“人を使う”ということの難しさ目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(18)(1/4 ページ)

» 2008年06月12日 12時00分 公開
[小山俊一(シスアド達人倶楽部),@IT]

第17回までのあらすじ

 前回、やっとの思いでリリースを迎えた新生産管理システムだが、ユーザー部門のテストフェイズで多くの反発にあい難航する。また、CIOである佐藤専務が独断でマスコミにリークした情報に間違いがあり、波乱の予感が……。



副社長室での事情聴取

 佐藤専務の記事の件で西田副社長に呼ばれた坂口は、急いで25Fにある副社長室に向かった。

 坂口が副社長室の扉を開けると、意外な人物がその場に待っていた。

坂口 「西田副社長、遅くなりました……。あれ?」

西田 「おぉ、坂口くん。忙しいところ、すまんね」

 西田とともにいたのは、元経営企画部長兼IT企画推進室長の名間瀬と、長身ですらっとした女性だった。

坂口 「名間瀬さんに加藤さん? ……。どうしてここに?」

 驚いた表情を見せる坂口に、西田が話を進める。

西田 「名間瀬くんと加藤くんにもいろいろあって集まってもらったのだよ」

坂口 「名間瀬さん、ごぶさたしてます……」

名間瀬 「おう、坂口。久しぶりだな。プロジェクトが大変なことになってるらしいな。でも、まぁおれが戻ってきたからには安心しな」

加藤 「坂口さん、お久しぶりです」

坂口 「加藤さん、いまは広報室だったっけ?」

西田 「なんだ、お互い知り合いか?」

加藤 「はい。坂口さんがまだサンドラフトサポートにいらしたときにお会いしたことが……」

 加藤三咲は、ほほ笑みながらそう口にした。

西田 「おぉ、そうか。仲良くやってほしいところだから、ちょうどよかった。それはそうと……」

 そういうと西田は鋭い眼光を一瞬見せたが、すぐに普段の温厚な表情を取り戻し、3人を集めた事情を話し始めた。

 それはおよそこういうものだった。

 佐藤専務の記事の真相やプロジェクトの進ちょく状況、新システムによる効果の見込みなどについて確認し、しかるべき落としどころを見つけたい。

西田 「……というわけなのだが、まずは名間瀬くんから、例の情報漏えい事件の真相を聞かせてくれるかね。遠慮なく、ありのままを伝えてくれ」

 名間瀬は経営企画部長兼IT企画推進室長として、坂口とともに今回のプロジェクトを推進していたが、先の情報漏えい事件で佐藤に責任を取らされて部長や室長職を辞任。しばらく休暇扱いになっていた。

名間瀬 「おそれながら申し上げますと……」

 名間瀬は情報漏えいの原因は、佐藤から薦められたプロジェクトマネジメントツールを使用したことにあることを、佐藤への個人的な誹謗(ひぼう)にならないよう、慎重に言葉を選びながら話した。

 西田は幾つかの質問を返し、名間瀬の話から事実と推測を整理しながら確認していた。

西田 「名間瀬くん、ありがとう。よく分かったよ」

 名間瀬がほっと胸をなで下ろす。

西田 「次は、加藤くん。記事の件について、佐藤専務と広報室がどういうやりとりをしていたか教えてくれるか?」

加藤 「はい。今回の記事については、佐藤専務から広報室長にお話があり、進められました……」

 加藤は広報室長からの依頼を受けて雑誌社とアポイントを取り、打ち合わせの日程調整を担当したが、原稿内容の調整や確認自体は広報室長と佐藤によって行われたことを話した。

西田 「なるほど。佐藤専務の話を基に雑誌記者が原稿を書いて、その後に広報室長や佐藤専務がその原稿の確認をしたということだね。ところで、佐藤専務以外の者へのインタビューは行われなかったのかね?」

加藤 「詳細は分かりませんが、おそらく行われていないと思います。佐藤専務は、“これは重要なことだから、トップシークレットで頼む”とおっしゃっていましたし、ほかの方とやりとりされているふうには、お見受けしませんでしたので……」

西田 「よく分かった。加藤くん、ありがとう」

 西田の言葉に、加藤は丁寧にお辞儀を返した。

西田 「最後に坂口くん。プロジェクトの進み具合、システムの完成度合い、それから新システムによる効果の見込みについて教えてくれ」

坂口 「プロジェクトは現在テストフェイズに入っていますが、現場の意向を十分に取り込めなかったものが多く見つかっており、現場から多くの機能追加や修正を求められています……」

 坂口は当初の予定から2カ月ほど遅れが出ていること、現場との見解の相違から機能追加や修正などの手戻りが発生する可能性があることなど、プロジェクトが難航していることを申し訳なさそうに話した。

西田 「ふむふむ、厳しい状況であることは分かった。佐藤専務の記事に対してはどうだ?」

坂口 「佐藤専務の記事と、今回の新システムの内容には齟齬(そご)があります。細かいところを挙げればキリがないのですが、一番の問題は“納期の早期化”の部分についてです。将来的にはあの記事のように持っていきたいのですが、今回のシステム化だけでは納期の早期化は実現できません……」

 坂口はプロジェクトの現状と記事内容とのギャップが大き過ぎるため、それをどう埋めればよいかが分からず、思わず佐藤専務を批判するようないい方をした。

西田 「佐藤専務の記事のように、受注から納品までの期間をぐっと縮められるわけではない、ということだな。佐藤専務の記事と現在のプロジェクトの現状のギャップを埋めるにはどうしたらよい?」

坂口 「無理です。ただでさえ、システムの完成度や開発期間の問題を抱えているんですから、これ以上の負荷は……」

 坂口は八島たちの苦しんでいる顔を思い浮かべて、西田の問い掛けを拒絶した。

 西田はひと呼吸置き、別の問い掛けをした。

西田 「坂口くん。プロジェクトは何のためにやるものだろうか?」

坂口 「……業務を改善し、成果を上げるためだと思います」

 坂口は少し考えて、そう答えた。

西田 「そうだな。それは間違いではないが、十分でもない」

 西田の次の言葉を待つ坂口。

西田 「システムを作るときには誰を意識する?」

坂口 「ユーザーです」

西田 「うむ。そのユーザーを意識するだけで、良いシステムを作ることはできるか?」

坂口 「……」

西田 「そのユーザーは誰を意識してビジネスをしている?」

坂口 「お客さまです」

西田 「そう、お客さまだ。ユーザーがシステムを利用するのはあくまで“お客さまにより良いサービスを提供するため”だ。だから、ユーザーだけでなく、お客さまも意識してシステムを作らなければならない」

坂口 「はい。しかし……」

 西田は坂口の反論をさえぎるように、話し始めた。

西田 「はっきりいって、現状はかなり難しい局面だ。だが、世間の期待に応えることがサンドラフトにとって大切だとワシは思う。そして、君たちの力をもってすれば、この難しい局面も必ず乗り切れると信じておる」

 西田は、名間瀬、加藤、坂口にそれぞれ視線を送ってそういうと、再び坂口に話し掛けた。

西田 「坂口くん、何度もいうが、難しい局面だということはワシも重々承知しておる。だが、佐藤専務の記事に書かれているような『受注から納品までの期間短縮』を実現できるようプロジェクトを着地させてほしい」

坂口 「……」

 西田は黙り込む坂口を横目に、続いて名間瀬、加藤に矢継ぎ早に指示を出した。

西田 「名間瀬くん、坂口くんのサポートという形でプロジェクトに戻ってくれ」

名間瀬 「分かりました。必ずお役に立ちます!」

 名間瀬は西田に敬礼して答えた。

西田 「加藤くん、広報面で協力してほしいことも出てくると思うから、坂口くんと連携して事に当たってくれ」

加藤 「はい。かしこまりました」

西田 「よろしく頼む。では、これにて解散!」

 西田は両手をパンとたたいてそういった後、

西田 「あ、坂口くんはちょっとだけ残ってくれ」

 と坂口をその場に残し、名間瀬・加藤を退室させた。

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