気安くバグって言うな！ 妥協とプライドのはざまで：目指せ！シスアドの達人−第2部 飛躍編（16）（4/4 ページ）

[三木裕美子（シスアド達人倶楽部），＠IT]

CIOの意地

佐藤　「では、具体的な取材の日時は追って秘書から連絡をさせますので」

　受話器を置いて佐藤はふっと息をついた。

　情報システムが経営に大きくかかわるようになり、システム担当役員のステータスもここ数年で大きく変わった。大企業ではCIO職の設置は当然であり、CIO経験者がトップになることも増えている。CIOの中には積極的にマスメディアに露出し、自社の情報戦略について語っている者も多い。

　佐藤自身は情報システム部門の出身ではない。CIOに任命された時もなぜ自分が？ という思いが強かった。

　実際、サンドラフトサポートではまだまだ営業や生産といった現場担当役員の力が強く、自分はコースから外れたと思った。つい先日の経営会議でも、周囲の役員から情報システムインフラの遅れについて、多くの指摘を受け苦い思いをしたばかりである。実際は実務を現場に任せているため、CIOとしての立ち回りはそれなりにこなしている状況である。外部ベンダからの供応には多少うまみもあるが、佐藤の心は常に別のところに向いていた。

　そんな折、自社システムを刷新したA社のCIOが雑誌で大きくクローズアップされているのを目にしたのだ。

　異業種とはいえ業界内ではかなり話題になったらしく、A社のCIOの名前がさまざまなメディアに登場している。

佐藤　「アピールの問題だな」

　今回のプロジェクトも、実質は副社長の西田の号令で進められている。このままでは佐藤自身の実力、引いては存在意義を問う声も社内に上がりかねない。

佐藤　「画期的手法による新システム構築、そして生産管理体制の一新。うちにとっても悪くはない話題だな」

　知り合いの外部ベンダを通じて、ビジネス誌の編集者にコンタクトを取らせた。プロジェクトの概要を記事として取り上げてもらえないか？ という申し出に、編集者は飛び付いた。

　ビール業界再編のうわさが飛び交う中、社内システム投資により競争力強化を図る、編集者にとっても作りがいのある内容であったのだろう。先ほどの電話での口調からもかなり好感触だったのが感じ取られる。

佐藤　「現場もマスコミに取り上げられれば盛り上がるだろう。Win-Winの関係ってのはこういうことをいうんだよ、西田さん」

　そうつぶやくと佐藤は上を見上げた。佐藤の視線の先にあるのは、役員フロアの上にある社長室のいす。

　汐留の高層ビル群に光がともし始めている。佐藤の中にも何かが始まっていた。

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◆次回予告◆

　システムテストを終え、いよいよユーザー部門でのテストが始まる。しかし、ユーザーはバグを見つけたといっても、システム部門は「仕様通り」と回答する……。

　システム部門vsユーザー部門の間に挟まれた坂口は孤軍奮闘するが、ついに体調を崩してしまう。そんな坂口を心配し、部屋へ様子を見に行った谷田。そして2人は……。