートすることも表明している(RosettaNet to Support Messaging Services Specification Developed by ebXML Initiative)。

 また、現在はIT、EC、SM業界とその取引相手に絞った活動をしているRosettaNetだが、その業種を広げようとしていることも明らかにしている。テレコム関係、自動車業界など、現在のRosettaNetが対象にしている業界へ隣接する業界へも利用を働きかけることで、その領域を広げていこうというのがRosettaNetの今後のシナリオだ。

 RosettaNetは、コンソーシアム方式によって標準的なビジネスプロトコルを構築している例として成功している注目すべき事例だ。また、IntelやSonyなど、IT業界の重要なプレイヤーが積極的にサポートしている点もBtoBの中で重要な意味を持つ。今後ビジネスプロトコルが発展、変化していくなかで、RosettaNetの動向は非常に大きな割合を占めるはずだ。

 次回は、あらゆるビジネスに対応したBtoBの理想の実現を目指したebXMLについて解説する。

第3部〜BtoBの理想を目指したebXML

Index
XMLビジネスプロトコル
  第1部〜BtoBを支える「ビジネスプロトコル」の全貌
・ビジネスプロトコルは複数レイヤを包括する
・なぜビジネスプロトコルが必要なのか?
・ビジネスプロトコルの大統一に向けて
第2部〜ターゲットを絞ることで成功したRosettaNet
・IT業界のBtoBに、関連業界が参加して発展
・PIPsで文書構造とワークフローを定義
・さらに領域を広げるRosettaNet
  第3部〜BtoBの理想を目指したebXML
・ebXMLのアーキテクチャ
・CPP/CPAをパートナーとやりとりする
・ebXMLで仕様として決まったこと、決まらなかったこと
  第4部〜eマーケットプレイスの標準言語xCBL
・xCBLはeマーケットプレイスベンダによって作成された
・xCBLのアーキテクチャ
・xCBLとeマーケットプレイスの将来


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