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「経営とITの融合」は、最重要経営課題と認識せよ!

アビームコンサルティング株式会社
工藤 秀憲
2006/1/24

- 経営に貢献するIT投資実現のために何をすべきか!

 ここでは、真に経営に貢献するITを実現するために、経営者が何をすべきか述べていこう。

1 ROI視点でのIT投資の判断を強化する

 ROIを大きくするには、リターンを大きくするか、少ない投資で有効な情報システムを構築することだ。

 日本の情報システム開発は、微に入り細をうがち機能が拡大する傾向にある。機能の拡大は、開発コストの増大ばかりでなく、完成後のメンテナンスにも多大なコストを必要として負のスパイラルを形成してしまう。必須機能に開発の焦点を絞ることや個々の機能を極力シンプル化することによって、開発コストを削減すれば、

  1. 開発投資への意思決定が早く容易になる
  2. 低価格な開発コストであれば、失敗を恐れず多くの新しいビジネスモデルにチャレンジできる
  3. 開発の失敗リスクは減少し、短納期でシステムの完成ができる
  4. メンテナンスコストが削減でき、新規投資に回すことができる
など、正のスパイラルを形成することが可能になる。

 また、ROI視点で投資する際の“コンセプト”を見直すことも必要だ。

  1. プロジェクトのスモールスタート
  2. 時代を先取りした早期開発着手と短納期開発
  3. 多彩なビジネスモデルへの果敢なチャレンジ
  4. 完成後の成果に対する早期判断と次のアクションへの迅速な対応

などが、目指すべき情報システムのコンセプトである。

2 業務プロセスの改善を継続的に行う仕組みを実現する

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 情報システムの投資を一過性の業務改革に終わらせず、継続的な改善活動として定着させることが必要となる。

 最近の市場は劇的かつ継続的に変化しており、情報システムもその変化に合わせて継続的な改善を実施しなければならない。そのためには、情報システム開発後の業務プロセスに対する継続的な改善とシステム評価ができる体制作りと予算化をする必要がある。そうした継続的な業務プロセスの改善には、アジャイルな情報システム──すなわち俊敏な対応ができる柔軟な情報システム作りが非常に重要であり、そのためにはSOA(Service Oriented Architecture)に基づく情報システム作りが求められる。

3 IT導入とワークスタイル改善は同時に取り組む

 ITによる経営貢献には、ITの導入と連動してビジネス・ワークスタイルの改善が必須である。

 意思決定の早期化、会議の削減による客向きの作業の増加、ワークフローによる根回し時間の削減、各種情報に対する迅速な上位下達とアクションなどと相まって、真にITが有効に機能を発揮するようになる。例えば、ITによって素晴らしいCRMシステムを導入しても、担当者が発信する顧客情報に対して上位役職者から何の指示も出なければ、単に情報の収集・蓄積が早くなったばかりで何の効果も生み出さない。また、各種データを情報システムに入力して統計データが出たとしても、従来と同じ報告会を開いてヒアリングしていては、効率化にはつながらない。

 こうしたワークスタイルの改善には、企業人としての人材育成が必須である。それは業務効率化や売り上げ向上といった目的だけでなく、セキュリティ対策やコンプライアンスにもつながる。

 続発する企業犯罪をITによるセキュリティ強化だけで防止しようとすると、セキュリティ対策としてのIT投資がますます増大する。従業員個々人におけるモラルの向上、会社へのロイヤリティの向上、作業意欲の向上と相まってこそ、ITの効果が増大する。

4 IT導入の目標を全体最適視点にする

 ITの導入目的を顧客満足(CS)度の向上に基軸を移し、結果として全体最適なシステム導入を目指すことが不可欠である。

 日本の企業は、ビジネス全体をいくつかのビジネス・ユニットに細分化し、そのユニットごとに責任者を配置して各ユニットで最大の成果を出せるようなマネジメントスタイルを取ることが多い。いわゆる“部分最適の積み上げ”によって全体最適を目指してきたといえる。

 そのため、ITの導入は各ユニットの最適化が目的になっていることが多く、この方式では各ユニット間の不整合などの弊害も顕在化し、全体最適でデザインされた米国の方式に比較して優位性を保てなくなっている。

 ITの経営貢献を向上させるためには、お客さま視点の満足度向上を目的とした全体最適のシステムを、BPM(Business Process Management)視点で導入することが必要になっているのである。

 以上のように「経営とITの融合」は、“企業のトップリーダー”が、中期最優先経営課題として取り組み、全従業員の参加の下に全体最適を目指す経営革新運動として戦略展開する必要があるのである。

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「経営とITの融合」は、最重要経営課題と認識せよ!
  Page 1
ITの進歩と時代の変化
いま、なぜ「経営とITの融合」が強く求められているのか!
 ITへの投資対効果に対する経営視点からの反省
 企業経営におけるIT活用の重要性が拡大
 グローバル・ガバナンス強化の必要性の増加
 IT品質と経営品質の関係深化
 CSRを向上させるためのIT
Page 2
経営に貢献するIT投資実現のために何をすべきか!
 ROI視点でのIT投資の判断を強化する
 業務プロセスの改善を継続的に行う仕組みを実現する
 IT導入とワークスタイル改善は同時に取り組む
 IT導入の目標を全体最適視点にする

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要約
最近、真に経営に貢献するITの必要性が強く求められるようになってきた。こうした要求は、「ITへの投資対効果に対する経営視点からの反省」「企業経営におけるIT活用の重要性が拡大」「グローバル・ガバナンス強化の必要性の増加」などから出てきたものといえるだろう。

これら課題への対策として、「ITと経営の融合」が必須な時代に突入している。その実現のために経営者は何をなすべきだろうか?

1つには、「ROI視点でのIT投資の判断を強化すること」。日本の情報システム開発は、機能が拡大する傾向にある。必須機能を絞り込むことで開発コストだけでなくメンテナンスコストも削減され、IT投資の正のスパイラルを形成する。

このほか「業務プロセスの改善を継続的に行う仕組みを実現すること」「IT導入とワークスタイル改善は同時に取り組むこと」「IT導入の目標を全体最適視点にすること」などが求められる。

「経営とITの融合」は、“企業のトップリーダー”が、中期最優先経営課題として取り組み、全体最適を目指す戦略を展開する必要がある。

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profile
工藤 秀憲(くどう ひでのり)
GISコンサルティング株式会社 代表取締役社長
アビームコンサルティング株式会社 顧問
1970年、九州大学 理学部卒業後、NEC・日本電気(株)に入社。1996年にNEC・製造業システム開発本部長、Obtech LLC(ボストン)取締役、Obtech Asia(株)(シンガポール)取締役に着任。以後、Canopy(株)(ボストン)取締役、NEC・理事・第三システム事業本部長、NEC・システム・サービス事業本部長、NECソフト(株)・執行役員常務などを歴任。2005年にNECソフト済南/NECソフト北京(ともに中国)の董事長、GISコンサルティング株式会社の代表取締役社長、アビームコンサルティング株式会社の顧問に就き、現在に至る。
著書:ポスト「万博、空港」を考える(共著/唯学書房)、飛び出せ日本人!日・米・中国人のビジネスと生き方(創英出版)、データベーススペシャリスト(共著:中央情報処理開発協会)ほか。
情報処理技術者資格:「システム監査技術者」「アプリケーションエンジニア」「ネットワークスペシャリスト」


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