クラウド時代、導入効果はこうして見定める!クラウド時代の業務分析バイブル(1)(3/3 ページ)

» 2010年10月28日 12時00分 公開
[西村泰洋,富士通]
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プロセスごとに、4つの視点で新旧を徹底比較せよ!

 では次に、簡単なケーススタディを使って、具体的にはどのように業務分析を進めるのかをご紹介しましょう。出張などで利用したときのことを思い浮かべてもらえれば誰にとっても分かりやすいことから、ここでは「ホテルリネンのクリーニング業務」をケースとして取り上げたいと思います。

 ホテルリネンのクリーニング業務では、各地のホテルから日々集まってくる使用済みのタオル、シーツ、枕カバーなどを1個所の工場で洗濯し、乾燥させ、仕上げをして、各地のホテルに返しています。

 現行業務では、工場に届けられた使用済み品を「タオル、シーツといった品目ごとに仕分けし、洗濯、乾燥、仕上げを行い、保管を経て、各ホテルに配送する」という業務プロセスを採っています。しかし、「品目ごとに仕分けして、それぞれが一定数量まで到達したら洗濯をする」という方式を採っているため、各ホテルから回収するアイテムがおのずと混ざってしまいます。よって、どのホテルからから回収したアイテムなのかは分からない状態となっています。

ALT 図3 各地のホテルから日々集まってくる使用済みのタオル、シーツ、枕カバーなどを1個所の工場で洗濯し、乾燥させ、仕上げをして、各地のホテルに返す。この業務プロセスを整理すると以上のようになる

 こうした状況にある中で、クリーニング業務では「洗濯を終えて各ホテルに戻す際、数が大幅に不足してしまうため、在庫の適正化と、それによるコスト削減をしたい」と考えています。より具体的に言えば、 各品目とも「使用回数による消耗や破損などを見込んで補充しても足りない」という事態が頻繁に起きているので、「全品目ともホテルごとに洗濯をし、どのホテルで問題が起きているのかを明らかにする」とともに、「各ホテルの洗濯料金の適正化、各ホテルに対する損益の明確化を図り、経営効率を上げる」という目的を設定したのです。

 従って、以下の図4の通り、「新業務」では「品目による仕分け」はせず、「ホテルごとの仕分け」を行い、洗濯、乾燥を行う業務プロセスに変更しています。また、それに合わせて、これまでは使っていなかった「進ちょく管理システム」の採用を盛り込んでいます。

ALT 図4 現行業務と新業務の内容、比較した結果を整理する。ただ、この段階ではまだ新業務の“理想像”に過ぎず、ここから本当にこうした結果が望めるのか、数値で検討していく

 では、こうした新業務/新システムは、現行業務/現行システムに対して本当に効率的なのでしょうか? それを判断するポイントが、図4における「想定」という項目です。「仕分け」「洗濯」といった各業務プロセスにおいて現行業務と新業務で内容が変わることになります。そうした具体的な違いが出る各業務プロセスについて、前のページで紹介した4つの視点――処理時間/工数、品質/精度、コスト削減、経営効率/付加価値――で、新業務と現行業務のどちらが優れているのか比較して、総合的に結論を出すのです。

 ただ、不等号で表したこれらの結論は、まだ“仮の結論”に過ぎません。あくまで、新業務/新システムに移行するなら「こうあるべき」、移行したら「このような結果となってほしい」という理想像を反映したものです。そして、業務調査・分析とは、まさしくここからが本番となるのです。

 というのは、実際に現場で調査分析を進めていくと、必ずしも理想通りの結果が出ないことがあります。そうした“理想像とのギャップ”を把握できることが業務調査・分析の醍醐味であり、また必要性でもあるからです。

 確かに、まだ景気が良く、企業が比較的ゆとりを持っていたころには「こうあるべき」=「そうなるであろう」だけで新システムの開発を進め、稼動させていた時代もありました。しかしそうしたやり方では、結果的に新業務の方が非効率的になったり、余計な手間が掛かるようになったりするケースも少なくありませんでした。

 しかし、現在はそうした“失敗”が許容されるようなのどかな時代ではありません。だからこそ、業務調査・分析を行い、≪「こうあるべき」という理想像に対して「実際はどうなりそうなのか」、数字で明確に差異を把握し、新業務/新システムに移行する「効果」をシビアに検証し、概要設計に反映する、あるいはプロジェクトそのものを見直す≪必要があるのです。

新旧の差異はあくまで「数値」で検証する

 では、「数字で効果を検証する」には、具体的にはどうすれば良いのでしょうか。それを表したのが以下の図5です。6つの業務プロセスごとに、新業務/新システムに移行した際の効果を、以下のように数字を基にして比較していきます。

ALT 図5 各業務プロセスの工数を数字で明確化し、現行業務/現行システムと新業務/新システムの「工数」を比較する。なお、ここでは説明を分かりやすくするために「工数」だけで比較しているが、実際には「工数」のほか「業務処理量」「品質」などの基準でも比較する

 なお、ここでは分かりやすく説明するために、《何人/何分》という指標だけで工数を表していますが、現実の調査では、通常期/繁忙期も考慮に入れた「工程数」「生産量」「最大処理能力」なども指標として採用します。あるケースでは、《何人/何分》――すなわち時間や処理能力で新業務/新システムが負けてしまっても、「品質」(数値化のし方は前のページで紹介した4つの視点を参照)の向上が見込めるために採用となったこともあります。

 以上のように、業務調査・分析は、業務プロセスをあらかじめ理解し、関係者間で「当社の業務はこのようなプロセスで、このくらいの工数を掛けて実行されている」という共通認識を持つ、すなわち“現状を明確に認識”したうえで進めていくことが大きなポイントとなります。


 さて、今回は業務調査・分析の基本概念をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。「“理想像とのギャップ”を把握し、失敗のない判断を行う」ことが最大のポイントとなるのですが、これはビジネスのスピードが増し、ITシステム構築/導入にさらなるスピードと柔軟性が求められるクラウド時代になると、いちだんと重要な要件になると思います。そうした考えを込めて「クラウド時代の〜」というキーワードを含んだタイトルにしてみました。

 次回は業務調査・分析の軸となる「資料調査」「インタビュー、アンケート」「現場調査」のノウハウを詳しくご紹介します。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 第二FI統括部 フィールド・イノベータ ディレクタ。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」、@IT情報マネジメント「エクスプレス開発バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月発売)などがある。



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