CEOはどう考えるかBPTrends(2)(1/2 ページ)

経営者が好むビジネス書には、機能的に分割された組織のモチベーションの改善からアプローチするものが多いようだ。それを当然とする状況を、われわれプロセス志向の専門家は革命的に変えていかなければならない!

» 2007年06月11日 12時00分 公開
[著:ポール・ハーモン, 訳:吉川昌澄(ウルシステムズ),@IT]

2004年度ベスト経営書

本稿は、米国BPTrends.comからアイティメディアが許諾を得て翻訳、転載したものです。

 ジョン・ロバーツ(John Roberts)はスタンフォード大学ビジネススクールの経済・戦略的マネジメント・国際ビジネスの教授だ。

 2004年、彼は「The Modern Firm: Organizational Design for Performance and Growth」(Oxford University Press)という書籍を出版した※1。英エコノミスト誌は、この本を即座にその年の最優秀ビジネス書と認めた。これは賢明なるCEOは読むであろう本である──私は同書がエコノミスト誌と賢明なるCEO諸氏にどんな思慮深いビジネス上のアドバイスを与えたのかを知るために、読んでみることにした。パフォーマンスと成長のための組織デザインに関する洞察を与えるだろう、という副題にも私は強くひきつけられた。

【参考書籍】
※1邦訳「現代企業の組織デザイン──戦略経営の経済学」ジョン・ロバーツ=著/谷口 和弘=訳/NTT出版/2005年

 ロバーツはこう切り出す。「ゼネラルマネージャの最も基本的な責任は、戦略の設定とそれを実現するように組織をデザインすることだ」。私は、その一文に強く賛同し共鳴した。ロバーツは続ける。(1)彼は戦略の研究における経済学の価値について語ること、そして、(2)これは“ハウツー本”ではなく、「パフォーマンスと成長のために組織をデザインする際に生じる問題に関する考え方」を述べるものだという。また、執筆の背景となる彼の研究に基づき、この本は次の2点を基礎としている。最初に「ゼネラルマネージャは組織の設計者でなければならないという命題」、第2に「経済学のアイデアは組織の問題について多くを語るという命題」である。後者はマイケル・ポーター(Michael E. Porter)によるところが大きいという。私は、マイケル・ポーターが現代のビジネスプロセス・マネジメント(BPM)理論の父だと考えており、とても興味深く読み始めた。

 ロバーツの本はよく書かれており、読みやすい。マネジメントに興味のある人なら必ず得るものがあるだろう。伝統的なマネジメントの書籍に倣って、多数の企業の成功例を挙げ、さらに読者を感動させるせりふや興味深いリサーチが添えられている。

 しかし結局のところ、私は失望してしまった。目次をちょっと見たところ、プロセスについては一度しか出てこない。アクティビティは文中で語られているが目次には登場しない。リーンシックスシグマSCORなど、現代のプロセス技術に関するリファレンスがない。ロバーツの「組織デザイン」とは、機能ユニットのアレンジを意味することが判明したのだ。機能ユニットの長に与えるインセンティブに重点を置いたモチベーションに関する章を設けることが、ロバーツには重要だったようだ。顕著な例として彼はこう書いている。「組織構造によりモチベーションも変化する。例えば、ビジネスユニットを小さくすることにより、さまざまな手段で強い影響力を発揮することができる。まず、より精度の高いパフォーマンス測定が可能となり、大きなインセンティブを与えることができるからだ」

プロセス志向とシニアマネージャの考え方の間にあるギャップ

 私が最初にこの本を読んだとき、もう読み返さないと心に決めた。ビジネスプロセスに関心のある人が興味を持つ本ではない。逆に、この本に対する私の反応を書くことにした。決してこの本を批判するつもりはない。ただ、プロセスの世界の人々に対して、ほとんどの企業が実践するマネジメント方法に何らかの大きな影響を及ぼすのは容易なことではないと伝えたかったからだ。ビジネスマネジメント理論の大家によって書かれたこの本は受賞作であり、市場から高く評価されている。これは、恐らく貴社のCEOがよく読むであろう本であり、CEOの「組織デザイン」や「パフォーマンス」といった言葉に対する従来の考え方を補強するものなのだ。

 私たち、プロセス・マネジメントを業務とするものにとって、それがふさわしい仕事なのだ。われわれは、シニアマネージャたちの考え方に革命を起こさなければならない。彼らがポーターを読み返し、ポーターの考え方を深く理解するように説得しなければならない。1985年に出版された「Competitive Advantage」※2以降、ハーバード・ビジネスレビュー誌1996年11月-12月の素晴らしい記事「What is Strategy?」※3ほかの記事において、ポーターはバリューチェーンの重要性、そしてアクティビティをバリューチェーンへ統合することの重要性を説いている。

【参考書籍】
※2邦訳「競争優位の戦略--いかに高業績を持続させるか」マイケル・E・ポーター=著/土岐 坤=訳/ダイヤモンド社/1985年
※3原文「What Is Strategy?」Michael E. Porter=著/Harvard Business Review, November-December 1996(Harvard Business online)
※3邦訳「戦略とは何か?」収録 - 「競争戦略論〈I〉」マイケル・E・ポーター=著/竹内 弘高=訳/ダイヤモンド社/1999年

 具体的に、彼は次のように語っている。

  • 「競争優位性はアクティビティの完全なシステムから生じる。アクティビティがフィットすれば、結果的にコストダウン、または差別化につながる」
  • 「フィットさせるのは難しい。なぜなら、多数の独立部門における意思決定と活動を横断的に統合する必要があるからだ」
  • 「アクティビティのシステムにより支えられた市場ポジションは、個々のアクティビティに支えられたポジションに比べて、はるかに持続性が高い」

 ポーターのアプローチの背後にある精神とロバーツが唱えるアイデアとでは、昼と夜ほどの違いがある。ポーターは、エグゼクティブが自社のバリューチェーンを理解しなければならないと主張する。さらに、市場でのリーダーシップ維持に必要なパフォーマンスを達成するための戦略を立案し、バリューチェーン上のすべてのアクティビティがその戦略に従って統合されるように働き掛けなければならないと。一方、ロバーツは、機能ユニットを構成し、その長にモチベーションを与えることにより、何かしら類似の成果が達成できると考える。彼はインセンティブにより、個々の機能のマネージャがそのユニットのパフォーマンスを最大化するように働くことを導いているが、そのような縦割りの考え方(silo-thinking)が組織全体のパフォーマンスに与える影響を考慮していない。

 ここ2年の間、組織図を描いて、部門長のモチベーションを上げることに注力したエグゼクティブの事例が、多数報告されている。6カ月の間に、コストが下がるか利益が上がらなければ、CEOは部門長を交代させ、インセンティブのゲームに興じる。3〜6カ月の間、さらに改善が見られなければ、その組織は再編成される。そして、当然CEOは、毎回、部門長を再選定し、部門長たちは、順次、部下を再選定し、多くのマネージャに3〜6カ月間の仕事を与え、責任を課す。もしCEOが解雇になった場合、その原因は、人選の問題か、ビジネスユニットの構成が悪かったのか、モチベーションの操作を誤ったかのいずれかだと考えるだろう。企業のコアプロセスの構成に問題があり、機能ユニットを介して統合されず、ひいては顧客に対する対応が悪かったことが原因であるとは、決して考えないだろう。つまり、機能組織の構造変更や部門長の交代だけでは、背後にあるバリューチェーンの問題を解決することはできないのだ。

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