クラウドの潮流を考える――らせん的進化・その2オブジェクト指向の世界(27)(1/3 ページ)

“らせん的に進化する”のは開発プロセスだけではない。今回はアプリケーション・アーキテクチャの変遷を見てみよう。

» 2009年05月22日 12時00分 公開
[河合昭男,(有)オブジェクトデザイン研究所]

 前回「世界はらせん的に進化する」では「RUPとアジャイル開発は互いに刺激し合いながらどのように進化してゆくのか?」という開発プロセスの問題を、アレグザンダーのパターン言語の視点から考えて見ました。

 メインフレーム向けソフトウェアの開発プロセスとして実績を積んできた従来型プロセスはウォーターフォール・モデルとして集大成されてきましたが、変更・拡張性の問題からそのアンチテーゼとして反復型が提唱されました。この反復型は、さらに変更・拡張性に優れたオブジェクト指向技術を導入して、RUPに集大成されます。続いて、短期・小規模開発には軽量なプロセスが必要になり、異なる価値観からRUPのアンチテーゼとしてアジャイル開発が提唱されました。

 プロセスは過去のさまざまな人・組織の経験に基づく知見であるプラクティスをベースに構築され、進化してきたものです。1つ1つのプラクティスはある問題の解決策であり、そのプラクティスの集まりとして構築されたRUPもXPもアレグザンダーの提唱するパターン言語と共通するものがあります。

 プロセスはプロジェクトの特性に従ってカスタマイズが必要になりますが、その参照モデルとしてRUPやXPなどは有用なものです。ここで原点に戻って、プロジェクトごとにプロセスを最適化するための技法としてプラクティスの知識ベースというものを構築・検索できるような仕掛けができないでしょうか? そこからプロジェクト固有のプロセスをパターン言語の技法をツールとして再構築できないだろうかという考え方もあるわけです。

世界はらせん的に進化する

 最近、クラウド・コンピューティングに注目が集まってきました。「世界にコンピュータは5台あればよい」というそれらのコンピュータが提供するサービスは、「電気のようにコンセントにプラグを差し込めば自由に使える」[1]ものです。それならば、各企業にとっては独自にシステム開発するよりも使用料を払った方がコスト低減効果が大きく、本来のビジネスに資源を集中することができる――。

 「クラウドとは何か?」については多数の書籍や雑誌記事に譲るとして、本稿では「クラウドの潮流を考える」と題して対話型のアプリケーション・アーキテクチャの変遷をマクロな視点から展望してみたいと思います。

 メインフレームの時代、オープン化の時代、インターネットの時代から来るべきクラウドの時代への大きな流れは、「歴史は繰り返す」「世界はらせん的に進化する」という言葉のとおり、何度かのイノベーションによる洗礼を受けて進化しながらも振り子の振幅のように揺り返しが起こり、どこかで見た同じようパターンが再現しています。「流れ去るものと普遍なもの」を見極めていこうというのが、そもそもこの連載を始めた筆者の意図です。

メインフレーム − 囲い込みの時代

 1970〜1980年代のメインフレーム全盛時代、ユーザーの操作端末はダム端末(dumb terminal)と呼ばれていました。ダム端末は単なる装置であって、端末はホストから送られてきた文字を画面に表示することと、キーボードから入力された文字をホストに送ることしかできません。アプリの処理は一切をホスト側で行います。これはWebアプリのサーバとPC上のブラウザとの関係と似ています。当初ブラウザの機能は入出力のみでアプリの処理は一切サーバで行っていました。ブラウザがダム端末に該当します。

 ホストコンピュータのダム端末は1980年代半ばごろから、よりインテリジェントなPCとなり、MS-DOSやCP/MなどのOS上で端末機能が動くようになりました。ホストのアプリの一部機能はインテリジェントなPCに下ろされ、ホストとPCが連携するマイクロ・メインフレーム・リンク(MML)が試行され始めました。これは後のクライアント/サーバ(C/S)型の走りです。これはアプリを上から下に押し出す圧力であり、オープン化/ダウンサイジングの伏線とも考えられます。

 メインフレーム時代にはメインフレーマーによる囲い込み合戦が行われてきましたが、1990年代になってその反動としてオープン化の波が押し寄せてきました。

ALT 図1 メインフレームによる囲い込みからインフラのオープン化へ

参考書籍
▼[1]『クラウド化する世界――ビジネスモデル構築の大転換』 ニコラス・G・カー=著/村上 彩=訳/翔泳社/2008年10月(『The Big Switch: Rewiring the World, From Edison to Google』の邦訳)

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