それは仕様です〜ユーザーvs.システム部門開戦目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(17)(4/4 ページ)

» 2008年03月25日 12時00分 公開
[三木裕美子(シスアド達人倶楽部),@IT]
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マスコミにリークされ、荒れるプロジェクト

佐藤 「(なかなかいい出来栄えじゃないか)」

 手にしていた明日発売予定のビジネス誌の見本誌を閉じると、電話に手を伸ばし、社長室の内線を押した。

 応対した秘書に社長のスケジュールを確認すると、ちょうど夕方に30分ほど空きがあるとの答えだった。

 面会のアポイントを入れ受話器を置いた佐藤は、コーヒーカップを手にすると席を立ち窓の外を眺めた。

佐藤 「社長と広報には仁義切ったしな。問題ないだろう」

 そして、翌日。IT系ビジネス誌の一面に佐藤の顔と共に踊ったタイトル。

「サンドラフトの戦略−システム刷新による競争力の強化で業界を生き残る」

 記事には、サンドラフトの新システムプロジェクトの概要や目的、今後の戦略などが佐藤により語られていた。

 もちろんそれらはすべてが佐藤の持論ではないが、大企業の役員が語るともっともらしく見えるのがこの手の雑誌の常識だ。

 内線が鳴った。秘書からだ。

 他社のCIOからの問い合わせや面会のアポイントメント依頼が幾つかきているとのこと。

 調整して受けるように指示した後、あらためて記事に目を通す。再び内線が鳴る。今度は営業担当常務からだった。

 営業部門にも問い合わせが幾つか入っているようで、顧客の反応も上々とのこと。してやったりだ。佐藤はそっとほくそ笑んだ。

 3度目の内線電話が鳴る。

佐藤 「(やれやれ、人気者はつらいな……)はい、佐藤です」

西田 「佐藤くん、西田だが」

佐藤 「……」

西田 「ちょっと、こちらに来てもらえないか。聞きたいことがある」

佐藤 「分かりました。30分後にお伺いします」

佐藤 (たぬきおやじめ。もう聞き付けたか)」

 そのころ、IT企画推進室に真っ赤な顔の伊東が飛び込んできた。

 足元がつまずいて転びそうになったのを、デスクに手をついて何とか体勢を立て直している。彼も雑誌を手にしていた。

伊東 「さ、さ、坂口さん! これ読みましたか? 全く、何を考えてるんですかね、あの人は!」

坂口 「あぁ、読んだよ。おれも全く寝耳に水だよ」

伊東 「だって、ここに書いてあること、全部坂口さんがやってきたことじゃないですか。普通だったら、坂口さんが一緒にインタビューを受けるべきなのに」

坂口 「それはいいんだ。だが困ったことがある。内容に間違いが多い。システム構築の範囲とかリリースの時期とか……。致命的なのは配送の仕組みだよ。いままでよりぐっと納期が早まるなんて……。本当のことが分かったら営業マンたちから大クレームだよ」

 坂口の内線が鳴った。

坂口 「はい、IT企画推進室です。え? 納期の早期化の件ですか? それは……。あらためてご説明に伺いますので……」

 坂口がため息をついて電話を置いた。営業部門から、納期が早くなるのは本当かと照会が入ったのだ。

坂口 「(これはえらいことになったぞ。岸谷さんのところに連絡をしなくちゃ)」

 坂口は岸谷に電話をした。

岸谷 「おい、坂口、どうなってんだ。昼過ぎたあたりから問い合わせがかなり入ってきてるぞ。納期が早まる時期はいつころだ? ってな。営業の連中が騒いでる」

坂口 「すみません。実は僕も分からなくて。佐藤専務が雑誌のインタビューでそういっているんですよ。僕もさっき初めて記事を読みまして。問い合わせも来ているし、対応策を考えないといけませんね」

岸谷 「そうだな。差し当たり、相談をしたい、明日にでも時間を作ろう」

坂口 「分かりました。メールでご連絡します」

 坂口は新業務フローの書かれた資料を確認した。確かに、配送業務は効率化されるものの、納期の早期化につながるかといえば難しい。もし実現するとなると、現場に再度フローを検討してもらうか、それともシステムを再考するか……。

 内線が鳴っているが、坂口に出ている余裕がなかった。伊東が代わりに受ける。

伊東 「はい、IT企画推進室です。え? あぁ! は、はいっ、坂口さんですね。少々お待ちください」

 伊東があわてて坂口に声を掛ける。

伊東 「坂口さん、西田副社長からです!」

坂口 「(ついに西田さんのところまでいったか……。なんと説明すればいいんだ)」

坂口 「代わりました、坂口です」

西田 「面倒なことになったな。いま時間はあるか? ちょっと来てもらいたい」

坂口 「承知いたしました。すぐに伺います」

 坂口は電話を置き、ため息をつくと席を立ち上がり、副社長室に向かった。

 その後、そこで意外な展開になるとも知らずに……。


◆次回予告◆

 佐藤のマスコミへのリークで、プロジェクトは混乱状態に陥る。西田に直々に呼び出された坂口は、記事と実態の乖離(かいり)状況について説明するものの、西田は副社長として坂口に難しい課題を与えることに。

 一方の佐藤は西田から烈火のごとき応酬を受け、自らの愚行を悔いることになる。そして、混迷極めるサンドラフトだったが、事態は思わぬ展開を見せる……。

「目指せ!シスアドの達人-第2部」の登場人物関係図

ALT 「目指せ!シスアドの達人-第2部」の登場人物関係図
(クリックで拡大)

IT企画推進室

室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳


社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳


今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)

SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳


SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳


SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳


情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳


松嶋七海の娘 松嶋 真鈴(まつしま まりん) 10歳


ホテイドリンク 社長 布袋 泰博(ほてい やすひろ) 45歳


ホテイドリンク システムセンター長 園村 純(そのむら じゅん) 51歳


ホテイビール 社長 布袋 四郎(ほてい しろう) 70歳


情報システム部 生産管理システム担当 谷橋 章介(たにはし しょうすけ) 35歳


情報システム部 営業支援システム担当 小田切 要(おだぎり かなめ) 31歳


西東京物流センター 配送計画担当 小沢 隆夫(おざわ たかお) 39歳


松嶋七海の夫。教師 松嶋 隆史(まつしま たかし) 39歳


筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


三木 裕美子(みき ゆみこ)

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。銀行勤務


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