ビジネスソフト ヒント×テクニック
マーケティング


マーケティングの効果検証を財務的な視点で行うには?

Sharpmind Inc.
松尾 順

2006/9/26

上司から、前年度のマーケティング施策(広告・販売促進施策)からどれだけの収益が上がったのか、効果検証を行いレポートして欲しいといわれた。どんな分析を行ったらいいのだろうか?

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 マーケティング施策、特に広告・販売促進施策は、財務的には「投資」としてとらえることができます。「投資」とは、将来において収益が得られることを期待して、事前にお金(厳密にいえば、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源)を投入することです。ただし、必ずしも将来の収益が約束されているわけではありません。

 例えば、メーカーでいえば、新製品を開発し、製造・販売するに当たっては、まず工場を建設し、製造機械を導入するためのお金が必要です。売る商品がなければ何も始まらないですからね。しかし、新製品をどんどん作れる体制ができたからといって、その新製品が確実に売れるとは限りません。大ヒットして工場・設備を増強することもありますし、逆にまったく売れなくて早々と製造中止、工場は閑古鳥が鳴く、という事態になることもあります。ですから、メーカーにとって、こうした工場建設や製造機械の導入は文字どおり「設備投資」として位置付けられています。

 同様に、広告や販売促進にお金を投じたからといって、対象商品が間違いなく売れるわけではないので、マーケティングもやはり、「投資」としてその効果検証を行う必要があります。そこで、今回は「投資」としてのマーケティング施策の妥当性を評価する分析をご紹介します。それは、「投資収益率」です。英語ではROI(Return On Investment)です。文字どおり、投資(Investment)に対する収益(Return)の比率を意味します。

ROIの基本

投資回収率(ROI)の基本式

 計算方法自体は、下記のとおりシンプルなものです。収益(リターン)を投資金額で割ればいいのです、

 
投資回収率(ROI)
収益(リターン)
投資
×100(%)
 
粗利益−マーケティング投資
マーケティング投資
×100(%)
  ※会計学上のROIにはもう少し厳密な定義がある

収益(リターン)の算出

 収益(リターン)、すなわち「粗利益−マーケティング投資」の計算自体も難しいものではありませんが、「粗利益」および「マーケティング投資」の金額をどう考えるかがポイントです。

 まず分かりやすく、年間を通じてさまざまなマーケティング施策を継続的に実施したという前提を置いて考えてみましょう。

 まず、「粗利益」について手元に数字がなければ経理の方に聞いてみましょう。財務資料として損益計算書が作成済みであれば、粗利益額が分かるはずです。商品別の粗利益額については、必ずしも経理では分からないかもしれません。商品別の販売責任者などに問い合わせましょう。

 一方、「マーケティング投資」については、テレビやラジオ、新聞、雑誌、インターネットなど各種媒体に支払った媒体費や、イベント開催の会場費や懸賞賞品などの実費に加えて、マーケティングに従事した社内担当者、あるいは外部協力者にかかわる人件費を加えた総費用を算出します。

 こうして、過去1年間の粗利益額とマーケティング投資額が分かれば、ROIを簡単に算出することができますね。

マーケティング効果の評価

 さて問題は、マーケティング施策が、例えば年初の3カ月の期間だけ行われているような場合です。残りの9カ月は特にマーケティング施策はやっていないわけです。この場合、ROIを計算するに当たって、マーケティング施策が生み出した粗利益額を施策の実施期間の3カ月だけとみるのはまずいですね。

 マーケティング施策の効果は、実施期間終了後も、ある程度影響を及ぼし続けることが考えられます。つまり、マーケティング施策の「残存効果」を見込む必要があります。ただし、残存効果はどの程度かは、施策内容や商品特性によって異なってきますので、一概にいえません。ですから、例えば、施策終了後も3カ月間は粗利益の半分には影響を与えているだろう、といった経験に基づいた想定を立てて計算することになります。

 また、いったん購入してくれた顧客の一定割合は、繰り返し購入してくれるでしょうから、マーケティング投資の効果は数年にわたるという点も考慮する必要があります(今回は複雑になるので単年度ベースで考えます)。

計算例

 某大手日用品メーカーが期待の大型新商品「X」を開発、2005年4月に市場に投入し、年間を通じて総計10億円のマーケティング投資を行ったものとします。2005年度の「X」商品の売上は50億円を達成、売上原価は28億円、したがって粗利益は22億円でした。

 この場合の投資収益率は、

 
22−10(億円)
10(億円)
×100=
12(億円)
10(億円)
×100= 120(%)

となります。

Excelで関数式を組んでみる

 さて、以上の計算方法はとてもシンプルなものですので、Excelで簡単に関数を組んでしまいましょう。

 下記のExcel表では、ROIの計算のために、

  • 売上
  • 売上原価
  • 広告費用
  • 販売促進費用
  • マーケティング関連人件費

の項目を入力するとROIが計算できるような関数を組んでいます。関数式は「粗利益」「マーケティング投資」「投資回収率(ROI)」のC列に入力されます。画面1〜3の<……>の部分です。

   売上 5,000,000,000
   売上原価 2,800,000,000
小計 粗利益
   広告費用 500,000,000
   販売促進費 300,000,000
   マーケティング関連人件費 200,000,000
小計 マーケティング投資
総計 投資回収率(ROI)
サンプルデータ 

画面1 粗利益を算出

画面2 マーケティング投資額を算出

画面3 粗利益とマーケティング投資額からROIを算出

 上記の表の計算項目のうち、マーケティング投資の内訳として何を含めるかは、それぞれの会社によって異なるでしょう。自分の会社の費用項目を見ながら、立てるべき項目を調整してください。

 ROIは規模の異なるビジネス同士でも比較ができるようにするための指標なので、ほかのマーケティング活動も同じようにROIを算定して、比較や分析を行っていきます。例えばキャンペーンごとに計算をしてキャンペーン間の比較を行ったり(下記のExcel表では、同じ商品のキャンペーンを比較するための列を設けています)、あるいは広告費用について出稿媒体別の売上金額・粗利益が把握できるようなら、出稿媒体別のROIを算出して比較したりすることで、最も効果的な媒体の選択に役立てることができます。

画面4 キャンペーンのROIを比較する

 なお、ROIの計算を数年にわたる「累積粗利益」で行う場合、計算がやや面倒になります。お金の価値は年を経るごとに減少していくため、その減少分を考慮した計算式にする必要があるのです。

 また粗利益ではなく、粗利益から一般管理費(経理、総務などスタッフ部門の人件費など)や営業費(営業マンの人件費など)を引いた「営業利益」ベースにマーケティングROIを算出する方法もあります。

 このあたりは応用問題ですので、興味のある方は次の本を参照してください。

参考書籍

  • 「マーケティングROI」(ジェームズ・D・レンズコールド著/べリングポイント戦略グループ訳/ダイヤモンド社/2004年6月)
筆者プロフィール
松尾 順(まつお じゅん)
1964年福岡県生まれ。早稲田大学商学部出身。市場調査会社、IT系シンクタンク、広告会社、ネットサービスベンチャー、ネット関連ソフト開発・販売会社を経て、2001年より有限会社シャープマインド代表。マーケティングリサーチ、広告プロモーション企画&プロデュース、Webサイト開発企画&プロデュースを多数手掛ける。
顧客心理の理解向上を目指す「マインドリーディング・ブログ」主宰。「シナプスマーケティングカレッジ」講師。

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