本当につらいときに支えになるもの目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(20)(1/5 ページ)

» 2008年09月29日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]

第19回までのあらすじ

 前回マスコミに公言してしまったため、新たに「納期短縮」を盛り込まなくてはならなくなった新システム。意外にも、そのヒントは頑固オヤジである角野の秘密の生産予測ノートにあった……。



名間瀬の大胆な提案とは

 坂口は角野工場長の提案を形にすべく、製造部の藤木に依頼し、生産計画に必要な情報をまとめた。発注情報や売上情報、天気情報のほかにも、アルミ缶や瓶の納期情報、営業の持つキャンペーンなどの企画情報、他社の売り上げ状況が必要であり、長期的には経済の状況(ボーナスの出方も売り上げに影響する)やライフスタイル、好みの変化なども考慮する必要があることが分かった。

 営業・生産・物流の各部門が一体となって取り組まなければいけない課題ではあるが、商品納期短縮を実現するには、これらの課題を何とかクリアしていくしかないと坂口は考えていた。

 全体像をまとめた後、名間瀬に相談を持ち掛けた。これだけのことをまとめるにはとてもいまの期限では間に合わない。かつての名間瀬は期限厳守の筆頭であった。その名間瀬を説得し、協力を得なければ今後のプロジェクトは先に進まない。

 坂口はそう思いながら、角野工場長から入手した情報を基に、製造部の藤木に整理してもらった話を説明した。名間瀬は最初驚いていたが聞いているうちに思案している様子だった。説明が一通り終わり、坂口が名間瀬の顔色をうかがいながらどう切り出そうか戸惑っているときに名間瀬が口を開いた。

名間瀬 「うーん……これじゃあ、とても間に合わないな……。失礼、間に合いませんね」

坂口 「名間瀬さん、いままで通りの口調でいいですよ」

名間瀬 「それでは、部下に示しがつかない……です」

坂口 「じゃあ、2人だけの打ち合わせのときだけでも気になさらないでください。話を戻しますが、この内容の一部でも実現できれば納期短縮につながると思うんです。工場長の要望は需要予測システムそのものではなく、予測支援システムといったデータ表示機能の付加だけなんです。しかも、ほとんどのデータはすでに新システムかほかの既存システムにあります」

名間瀬 「しかし、既存システムの利用率はあまり高くない。データを表示しようにもデータそのものが入力されていなければ元も子もないよ」

坂口 「その通りです。これはシステム開発よりも、業務手順の見直しとか利用率向上の方が重要になります。そこで『いかに新鮮な情報を入れることができるか?』がカギだと思うんです」

 名間瀬は坂口の目を見ていた。この若者の向上心や熱い思いにはいつも驚かされる。そして、私までその思いが移ってくるようだ。これが西田副社長のいっていた坂口の力なんだろう。名間瀬は一息つくと坂口に切り出した。

名間瀬 「室長、期限を3カ月間延ばしましょう」

坂口 「! ……名間瀬さん!」

 まさか、あの“期限厳守の鬼”ともいわれる名間瀬から延期の提案を受けるとは思っていなかった。坂口は目を大きく見開いていた。

名間瀬 「この数日間、情報システム部の進ちょくを踏まえて、プロジェクト計画を期限の視点から何度も見直したんだが、いまの期限で見切り発車ができないことはない。しかし、マスコミへのアナウンスから考えるとトラブルは避けたい。そのためには完成を延ばすしかないとの結論に達していたんだ。実は豊若さんにも相談し、一緒に情報システム部の実情を診断してもらったのだが、結論は同じだった」

坂口 「では、この予測支援機能を追加するとさらに遅くなるのでは」

名間瀬 「いや、八島主任のおかげで機能追加はとてもやりやすくなっている。内容を整理しなければ、まだ本当の期限は出せないかもしれないが、いまのクリティカルパスには大きく影響せずに追加可能だと思うよ。それより、巻き込む関係者が増えた分、そちらの準備や教育の方が大変だ」

坂口 「そうですね。名間瀬さん、ありがとうございます! 後、機能追加をするうえで影響するタスクを割り出していただきたいのですが」

名間瀬 「了解。もらった情報を基に影響タスクを割り出し、影響範囲を特定する作業に入るよ」

 名間瀬からシステム完成期限の延期を申し出てくれただけでなく、すでに豊若の合意まで得てたとは。坂口は任せることによって何倍もの速度で物事が進んでいくように感じていた。

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