責任を押し付ける上司と、泥沼の四角関係：目指せ！シスアドの達人−第2部 飛躍編（8）（4/4 ページ）

[森下裕史（シスアド達人倶楽部），＠IT]

坂口が浮気現場を押さえられた!?

暗いところでは輪郭しか見えない。谷田は伊東の指すベンチを見て凍り付いた。

　街灯の逆光で女性の方はよく見えないが明らかに男性は坂口だ。あの輪郭は絶対に間違いない。

　今日は仕事で来られないといっていながら、なぜ女性とこんなところにいるんだろう？ 谷田は、ショックで一刻も早くこの場を離れたかった。

谷田　「い、伊東さん、早く帰りましょ！」

伊東　「は、はい。で、でも、酔いがまだ覚めていないんです！」

谷田　「大丈夫です。私が送ってあげますから」

伊東　「えぇ?。そんな！ 彼女でもないのにそんなこと頼めません」

谷田　「なら、彼女になりましょうか。ともかく、ここを出ましょう！」

伊東　「えぇ?!?」

　谷田は、一刻も早くこの場を去りたいがために、思わず口走ってしまった。

　もちろん、谷田も興奮しているため、自分のいったことがどんなことか分かっていない。ともかく、この場を去れるのなら、何でもよかったのだ。それぐらい谷田はショックを受けていた。

　伊東は、谷田の衝撃の言葉にすっかり舞い上がっていた。2人はそれぞれの思いを抱えてその場を後にした。一方、介抱していた坂口は天海が落ち着くと、一息して隣に座った。

坂口　「どこかで聞いた声だったが気のせいかな。それにしてもピッチが早過ぎましたよ。いくら強くても、あれじゃあ」

天海　「ごめん。こんなに気持ちよく飲めたの久しぶりだったから。つい飲み過ぎちゃったみたいね」

坂口　「それにしても、今日は大変勉強になりました。明日の出勤が楽しみです」

天海　「張り切るのもいいけど、たまには息抜きも必要よ」

　そのとき、突然遅くなっても谷田と合流しようと思っていたことを思い出す。時間を見ようと携帯を見ると、メールが2通と不在着信が1通入っていた。マナーモードにしていて気付かなかったのだ。

　どれも谷田からのものだった。2通目のメールで飲み会が終わって帰ることが書いてある。どうも、近くで飲んでいたようだ。そういえば、さっきの声は谷田の声のような気もするが、それならこちらに声を掛けてもいいはずだと谷田の気持ちも考えずに勝手なことを考えていた。

　けげんそうな顔をしながらも、まだ足元のふらついている天海を駅まで送るために坂口は小脇を抱えようとした。

坂口　「天海部長、行きますよ」

天海　「あっ！」

　ベンチの足につまずいた拍子に坂口に倒れ込む天海。坂口も脇を挟んで身動き取れない。自然と2人の唇が重なる格好になった。一瞬の出来事だったが、周りのざわめきが消えてしまったような雰囲気が2人を包んだ。

坂口　「すっ、すいません！」

天海　「私の方こそ、ごめんなさい」

　2人は初めてのデートのように少し恥じらいながらパッと離れた。

坂口　「もう、遅いですし帰りましょう！」

天海　「そうね。明日も仕事頑張らなくちゃ」

　偶然とはいえ、キスをしてしまった照れくささを隠すように2人は少し距離を置いて駅へと向かった。

　翌日の水曜日。

　西田は、副社長室の応接ソファーに深くもたれて、新聞を眺めていた。

　朝刊の一面には、ビール業界の激変が始まったことを告げる記事が掲載されていた。

西田　「ユウヒが、動いたか……。（思ったより早かったなぁ……さてと、布袋のおやじに会いに行くとしよう）」

　西田はゆっくりと腰を上げると、秘書を呼んで、翌週金曜の夕刻に赤坂の高級料亭の予約を取るように命じた。続いて、佐藤専務に電話をかけた。

西田　「佐藤くん、悪いが社長とキラリに動きが出ていないか、探ってくれないか？ あぁそれでいい……。今日中に様子を教えてくれ」

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◆次回予告◆

　次回、それぞれの思いから、ますます坂口、谷田、伊東、天海の関係が絡み合っていきます。一方、西田副社長とライバル会社社長の間で密談が始まります。どうやら今回のプロジェクトは業務改善だけを目的にしているわけではないようです。

　そして、坂口の合格発表。坂口はまた1つの壁にぶつかります。その裏では佐藤専務の暗躍が……。