短期連載:SOAベンダ動向レポート(1) Page 2


2004年夏、大手ベンダのSOAバトル開幕

岩崎 史絵
2004/8/21

エンドユーザーを囲い込むIBM、技術者向けのBEA

 こうした動きに機敏に反応したのが、IBM、BEA、マイクロソフトといった大御所たちだ。もともとJ2EEやWebサービス技術は各社の“お家芸”。技術的な優位性と、完全ネイティブ対応であることを背景に、一気にSOA熱が加速した。具体的にはSOA開発キット・実行エンジンをリリースし、技術者・経営者を問わずあらゆる層へとアピールしている。ただし各社の戦略は若干異なるようだ。

 IBMは今年5月、WebSphere製品群に新たに「WebSphere Business Integration Server Foundation V5.1」(WBI SF)と「WebSphere Studio Application Developer - Integration Edition v5.1」(WSAD-IE)を追加した。また、本稿公開の直前となる8月18日には「WebSphere Business Integration Modeler Version 5」(WBI Modeler)を発表した(日本語対応版の発売は9月30日予定)。

 WBI SFは、ビジネスプロセス記述言語「BPEL」を実行するエンジンであり、サービスの呼び出し・実行機能を持つ。実際のビジネスプロセスおよびサービスの定義は、WSAD-IEが受け持つ。WBI Modelerは、BPELに準拠したフォーマットで業務プロセスをモデリングするツールだ。大量のメッセージングデータのやりとりには「エンタープライズ・サービス・バス」(ESB)というレイヤを用意しており、新規サービスの開発からSOA実装まで一手に引き受けてしまうものだ。

 IBMのSOA戦略で特徴的なのは、ビジネスモデリングなど上流工程を重視していることだろう。昨年買収した米Rationalのモデリングツール「Rational Rose」とWBI Modelerを対応させるなど、ビジネスプロセスの可視化と再定義を実現。その実装手段としてWebSphere製品群を提供し、上流のエンドユーザー層を中心に実装工程までを一気に囲い込む戦略だ。

 対するもう一方の雄、BEAの目はむしろ技術者に向いているようだ。「JavaOne 2004」で披露したWebLogicの「Beehive」は、同製品の開発ツール「WorkShop」の上で動くプログラミングモデルをオープンソース化したSOAフレームワーク。オープンソースであるが故、WebLogic以外のEclipseやTomcatなどのオープンソース開発環境/J2EEサーバ上でも稼働する。IBMの戦略が「上流から下流まで」SOAという手法を使いWebSphereで囲い込む戦略ならば、BEAは「オープンプラットフォームによるSOA基盤」を打ち出し、技術者の関心を引き付けるものだ。BEAが得意とする再利用可能なソフトウェアコンポーネントも70種類以上(2004年8月時点)用意し、SOAによるシステム開発を支援する構えだ。

 またBEAでは、異機種システムを連携する分散コンピューティング技術「Liquid Computing」という戦略を打ち出している。これを具現化するため、複数システム間でメッセージングを行うESB「Project Quicksilver」の開発を進めているという。アナリストによると、この戦略は「J2EE一辺倒だったBEAにとって、飛躍するための大きな一歩となる」という評価が一般的だ。

.NETでSOAを提唱するマイクロソフト

 こうした中、マイクロソフトが今年3月に発表したのが「BizTalk Server2004」だ。BizTalkはもともとシステム連携ミドルウェアとして提供されてきたもので、最新バージョンになりWebサービス対応が強化されたという。具体的には、メッセージングフロー(ビジネスプロセス)の設計・実装が強化され、企業内・企業間などさまざまな場面で効率的にシステム連携できるようになった。なお、ビジネスプロセスの設計・変更に当たっては、「条件部分」を別途切り出すことで、全体的なフローを組み直すことなく、簡単に修正・追加できる。外部システムからのメッセージはXMLに変換され、メッセージの内容に従って.NETもしくはCOMベースのコンポーネントが処理を行う仕組みだ。

 BizTalk Serverの強みは、VBや.NETなどマイクロソフトのネイティブ技術を活用してSOAベースのシステム開発ができること。さらに価格的にも、WebSphereやWebLogic、そのほかのEAIツールなどに比べて格段に抑えられるので、投資対効果が大きいことだ。

後発組のオラクル、サン、そしてXMLコンソーシアムの動向は?

 SOA戦略で先行するIBM、BEA、マイクロソフトに猛追の構えを見せるオラクルは、6月に米ベンチャー企業「Collaxa」を買収し、その主力製品「BPEL Server」を「Oracle BPEL Process Manager」として、直ちに発売を開始した。企業買収という強引な手法を取らざるを得なかったオラクルの戦略に、米国で勃発したSOA戦争の激しさが見て取れる。

 UNIXサーバ販売の落ち込みで苦境に立つサン・マイクロシステムズも「Kitty Hawk」と名付けたSOA構想をJavaOne 2004で発表した。Javaを保有する本家ではあるが、最初の製品リリースは2005年前半と、出遅れた印象はぬぐえない。

 日本にも目を向けてみよう。主要なITベンダで構成される「XMLコンソーシアム」では、既存の「テクノロジー部会WebサービスWG」を「SOA部会」に改編し、7月に第1回、8月に第2回ミーティングを行っている(@ITニュース記事参照)。従来のWebサービスWGでは技術論中心の活動内容だったが、より上流のビジネスモデリングまで扱うことになるSOAというテーマに対して、ビジネスの視点を重視する姿勢を打ち出している。今後は月1回、SOA部会とBI研究部会が共同でミーティングを重ねていくという。

 以上、見てきたように、“SOA”というキーワードを背景に、パッケージ、EAI、J2EEサーバなどのベンダがそれぞれ独自路線を打ち立てている。中でも、J2EEサーバで火花を散らしたIBMとBEAが、SOA分野でもまったく別の戦略を立て、それぞれエンドユーザーならびに技術者の囲い込みを模索しており、今後どうなっていくのか興味深いところだ。

 次回以降、IBM、BEA、マイクロソフトの3社に絞って戦略・製品を詳しく説明していこう。(次回に続く)

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 Index
短期連載:SOAベンダ動向レポート(1)
2004年夏、大手ベンダのSOAバトル開幕
  Page 1
・IT業界の台風の目「SOA」
2004年、SOA戦争が勃発?
Page 2
・エンドユーザーを囲い込むIBM、技術者向けのBEA
・.NETでSOAを提唱するマイクロソフト
・後発組のオラクル、サン、そしてXMLコンソーシアムの動向は?

SOAベンダ動向レポート


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