連載
KIU研究会レポート(3)


ビジネスプロセス志向の組織体制とITプラットフォーム

生井 俊

2006/3/30

前のページ1 2第4回

ESAとそれを支えるプラットフォームSAP NetWeaver

 
Speaker
SAPジャパン株式会社
ソリューション本部 プラットフォーム ソリューション ディレクター
菅沼 隆太氏
   

 SAPは、日本ではアプリケーション(ERP)ベンダのイメージが強いが、ビジネスプロセスをサポートしていくプラットフォームベンダへと転換してきている。そのプラットフォームを提供するのがNetWeaverという製品だ。

 SAPはこれまでも、さまざまなビジネスモデル、ビジネスシナリオをサポートしてきた。お客さまにはパッケージに対して合わせてもらっていたが、インターネット時代になって外部との連携などが増え、ERPや各種パッケージソフトとの組み合わせだけでは対応し切れないことが多くなってきた。このようにIT設計において、変化への対応、スピード感、柔軟性の必要度が高まり、サービス指向の流れに対応するための新しいアーキテクチャが求められている。

- PR -

 それに対応するのがSAPのエンタープライズ・サービス・アーキテクチャ(ESA)で、Webサービスを提供し、ビジネスの変化に対応していくことをサポートしていく考え方だ。スピード感を持ったシステム構築や、ネット環境を変えていかなくてはいけないことに関しては、いまある環境と新しい環境をどう融合させていくかがポイントとなる。これはパッケージとパッケージをつないだり、インターフェイスを提供するだけではなく、そこをデザインして融合できるプラットフォームを提供することが必要だ。その統合的なプラットフォームとなるのがNetWeaverで、これを使うことで既存環境をうまく融合する環境を築いていこうと考えている。

 SAPソリューションのこれまでの進化の流れを振り返ると、SAP R/3のようにクライアント/サーバ型で提供し、ヒト・モノ・カネを1DB(ワン・データベース)に登録してリアルタイム統合していた時期から、現在のようにmySAP Business Suite on SAP NetWeaverのような形で、Business Suiteがオープンなプラットフォーム(NetWeaver)に載る形になってきている。上に載るアプリケーションはNetWeaver上でリデザインし、かつWebサービスが使えるものを増やしていく。そして、ERPの機能を全部使うのではなく、パーツごとに実装できる仕組みを提供する。これが、Business SuiteがNetWeaverに載ってきている状況だ。

図5 SAPソリューションはモノリシックシステムから、柔軟なシステムに進化している

 ビジネス視点に立ったとき、SOAは必要だがそれだけでは不十分だ。アプリケーションベンダとしてはエンタープライズサービス(ES)を充実させていく。SOAとESを合わせたものがESAで、2005年からの3年間ですべてのアプリケーションのサービス化に対応していく。お客さまに対する価値としてESAを実現することで、1人1人の生産性向上、リアルタイムな可視化に加え、会計パッケージなどのパーツ、エンジンやモデリングツールを組み合わせることで競争優位を保てるプラットフォームを実現できると考えている。

 SAP NetWeaverアプリケーションプラットフォームについてだが、インフラストラクチャから、アプリストラクチャへと進化していく。アプリストラクチャとは、インフラとビジネスプロセス・プラットフォームを組み合わせたものだ。NetWeaverに関しては、第1世代のトランザクションプラットフォーム(実行環境)、第2世代のインテグレーション(統合)プラットフォーム、第3世代のコンポジション(複合)プラットフォーム、そして第4世代のビジネスプラットフォームへと進化させていこうと考えている。

 SAP NetWeaver 2004は、ポータルやマスタ管理、J2EEなどさまざまなコンポーネントがあり、これをバラバラで提供するのではなく、単一でリリースしている。あとは、システム管理基盤としてアプリケーションサーバを提供する。

 現在出ているのがSAP NetWeaver 2004sで、最後の「s」はスイートの意味だ。パーツとしてポータルやEAIがそろい、コンポジションプラットフォームとして位置付けて提供している。

 mySAP 2005は、NetWeaverの上にCRMやERPがあり、Webサービスレベルで使えるものを300ほど選び、1つの統合リポジトリの中に入れて提供している。CRMやERPがどこにあるか気にせず使え、プラットフォームとしてNetWeaverがある。SAPの製品ではあるが、Powered by SAP NetWeaver 2004sという形になる。またワールドワイドで、NetWeaver上で動く製品を増やすようなパートナープログラムを始めている。

ビジネスシナリオの視点を提供

 ITの問題点だが、ビジネスプロセスはテクノロジコンポーネントと合致しているわけではない。ビジネス要件を満たすためには、ITも変化しなければならない。コンポーネントベースで提供してきたものに、ビジネスシナリオを付けて提供していく。

 コンポーネントに依存しない考え方として、テクノロジマップを提供していく(図6)。SAP NetWeaverのテクノロジマップ2005では、ITプラクティスに対して、どういうソリューションがあるかをまとめている。データ統合やビジネス情報管理のように大きく10のプロセスに分け、ソリューションアウトではなく、シナリオアウトでまとめているのが特徴だ。ビジネスプロセスに対して、1つのソリューションではなく、さまざまな視点からツールやテクノロジを提供していく。

図6 ITプラクティスに対するSAPソリューションを示すテクノロジマップクリック >> 拡大

 次にESAアダプションプログラムだが、いまのシステムの中でどういった課題があるのか──まずは、見えているところと、見えていないところがあるのでディスカッションする。そしてどこからやるか評価し、実際導入して運用という4つの体系に分け、アプローチできるプログラムを用意する。お客さまの状況を把握しながら、ITの課題をベースに、アダプションプログラムを提供している(図7)。

図7 ESA採用手順を示すアダプションプログラム

 今後は、ソフトウェアベンダ用の認定プログラム「Powered by SAP NetWeaver」で、ソフトウェアベンダ同士が結び付いて、ニーズに合ったソリューションを提供していくことも想定している。また、簡単に変革でき、簡単に横展開していける仕組みを提供していくことに注力していく。

筆者プロフィール
生井 俊(いくい しゅん)
1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。
■要約■
「経営とITの融合」研究会の第3回会合の模様をお伝えする。

ベリングポイントの土谷氏は「俊敏な企業だけが生き残る時代になった。業務改革を考えるとき、自社の経営陣および従業員の視点で、いかに業務プロセスを改善・効率化していくかが重要なポイントになる」としたうえで、戦略を決めていく経営企画、業務を設定していくオペレーション、実行する部門という3つの組織階層がうまくかみ合うかどうかが課題となると指摘した。

それを解決する1つの試みとしてBusiness Process Competence Center(BPCC)を提唱する。これは戦略、オペレーション、実行の各組織から人を出し、「ビジネスのアーキテクチャ」「プロセスのエンジニアリング」「標準」「手法」などの定義をやっていこうというもの。継続的組織とすることで、知識やノウハウを1カ所に蓄えていくことが可能になる。

SAPジャパンの菅沼氏は「SAPはビジネスプロセスをサポートしていくプラットフォームベンダへと転換してきている」としてプラットフォーム製品のNetWeaverを紹介。同製品がインフラストラクチャから、アプリストラクチャへと進化していると説明した。

前のページ1 2第4回

ビジネスプロセス志向の組織体制とITプラットフォーム
  Page1
Agile Enterpriseに向けたBPMの活用
BPCCを中心とした取り組み
→ Page2
ESAとそれを支えるプラットフォームSAP NetWeaver
ビジネスシナリオの視点を提供



この記事に対するご意見をお寄せください managemail@atmarkit.co.jp