戦略マップとビジネスモデルの融合実践! UMLビジネスモデリング(2)(1/2 ページ)

企業業務システムの設計は、業務の在り方(ビジネスモデル)に依存し、業務の在り方・進め方は、経営戦略に依存する。今回は経営戦略を明示化する戦略マップの作り方とビジネスモデルへのマッピングについて解説する。

» 2007年05月30日 12時00分 公開
[内田功志,システムビューロ]

 RUP(Rational Unified Process:IBM)ではビジネスゴールを導いて、それを達成するためにモデルを洗練することを推奨しています。そのビジネスゴールを導くためにSWOT分析などを行うようにガイドされていますが、詳細には規定されていません。

 一方、バランスト・スコアカード(BSC)でもSWOT分析を行うような流れになっています。そこで筆者たちはその一部分だけを使うのではなく、戦略マップを使うことを思い付きました。最初は大発見のように感じたのですが、後に多くの人たちがビジネスモデリングの際にBSCを利用することを提案していますので、当然の結果だったのかもしれません。ただ、実際の使い方は人それぞれのようです。

戦略マップの作成手順

 戦略マップとはBSCで扱われる図で、戦略目標をさまざまなビジネス要素との因果関係を併せて俯瞰(ふかん)することができるツールです。戦略マップを導くためには、まずビジョンを明確にする必要があります。BSCではさらに大本としてミッション(使命)やコアバリュー(中核的な価値)があって、それらに従ったビジョンがある、つまりミッションやコアバリューから逸脱しないビジョンを定義する必要があります。

ミッションとコアバリュー

 ミッションは、団体や企業あるいは事業単位などの組織体が何のために存在するのかを明確にします。コアバリューは、その組織体がどのような存在価値があるのかを明確にします。

 ミッションとコアバリューは日本では特に企業の場合は、企業理念として高く掲げているはずです。企業理念がミッションやコアバリューを含んでいると考えても間違いではありません。それらは時間が経過しても変化することがない揺るぎない信念ということになります。

 もし組織体の理念が明確ではない、またはミッションやコアバリューというには不十分という場合は、新たにミッションとコアバリューを定義する必要があります。

ビジョン

 ミッションとコアバリューが明確になった(または明確である)なら、それらを基にビジョン(組織体がどうなりたいか)を策定します。ビジョンを策定するには、環境分析または3C分析を使用します。

基本戦略

 ビジョンが明確になったら、それを実現するための戦略(組織体のゲームプラン)を立案します。戦略の立案には、SWOT分析クロス分析を使用します。

戦略目標と戦略マップ

 基本的な戦略が明確になったなら、これらを基に戦略マップを作成します。基本的な戦略といっても、実際には基本となる戦略目標が導かれているはずです。

 戦略マップにおける戦略目標は、『財務の視点』『顧客の視点』『内部プロセスの視点』『学習と成長の視点』の4つの視点からとらえます。これらは4つの階層と考えることができます。下位から上位へ因果関係が生じます。

 基本的な戦略目標が見つけられない場合は、因果関係が引けずに戦略マップにまとめることができなくなってしまいます。

ALT 図1 戦略マップの4つの視点

 この4つの視点は一般的な企業の例です。

 一般的な企業では、基本的な戦略目標のほとんどはこの『内部プロセスの視点』に属することが多いようです。SWOT分析とクロス分析でビジョンを実現するためにはどうすべきかが見えてくるために、まず内部プロセスをどうすべきかが明確になるようです。その『内部プロセスの視点』で得られた戦略目標が『顧客の視点』ではどんな戦略目標と因果関係を持つのか、さらに『財務の視点』ではどんな戦略目標と因果関係を持つのか、それらの因果関係をトレースしながら戦略目標を明確にしていきます。

戦略マップの各視点

 まず因果関係の順を追って、各視点を説明します。

内部プロセスの視点 ? われわれは何を行うのか?

 『内部プロセスの視点』では、内部的にどのようなことを行う必要があるのか、プロセスの定義や改善などの視点から戦略目標をとらえます。主に、クロス分析によって得られた基本的な戦略目標やそれらから派生したものがこの視点の戦略目標になります。

顧客の視点 ? それはどのように見られるのか?

 次に『顧客の視点』では、顧客を喜ばせるためにはどうすべきか、外側から戦略目標をとらえます。『内部プロセスの視点』でとらえた戦略目標を達成した場合は、『顧客の視点』ではどうなるのかといったことを考えて戦略目標を明確にします。

 例えば、『内部プロセスの視点』で「知名度を上げる」といった基本的な戦略目標が掲げられたら、『顧客の視点』では「購入意欲を向上する」といった戦略目標が見えてきます。

財務の視点 ? もうかっているのか?

 さらに『財務の視点』では、株主を喜ばせるためには財務をどうすべきか、経営側から戦略目標をとらえます。『顧客の視点』でとらえた戦略目標を達成した場合は、『財務の視点』ではどうなるのかといったことを考えて戦略目標を明確にします。

 例えば、先ほどの『顧客の視点』で「購入意欲を向上する」といった戦略目標が掲げられたら、『財務の視点』では「売り上げを増加する」といった戦略目標が見えてきます。

学習と成長の視点 ? 将来に備えているか?

 最下層の『学習と成長の視点』は、基本的な戦略目標を達成するために、内部のプロセスを実現維持する環境の整備や人材の育成をどのように行う必要があるのかをとらえるための視点です。

 従って『学習と成長の視点』では、内部プロセスの戦略目標を達成するために、能力開発や知的財産の向上の視点から戦略目標を明確にします。

 『学習と成長の視点』は、ほかの視点に比べてタイムスパンが長くなります。長期的な視点でとらえる必要があります。

戦略マップのバリエーション

 ここで挙げた4つの視点は、一般的な企業に対して設けた視点で、組織体によっては別の視点になったり、階層の順番が変わったりすることもあります。

 例えば、地方行政の場合には、財務の視点が最上位層に来ることはありません。最終目標は何かを考えます。

 地方行政の場合の顧客は住民(県民、市民、町民など)ですから、最上位層は実際には『住民の視点』になります。国の行政の場合は『国民の視点』ということになりますが、実際にはどうでしょうか? ぜひBSCを適用してもらいたいものです。

 さて、この『住民の視点』を最上位層に掲げ(ビジョンにも住民をどう喜ばせるかが織り込まれているはずです)、そこに到達するために「財務」というよりは、「財政」はどうすべきかを検討するのが自然だと思います。さらにその「財政」を達成するためには、「内部プロセス」はどうすべきなのかが決まるはずです。それを可能にするための長期的な視点で、人材の育成や設備の維持管理などを検討する必要があります。

 これらは単純な階層構造ではなく、実際にはもう少し入り組んだ階層構造になるかもしれません。企業の場合でも単純な階層とは限らず、入り組んだ階層構造になることもありますし、別の視点に変わったり、階層の順番が換わったりすることがありますので、対象が何であるのかを見極めて検討する必要があります。

ALT 図2 地方行政の4つの視点
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