上司にITを使わせる秘訣は1ページのマニュアル!?：目指せ！シスアドの達人−番外編（4）（2/2 ページ）

[石黒由紀（シスアド達人倶楽部），＠IT]

そしていまにつながる

　そして、時間は現在に戻り、坂口は説明会の後の様子を思い出していた。

坂口　（あの後、結局全員が残ってくれたんだよなぁ。みんなが『便利そうだ、使ってみよう』って気持ちになってくれたのが分かって、本当にうれしかった……）

　木村と別れて、サンドラフトサポートへ向かう道すがら、坂口は当時のことを懐かしく振り返った。

坂口　（そうだ、みんなが帰った後、福山さんが残って褒めてくれたんだっけ。ゴールがはっきりしていて、とても良かったって。情報システム部にいると、どうしてもシステムの持っている機能を全部説明したくなったりするけど、最初に知ってほしいことや、主要な機能を選んで、情報の重み付けをするのは重要だと実感した。この1枚のマニュアルが持つ意味は大きいよ、とかいってくれて。うれしかったなぁ……）

　その後の岸谷は、書き込み数こそ少なかったが、配送センターに確認する必要があることには、必ず答えてくれていた。また、みんなの発言はしっかり読んでくれていて、定例会のたびに、いろいろな人と議論したり、情報提供をしてくれたりしたのだった。

　坂口の気付きやアイデアを自分のことのように喜んでくれた松嶋は、その後間もなくサンドラフトサポートを退社し、豊若の会社へ移っていった。忙しい日々を過ごしているらしいが、元気だろうか。

　ふと足を止めると、会議室の入り口に「目指せ！ シスアドの達人?勉強会会場?」と書いた紙が貼ってある。どれだけIT化を進めても、中心にいるのは人間だし、ITを活用するのも、それを助けるのもまた人間だ。そんな気持ちで、あえて坂口が手書きで書いた貼り紙だった。豊若をはじめとする周囲の人々に導かれながら、自分は「シスアドの達人」に近づけただろうか。勉強会の参加者が「シスアドの達人」への道を進んでいけるよう、自分は力になれているだろうか。

　そんな思いで貼り紙を眺めていると、会議室の中から、谷田が出てきた。

谷田　「あ、坂口さん！ 待ってたんですよ！ 松嶋さんから、久しぶりにメールがあったんです！」

坂口　「へぇ、そうなんだ!? 元気そうだった？」

谷田　「ええ。会社が変わってからしばらく忙しかったけど、やっと仕事が落ち着いてきたから、今度一緒に食事でもどうか、って。坂口さんにも会いたいから、誘ってくるようにって書いてあったんだけど、どうですか？」

坂口　「うーん、松嶋さんの誘いなら、断るわけにはいかないなぁ」

　松嶋との出会いは、谷田にとって大きな刺激になったようだ。坂口との一件を通して、自信を失ったり、悩んだりした谷田だが、それを乗り越えたいま、いつかああなりたい、と、松嶋のような女性を目指しているらしい。その生き生きとした表情に、坂口も思わず目を奪われてしまうことが増えた。

　「谷田さんにとっての松嶋さんは、自分にとっての豊若さんかもしれないな」と、坂口は思う。迷ったとき、困ったとき、力を与えてくれる人がいれば、頑張り続けられるような気がする。

　そして、今度は自分が、ほかの人に力を与えられる存在になれれば、と思うのだ。この勉強会というささやかな取り組みも、そのうち周りにとって大きな意味を持つようになればいい。そう考えて、坂口は谷田とともに勉強会会場へと入っていった。

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◆次回予告◆

　この番外編では、坂口が松嶋という新たな師匠からマニュアル作りの基本を教わり、それを活用していく姿を描いてきました。今回でマニュアル制作に関する番外編は終了です。そして次回からは、いよいよこの連載「目指せ！シスアドの達人」も第2部へ突入します。

　第2部は、坂口が親会社のサンドラフトビールに栄転した時点から始まります。親会社へ移籍し、サンドラフトグループ全社規模の新規プロジェクトに従事することになった坂口。しかし、いままでいた子会社と違い、縦割り色の強い社風に坂口は苦しめられます。また、親会社と子会社に分かれてしまった坂口と谷田の関係は果たして……。ご期待ください。