大失敗する坂口、そして和解する女2人目指せ!シスアドの達人−番外編(3)(2/2 ページ)

» 2006年09月27日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]
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谷田の心遣いによって、自分の間違いに気付く坂口

 真剣な顔で考え込む谷田に数年前の自分を思い出し、松嶋は温かい目で彼女を見つめた。松嶋も多くの失敗や迷いを重ねてきたのだ。谷田の表情を見ながら、松嶋は再び口を開いた。

松嶋 「実は私、もうすぐここを退社するの」

谷田 「え!?」

松嶋 「育児休暇から復職した後、人材開発部で仕事をしていたんだけど、その前にかかわったグループウェア導入のプロジェクトのことが忘れられなかったのね。やっぱり企業のIT化にかかわる仕事がしたいと、ずっと考えていたの」

谷田 「そうだったんですか……」

松嶋 「豊若さんって知ってるかしら? 坂口さんのことは、この方に紹介されたんだけど。去年上級シスアドを取得してから相談してみたら、力になってくださって。退社後はそちらの会社へ移って、また一から頑張るつもり」

谷田 「そうなんですか……」

 上級シスアドといえば、坂口が取得を目指して勉強していた資格のはず、と谷田は思い出していた。それなら、坂口が松嶋を信頼し、頼りにするのもうなずける。もしも、彼女ともっと早く出会えていたら、自分にも心強い先輩が1人増えたところだったのに、と谷田は残念な思いでいっぱいになった。松嶋のような前向きな女性のそばにいたら、いつかは自分もこんな女性になれたかもしれない。

谷田 「ちょっとがっかりしちゃいました。今日お会いしたばかりで、ずうずうしいんですけど、これからもいろいろ教えていただければと思っていたのに……」

松嶋 「もちろん、私でよければ相談に乗るわよ。いつでも声を掛けてね!」

谷田 「わぁ、よかった! ありがとうございます! これからもよろしくお願いします!」

 晴れ晴れした気持ちで、谷田は自席へ戻る松嶋を見送った。さて、と作業を再開しようとしたところへ、坂口から電話が入った。

坂口 「もしもし、谷田さん? テストはうまくいった?」

谷田 「坂口さん? それが、ちょっと分からないところがあるの。申し訳ないんだけど、このまま電話で、操作を説明してもらえないかしら」

坂口 「うん、いいけど……。じゃあ、最初にメニューを選んでくれる?」

谷田 「はい、選びました」

坂口 「じゃあ、次は……」

谷田 「あ、坂口さん、ちょっと待って」

 谷田は、画面のタイトルバーの文字を読み上げた。

谷田 「これでいいのかしら?」

坂口 「うん、OK。じゃあ、次はね……」

 谷田にうまく誘導され、坂口は次第に自分のマニュアルの欠点に気付き始めた。実は、もともとグループウェア製品に付いていたマニュアルは、操作説明が1文1義になっており、操作結果もその都度ちゃんと記載されていたのだ。

 情報を絞り込むことばかりを意識して、ここはなくても分かるだろう、と、勝手に多くの部分を削除したり、1つにまとめたりしてしまったが、こうして説明していると、それがとても不親切なことに思えてくる。

 利用者の目の前で説明するときは、操作手順とその結果を目で見て確認し、フィードバックしながら進めていく。電話での説明も、マニュアルを通した説明も、それらを言葉や図に置き換えるだけと考えればよかったのだ。

 谷田への説明を終えた坂口は、急いで戻ってマニュアルを修正しよう、と足を速めた。

 一方、谷田は、先ほど松嶋がいった「目の前のことを一生懸命にやる」という言葉を思い出し、坂口の説明に併せて、マニュアルの操作説明に区切りを入れていった。操作結果の画面や、表示されるメッセージなどもメモを取った。そして、坂口が会社に戻ってくると、谷田はすぐに駆け寄った。

谷田 「坂口さん、これ、よかったら使ってください。さっき教えていただいたように、書いてあります」

 谷田は、電話説明のメモを基に、坂口が戻るまでの間に、マニュアルを書き直してくれていたのだ。

 それに加えて、彼女なりの工夫で、レイアウトも見やすく変えてみた。坂口のマニュアルは、読みやすい印象を与えようとしたのだろう、文字のフォントサイズが大きめに設定してあり、紙面いっぱいに字が並んでいる印象があった。谷田は、報告書類の清書を多くこなした経験から、読みやすい印象を与えようと思ったら、文字サイズを大きくするよりも、余白をうまく使った方がよいと考えていたのだ。

 文字を普通のサイズに戻し、操作と結果をいくつかのグループに分けて、その間にうまく改行を入れてみた。また、結果を示す文章は、操作説明よりも右寄りの位置から書き始めるなど、区別がしやすいように変えてみた。効果は明白だ。谷田の気配りに、坂口は感心した。

坂口 「谷田さん、ありがとう! 本当に助かったよ!」

 喜ぶ坂口を見て、谷田も少しだけ自信を取り戻した。

谷田 (喜んでもらえてよかった。松嶋さんがいっていたのは、こういうことなのかも。私も自分にできることを、確実にやっていけるようにしよう)

 そう思いながら、仕事と坂口の関係に対して、前向きに取り組む決心をした谷田だった。


◆次回予告◆

 坂口にテストを頼まれた谷田は、早速操作に詰まってしまい困っているところに松嶋が現れた。最初は松嶋と坂口の関係を疑っていた谷田も、その考えが誤解だと分かると、次第に子育てや仕事、シスアド資格の取得まで前向きに考え行動する松嶋に引かれていく。そして、谷田は松嶋に教わったとおり、電話で坂口に操作を聞くことに……。

 次回は、松嶋や谷田の助けを得て、遂に坂口はマニュアルを完成させます。そして、満を持して行ったマニュアルを使っての電子会議室セミナーでは……。果たしてマニュアル作りはうまくいくのでしょうか? 次回で番外編も最終回となります。

「目指せ!シスアドの達人」登場人物関係図
(番外編の坂口回想中時点のもの:クリックで拡大)

ALT 「目指せ!シスアドの達人」登場人物関係図
(クリックで拡大)

東京本社・営業1課 メンバー構成

課長 浜崎 雅則(はまざき まさのり) 43歳


課長代理 江口 章輔(えぐち しょうすけ) 38歳


主任 椎名 純平(しいな じゅんぺい) 33歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 30歳


チーフアシスタント 松下 真樹(まつした まき) 35歳


アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ) 26歳


アシスタント 水元 優香(みずもと ゆうか) 24歳


営業部 部長 田所 譲司(たどころ じょうじ) 50歳


上級シスアド 豊若 越司(とよわか えつし) 38歳


今回登場メンバー

人材開発部主任 松嶋 七海(まつしま ななみ) 37歳


配送センター主任 木村 俊哉(きむら としや) 32歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 41歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 33歳


情報システム部主任 福山 雅人(ふくやま まさと) 36歳


筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


石黒 由紀(いしぐろ ゆき)

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。ソフトウェア会社勤務


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