ついに動き始めたシステムと加速する恋心(第9話)目指せ!シスアドの達人(9)(1/4 ページ)

» 2006年03月08日 12時00分 公開
[大空ひろし,@IT]

前回までのあらすじ

前回、ついに坂口啓二の「新営業支援システム開発プロジェクト」が西田社長の承認を得て、正式プロジェクトとして発足した。正式プロジェクトには、本社の岸谷小五郎や藤木直哉、豊若越司も参加した。今回はいよいよ開発に取り掛かるが、短時間での開発にはさまざまな問題が山積みで……。



ささやかな前進

 ここは……。サンドラフトビールの応接室だ。本社ビルの上層階に位置し、窓から入る柔らかな光で絵画や調度品が輝いている。坂口の傍らには、親会社の役員や、今回のプロジェクトにかかわったメンバーが神妙な面持ちで並んでいる。昨年から進めてきたプロジェクトが成功し、表彰されている様子だ。

「表彰状……貴プロジェクトチームは、通常業務との兼任にもかかわらず、新営業支援システム構築プロジェクトを成功させ、販売高は前年比150%を超える実績を達成した。これはグループ社員の模範となるものであり、ここに表彰する……」

 と、そこに携帯電話の着信音がけたたましく鳴り響いた。「もしもし、坂口さんですか?」。携帯電話の画面には、谷田の名前が表示されている。

坂口 「あっ、谷田さん。おはよう」

 ……あれぇ、ということは、さっきの表彰は夢なのか?

谷田 「おはようございます、起きてましたか」

坂口 「あぁ、いま起きたよ」

谷田 「朝からすみません! いま、ちょっといいですか」

坂口 「何かあったの?」

谷田 「いえいえ、坂口さん。突然ですが、今日は暇ですか?」

坂口 「えぇ? まぁ、暇といえば暇だけど……」

谷田 「よかったぁー!駄目だったらどうしうよかと思ってたの……」

坂口 「それで?」

谷田 「あのー、今日私とデートしてくれませんか!?」

坂口 「ええええーーーーっ!?」

谷田 「そんなに驚かないでくださいよっ!」

坂口 「だって、デートの……お誘いだろ?」

谷田 「そうですけど」

坂口 「起きぬけで驚くよ、また夢かと……」

谷田 「えっ? 夢? 夢ってなんですか?」

坂口 「いや、何でもない」

谷田 「秋葉原に連れてってくれませんか? 私、パソコンを買おうと思ってるんですよ」

坂口 「なぁんだ、そういうことか」

谷田 「秋葉原じゃ、駄目ですか」

坂口 「いやいや、そういうことじゃなくて」

谷田 「じゃ、いいんですね? よかった〜!」

 そして2人は新宿で待ち合わせ、秋葉原へ向かった。東京に疎い坂口だったが、パソコン好きな趣味が高じて仙台から転勤して早々に秋葉原に通うようになり、いまでは路地裏のパーツショップの位置まで頭に入っているほどだった。

 デート自体を楽しむ谷田と、久しぶりの秋葉原を満喫する坂口という、ちぐはぐな楽しみ方ではあったものの、無事谷田のパソコンも購入できた。帰りには夕食を共にし、坂口が最寄り駅まで送るなど、2人の関係は進展しているようだが……。

バランスを取ることの難しさ

 坂口のプロジェクトは、いまのところ順調に進んでいる。先日実施したアンケート集約意見を基に実施したPDAの先行配布やプロトタイピングは成功し、さらにシステム開発を加速させた。しかし、システム開発は一朝一夕には完成しないことを坂口はいま身をもって感じている。

坂口 「福山さん、おはようございます。昨日の件なんですけど」

福山 「おはよう、昨日の件というか今日の件だろ。また午前さまになっちゃったな」

坂口 「すいません、寝る前にふと思い付いたことがあったので……」

 坂口と福山は連日連夜の残業だ。機能を絞り込んだとはいえ、開発期間が1カ月で最大限の成果を上げるとなると、1日たりとも無駄にできないというのが2人の見解だった。いま2人が苦心しているのは、メニューや入力操作関連、ヘルプ機能だ。初めて使う人でもスムーズに作業を行えるようにするには、この3つのブラッシュアップは必須だ。

 PDAはペンを使った直感的な入力ができる半面、画面が小さいので一度に多くの情報を表示できない。そのため、「いかに画面の移動を減らし、業務の流れを損なわないで入力できるようにするか?」がポイントになる。また、利用者が迷いそうなところでヘルプ画面が出るようにしたいのだが、これも極力表示量を減らさないと、かえって分かりづらくなる。

坂口 「交通費の精算書作成ツールなんですけど、前回の入力データが自動的に読み込める方がいいんじゃないかな、と思ったんですよ」

福山 「あぁ、作成ファイルの読み書き機能をどうするかって話だな」

坂口 「そうです。よく考えてみたら、営業ルートは新規開拓担当以外は、結構ワンパターンなんですよね。それなら、前回入力データを自動的に読み込んで、違う部分だけ修正できる方が楽ですよね」

福山 「そうだな、簡易レジューム機能だな。それなら入力の途中で作業をやめてもいいしな。分かった、開発の連中に指示しておくよ」

坂口 「それとパソコン側の製品別集計機能ですが、もう少しいろんなケースに対応できるようにしたいんです。PDA側で極力操作が少なくなるようにするには、パソコン側でそれなりの加工を施しておくしかないですからね」

福山 「う〜ん、できないことはないができることを増やし過ぎると、初心者には難しくなるぞ。市販ソフトだと初心者モードと熟練者モードの切り替えができるものもあるが、この開発期間じゃそこまでの作り込みはできないし。そっちの方は目的を絞り込んだ方がよさそうな気がするな」

坂口 「そうですか……。分かりました。一度どのような集計が求められているのか、何人かにヒアリングしてみます」

 使ってもらいたい機能は山のようにあるのだが、搭載すればするほど操作は複雑になるし、プログラムも大きくなってしまう。開発期間が短いこともあるが、機能を絞り込まないとかえって使いづらくなってしまうだろう。当初のプロタイピングでは、PDAのシステムを先行して開発したが、すべてをPDAでやるのは無理がある。そこで、今回のシステム開発では、PDAとパソコンをうまく使い分けるようにすることも、開発側が注意しなければいけない点であった。PDA側ではあまり複雑な機能や操作は盛り込まず、複雑な機能はパソコン側で作り込むことにした。これらも福山と坂口が苦心した点である。

 このような、業務に基づいた意見出しは業務に精通していないと難しく、開発側にはできない部分だ。いわば、シスアドの腕の見せどころだ。

 また使う機器がPDAであるという点も、開発側が注意しなければいけないポイントだ。福山と坂口が苦心した点でもある。営業支援システムはこうして、坂口をはじめとした多くのメンバーの不眠不休の努力によって完成しつつあった。

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