自己中な最低主人公、そしてヤシマ作戦発動！：目指せ！シスアドの達人−第2部 飛躍編（12）（4/4 ページ）

[石黒由紀（シスアド達人倶楽部），＠IT]

真実を知り、打ちひしがれる

　配送センターを出てから、伊東はすぐに坂口に報告すべく電話をかけたのだが、あいにくつながらない。ふらふらと歩きながら、伊東はふと谷田のことを思い出した。

伊東　「（情けないけど……、こんなときは谷田さんに優しく慰めてほしい……）」

　伊東は、意を決して谷田の携帯電話にかけてみた。ずいぶん長いこと呼び出し音が鳴り、あきらめかけたときに、やっと電話がつながった。

伊東　「谷田さん？ 谷田さんですか？ ぼ、ぼきゅです！ 伊東ですぅ！」

松下　「ちょっと伊東！ 業務時間中じゃないの。あんた何の用事でかけてきたの？」

伊東　「えええー？ 松下さんですかぁー！」

松下　「うん。谷田なら席外してるわよ。あんまり長いこと携帯電話が鳴ってるんで、こっちはみんな気になっちゃってね。ディスプレイ見たら伊東だったから、いっそのこと私が出ることにしたの。谷田じゃなくてごめんよ！」

伊東　「そ、そうですか……いえ、仕事が終わったらお会いしてお話できないかな、なんて思ってたんですけど……」

松下　「谷田ね、ちょっと体調崩してるみたいなのよ。あんまり誘ってやってほしくないなぁ。あ、そうだ、あんた私に付き合いなさいよ。いまどこ？ 配送センター？ ああ、それなら、新宿駅に19時には来られるわね。西口で待ってて。それじゃ！」

　松下は、一方的に話して電話を切ってしまった。

　渋々新宿へ向かった伊東は、松下や谷田が時々訪れるという店に連れてこられた。広い窓には美しい夜景が広がり、思わず（一緒にいるのが谷田さんだったら……）と思う伊東である。

松下　「だからさぁ、谷田にはあの子を大事にしてくれる人が必要だと思うのよ。あの子、まじめでしょ？ 自分がこうしたい、っていうのを押し殺しちゃうところがあるから」

伊東　「はぁ……」

松下　「何よ、その気のない返事！ いい？ 私はあんたに期待してるのよ。待つばっかりっていうのは、結構つらいもんなんだから……」

　松下の口調には、苦いものが込められている。

伊東　「松下さんみたいな人でも、待つばかりってことがあったんですか？」

松下　「何よ、そのいい方は！ あぁ、もう男って鈍いわよねー。デリカシーがないってのは最低！ あーぁ、これならやっぱり坂口の方がマシなのかなぁ。谷田の気持ちを応援すべきかしら？」

伊東　「え？ ど、どういうことですか？」

松下　「やだ、あんた知らなかったの？ 谷田は坂口が好きなのよ。坂口がウチの課にいたころからだから、もう結構長い期間だよね」

　伊東はがくぜんとしてしまった。

伊東　「……」（そ、そういえば、谷田さんは好きな人がいるっていってたような……。ま、まさか坂口さんだったなんて……）

　伊東の頭の中を、今日岸谷にいわれた「坂口はな、現場の声にちゃんと耳を傾けてたぞ！」という言葉が駆けめぐる。とてもかなわない、なんて情けないんだろう。

松下　「あ……。ご、ごめんね。で、でも、私は伊東を応援してるから！ あんた、谷田の支えになってやってよ、ね？」

伊東　「（ぼ、ぼきゅなんて、とても谷田さんの支えにはなれない……）」

　松下は、必死で慰めたり励ましたりしてくれたが、伊東の耳には入らなかった……。

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◆次回予告◆

　次回、恋のライバルが坂口であることを知った伊東は、追い付くために先日、聞き取り調査に失敗した配送センターの業務を知るために現地での実務実習を願い出る。また、坂口はホテイビールの布袋親子と釣りの一泊旅行に出掛けることに……。