環境変化に俊敏に対応する企業を目指して

アジャイル・エンタープライズとは何か?

ベリングポイント株式会社
土谷 伸司
南出 修
2006/1/17

- 俊敏な企業を実現する仕組み
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 これまで述べてきたように、俊敏な企業の実現にはいくつか越えなければならないハードルがある。特に、経営とITの融合に関してハードルが高い。欧米のIT先進企業では、業務とITの部門から要員を招集し、ビジネスプロセス・コンピテンスセンター(BPCC)と呼ばれる組織を立ち上げ、経営とITの融合に挑戦する例が見られる。BPCCについて概要を紹介しよう。

1.ビジネスプロセス・コンピテンスセンターの役割

 BPCCは、図2に示すようにアジャイル・エンタープライズを構成する3階層の壁を越えて経営とITの融合を進める組織であり、主に以下の役割を期待される。

図2 ビジネスプロセス・コンピテンスセンター(BPCC)

-ビジネスプロセス・アーキテクチャの構築

 あるべきプロセスを設計する場合には、誰がエンド・ツー・エンドのプロセスに対して権限と責任を持つのか、どの程度詳細レベルまで設計するのか、どこまでを標準プロセスとしどこからを例外処理とするのか、プロセスに関するKPIを何にするのか、といった疑問に答えねばならない。これらの判断基準となるのがビジネスプロセス・アーキテクチャである。

-プロセス・エンジニアリング

 従来のように業務部門でまとめた要件をIT部門がシステム要件に翻訳し、プログラミングのための設計書に展開するのではなく、関連部門から集まったBPCC要員が一堂に会して、ビジネスプロセスの構想と情報システムの概要設計を行う。そのために技術者でなくてもビジネスプロセスを表記できるBPMNを共通言語として活用する。

 また、BPCCはビジネスプロセスのライフサイクル全般にわたってプロセスの改善に責任を持ち、常に最適な状態が保たれるように、適切なKPIを設定してプロセス状況を監視し、必要が生じれば速やかに対応する。

-標準、方法論およびツールの導入と管理

 BPMNの統一などプロセス設計にかかわる標準を定めるほか、業務改革の方法論を定義する。そして、そのために用いるITなどのツールを導入し、適切に運用されるように管理する。

2.BPCCに求められるスキルセット

 BPCCは、その役割の多様性から、以下に示すようなさまざまなスキルセットの要員によって化学反応が生じるときに最大の効果を発揮する。

  • ソリューション・アーキテクト/ストラテジスト
  • プログラム・マネージャ
  • 業務の専門家
  • IT技術の専門家

3.BPCCの重要成功要因

 当然のことだが、BPCCなる名称を持つ組織を立ち上げることが重要なのではない。差し当たっては、経営企画やIT企画、情報システムといった部門が、その役割を果たすことが現実解かもしれない。いずれにせよ既存部門とBPCCとの間には多くのギャップがある。それらをいかにして埋めるのか。組織によって具体策は異なるにせよ、それぞれの企業において真剣に検討し議論を深めていただきたい。BPCCのような仕組みを活用する場合に、特に

  • 役員層の名ばかりでない後押し
  • プロジェクトの品質とリスクの管理
  • ビジネスの優先順位との整合性
  • (通常最も忙しい)適切な要員の配置

といった点に留意すべきだ。

- 経営改革手法としてのビジネスプロセス・マネジメント

 これまでに、業務プロセスを対象として経営とITの融合を図り、俊敏な企業の実現を目指す取り組みを紹介した。これがビジネスプロセス・マネジメント(BPM)である。

 ここで確認しておくと、BPMは本来パッケージ・ソフトウェアの範疇(はんちゅう)ではなく、業務改革の手法である。これを忘れると、ちまたにあふれるパッケージ・ソフトウェアを導入すると業務の改革が実現するかのような錯覚に陥らないとも限らない。この点を考慮し本稿では個別のソフトウェアには言及しなかったが、BPMの成功にITが与える影響は大きく、ソフトウェアの選定が重要であることはいうまでもない。これについては別の機会で触れたい。

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  連載:一問一答式:BPM実践テクニック(@IT情報マネジメント)
  連載:BPMNを活用したビジネスプロセス・モデリング(@IT情報マネジメント)

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index
アジャイル・エンタープライズとは何か?
  Page 1
俊敏な企業だけが生き残る
顧客指向で業務プロセスを改革する
株主および社会への説明責任を果たす
自社の業務効率を向上させる
経営とITの融合
 1.現状をタイムリーに把握できない
 2.IT対応が後手に回る
Page 2
俊敏な企業を実現する仕組み
 1.BPCCの役割
  -ビジネスプロセス・アーキテクチャの構築
  -プロセス・エンジニアリング
  -標準、方法論およびツールの導入と管理
 2.BPCCに求められるスキルセット
 3.BPCCの重要成功要因
経営改革手法としてのビジネスプロセス・マネジメント

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■要約
企業が生き残りをかけて競争優位を築く際に、見逃せないのが変化への対応能力である。企業が継続的に成長するには、「俊敏な自己変革能力」が欠かせない。

変化に対する俊敏な対応とは、顧客に対しては顧客視点の業務プロセスの検討であり、株主および社会に対しては財務情報の信頼性と業務やデータ処理の統制であり、そして従業員などの内部ステークホルダーにとっては、業務効率化への取り組みを意味する。

企業の俊敏性は、戦略立案、業務管理、実行の整合性の欠如や連携の遅さによって妨げられている。俊敏な企業の実現には、いくつか越えなければならないハードルがある。特に、経営とITの融合に関してハードルが高い。

これを打開するため、欧米ではビジネスプロセス・コンピテンスセンター(BPCC)と呼ばれる組織を立ち上げる例が見られる。関連部門から集まったBPCC要員が一堂に会して、ビジネスプロセスの構想と情報システムの概要設計を行い、経営とITの融合を実施するのだ。

こうした業務プロセスを対象として経営とITの融合を図り、俊敏な企業の実現を目指す取組みがビジネスプロセス・マネジメント(BPM)である。

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profile
土谷 伸司(つちたに しんじ)
ベリングポイント株式会社 マネージャ
レスター大学MBA。大手電機メーカー、ソフトウェアベンダを経て2000年にベリングポイント入社。e-ビジネス、SCM関連のコンサルティングを経て、公益事業向けのビジネス開発に従事している。事業戦略に基づくIT戦略の立案と実現化を得意とし、BPM/SOAに関するソリューション開発を手がけ執筆、講演多数。
南出 修(みなみで おさむ)
ベリングポイント株式会社 シニアコンサルタント
監査法人系コンサル会社を経て2004年1月にベリングポイント入社。主に製造業向けに多くのERPビッグバン導入プロジェクトを経験し、会計とSCMの業務連携、プロジェクト管理などを担当した。現在プロジェクト業務の傍ら、内部統制に関するソリューション開発と啓蒙活動に従事している。


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