第5回 コメント・トラックバックがしやすいブログビジネスブログはじめの一歩

今回は「情報発信だけにとどまらない、ブログを介した対話」に焦点を当てて解説します。

» 2007年12月20日 12時00分 公開
[中山順司,シックス・アパート株式会社]

発信から対話(ダイアログ)へ

 唐突ですが、皆さんのブログには、“ダイアログ”がありますか? (もしまだブログをお持ちでないなら)ダイアログは重要だと思いますか?

 ダイアログとは、「対話」という意味で、PC用語では、ウィンドウズ等の操作画面上に表示される「操作確認」や「エラーメッセージ」を指します。コンピューターと人間同士の問いかけと反応という一連のやりとりも、「ヒトと機械の対話」ということになります。

 ビジネスブログの用途といえば、企業から外部へ向けた「情報の発信」が主流です。「情報の発信」はすべてではありませんが、もっぱら1WAYです。それに対して、ダイアログはメッセージのキャッチボールが発生するので2WAYになります。

 前回「ビジネスブログを上手に運営する3つのコツ」、何のために日々更新するのか、誰に読んでもらうのか、どう感じてほしいのか? 読む側のニーズをくんでコンテンツに落とし込みましょうというお話をしました。今回はその延長線上として、「情報発信だけにとどまらない、ブログを介した対話」に焦点を当ててみたいと思います。

あなたの情報は信用されていますか?

 ネットを使う消費者にとって、「カンタンに大量の情報にアクセスできること」は当たり前になっています。逆に難しくなっているのは、

  • 情報を手に入れた後の優先順位付け
  • 情報の信頼性を見極めるための判断基準の有無

です。

 取捨選択のための物差しを持っていないと、情報の裏を取るためにさらに情報収集するという堂々巡りになってしまいます。つまり、価値のある情報として記憶してもらうには、「鮮度」「量」「質」に加え、「信頼性」を足した、情報の総合的な完成度が求められているといえます。ブログに置き換えれば、いくら発信しても、そこに「信頼度」が欠けていれば読者の心に届かず、意味がありません。

 残念なことに、企業から発信される情報は手放しで信用できるものではなくなりつつあります。度重なる偽装、隠蔽工作、時には違法行為による企業の裏切りにより、消費者にとって企業は信じられる存在ではなく、逆に「警戒すべき・疑うべき存在」になっています。

消費者だって、企業と話がしたい

 しかし、悪い話ばかりではありません。

 消費者は、「できれば企業を信じたいのだけれども、事情によって信じられない」のであって、信じることそのものを放棄しているわけではないからです。例えば、自社のブログにコメントやトラックバックがないことを、「会話を拒否している・不信感を持たれている」と結論付けないでほしいのです。それどころか、消費者は企業と会話をしたいと考えています。

 筆者が所属するシックス・アパートの調査によれば、インターネットユーザーはビジネスブログをしている企業に対して、コメント・トラックバックをするトップ2の理由として、

「自分の意見や感想を、その会社の製品やサービスに反映してほしい」

「不満や改善等の要望を伝えたい」

を挙げています(消費者が企業に対して、不満やリクエストをぶつけてくるのは、自然な行為です)。

ALT 図1 ビジネスブログにコメントする理由
ALT 図2 ビジネスブログにトラックバックする理由

 ですが、“純粋にコミュニケーションしたい”という直接的メリットがなさそうなことを望む人も少なくありません。「純粋にコミュニケーションをしてみたい」ためにコメントする人が26%、トラックバックだと29%もいます。

 「消費者だって、企業と話がしたい」と意思表示してくれていることは、ポジティブな発見であり、喜ばしいニュースだと思います。

インターネットユーザーがコメント・トラックバックしない理由トップ4

 アクセスがあるにもかかわらずコメントもトラックバックもないのなら、それはきっと読者に「そうさせないオーラ」を感じさせていると考えるべきでしょう。

 何しろ、ブロガーでないインターネットユーザーでも、「3人に1人がコメントしたことがある」と回答しています。ブロガーに限れば、コメント経験は2人に1人、トラックバックなら3人に1人が経験済みです。ビジネスブログにコメント、トラックバックをする人は、意外と少なくないのだなとお感じになると思います。

 では「そうさせないオーラ」とはいったい何のことで、どうすれば対話を促すことができるのでしょうか。まずはインターネットユーザーの率直な声を聞いてみましょう。インターネットユーザーが、ビジネスブログにコメント・トラックバックしない理由トップ4は、以下のとおりです。

ALT 図3 ビジネスブログに「コメントしたことはないし、今後もするつもりはない」理由
ALT 図4 ビジネスブログに「トラックバックしたことはないし、今後もするつもりはない」理由
  1. 面倒くさい
  2. なんとなくハードルが高い
  3. 企業に読んでもらえない気がする
  4. 企業から返事が来ない気がする

 話し掛けやすい人とそうでない人がいるように、ブログも同じことがいえます。

  • 「ハードルの高さを感じさせないようにするには」
  • 上から目線の物言いになっていないか?
  • コメントのしようがない、隙のない文章になっていないか?(たとえばプレスリリース的な文章)

 「担当者に読まれる・返事が来ると感じてもらうには」

  • 人のぬくもり(パーソナルな雰囲気)が感じられる文章か?
  • マメな返事を実践しているか?
  • おざなりな定型文で手を抜いていないか?

を問い直してみるのもよいかもしれません。

 参考として、男女間のビジネスブログに対する「感じ方の違い」を挙げてみると、女性の方が「ハードルの高さ」を感じやすく、男性の方が「返事が来ない」と感じる傾向にあります。例えば女性に対してはパーソナル感を出す・フレンドリーな口調で接する、男性には質問等に回答する姿勢を伝えるなど、アプローチを工夫してもいいかもしれません。

自ら積極的にアクションを起こしてみる

 鳴かないホトトギスに対して、家康が「鳴くまで待とう」といったのが他社依存型・他力本願型だとするならば、秀吉の「鳴かせてみよう」という創意工夫で攻めるのが正攻法になりそうです。それでもリアクションがない場合、待ち続けなければダメというルールはどこにもありません。そこで、「いっそ自分からアクションを起こしてみる(自ら鳴いてみる)」という発想の転換をしてはどうでしょう?

 ブロガーという立ち位置にいると、無意識に「(自分が)書いて、(他者に)読ませる」と発想しがちです。コメント・トラックバックは「もらうもの・来たら返すもの」ではなく、ブログの反響を測る成果指標でもありません。

 テクノラティや主要検索エンジン・ポータル各社が提供するブログ検索サービスで、試しに自社に関連するキーワードで検索してみてください。社外の人々が、自社や自社製品・サービスについて何を語っているか、垣間見ることができるでしょう。

 「予想外の話」「意外な話」「耳の痛い話」、もしかすると「誤解されている」ことがあるかもしれません。たとえ直接自社についてのことが語られていなくても、例えば業界に対するイメージや本音はつかめることでしょう。

 そこで知り得た事柄を別途リサーチで掘り下げるもよし、お客さまセンターの改善につなげるもよし、リアルのイベントに生かすもよし、顧客とのコンタクトポイントを見直すために役立ててください。もちろん、ネットだけでコミュニケーションのすべてを完結させる必要はなく、双方を絡めた複数のコミュニケーション手法の1つとして機能させればいいのではないでしょうか。

必要なのは少しの勇気

 さらに、これは少々勇気が必要ですが、「ブロガーに話し掛けてみる」こともできます。企業とコミュニケーションをしたい消費者は少なくないのですが、企業からブロガーに直接コメントやトラックバックを返すケースは非常にレアケースである印象を受けます。

 完成された記事を書くのもよいですが、例えば問いかける・アイデアをシェアする・提案する・頼んでみる・考えを募ってみる等、最初のアクションを自分から行うことで、対話のキッカケをつかむこともできます。

 また、ブロガーにしてみれば、企業から直接コンタクトがあれば、「自分と同じ目線まで降りてきてくれた姿勢」に感謝し、「自分の意見が聞かれた・届いた」という喜びをもって歓迎してくれることでしょう。

 個人的に印象に残っている体験をお話ししましょう。

 私はとあるメーカーの靴を愛用しています。ボロボロになるまで履きつぶしたそのメーカーの靴を買い替える前に、せっかくだからと私のブログにレビューと写真を掲載しました。すると、常連読者であるECショップ(靴屋)のオーナーさんが、靴が珍しい壊れ方をしていることを発見し、コメント欄に

 「この製品は当店でも扱っています。技術に定評のある○○○社の信頼にかかわるので回答を求めてみましょう」

とその店で買ったわけでもないのに、メーカーに私の記事を紹介しつつコンタクトをとってくれました。

 数日後、オーナーさんはコメントを通じて、「メーカーからは、前例のない破損であり、実物を見ないと判断できない」とつれない回答をされたことを謝罪の言葉と共に報告してくれました。

 おざなりな回答しか返してこなかったそのメーカーに対しては、消費者目線に降りてきてくれなかったのだなと感じた一方で、自分の声が届くところまで降りてきてくれたそのECショップに対して強い親しみを感じました。今もこのオーナーさんとはブログを通じて日常的にやりとりをさせていただいています。このオーナーさんは、「良いものは良い、悪いものは悪い」と、製品やメーカーの姿勢に対して歯に衣着せぬ消費者寄りの(そこまでハッキリ言っていいのかこちらが心配になるくらい)意見を語ってくれるので、とても信頼ができるお店だと感じています。

 蛇足ですが、1年半以上も前に書いた私の記事は、今でも(2007年11月末時点)

  • 「○○○(メーカー名) △△△(製品名)」で検索するとYahooで1位
  • 「○○○(メーカー名)の△△△(製品名)」で検索してもYahooで2位

とオンラインシューズショップより上位にヒットします。

 実際にブロガーとコミュニケーションを取ることは、大企業になればなるほど難しい面もあると思います。しかし、日産自動車は昨年に新型スカイラインを記者発表する際に、ブロガー発表会も行いました。

 数十名ものブロガーを地道に探し、発表会に招待するという斬新な試みを行い、大きな反響を呼びました。決意と行動力、そしてほんの少しの勇気があれば、どんな企業でも十分に実行可能です。

早く走るより、賢く走ろう

 インターネットを上手に活用して外部とコミュニケーションをし、そこで得た情報を現実のビジネスに過不足なくフィードバックできている企業は、まだまだ少数派だと感じています。

 ブログツールの普及によって、情報発信力では大企業も零細企業も大差がなくなりつつあります。みんなの足が速くなっているなかで、単純にスピードでアドバンテージを持つのは難しくなっているといえるでしょう。

 われわれは「インターネット=スピード」「速いことはいいことだ」的な固定観念をつい抱くものです。次のトレンドを素早く正確にかぎ分けるといった、「いかに早く走るか」も大切ですが、同時に一歩一歩を大切にするといった、「いかに賢く走るか」も忘れないでいたいものです。

筆者プロフィール

中山 順司(なかやま じゅんじ)

シックス・アパート株式会社 マーケティング  ディレクター

愛知県出身。携帯電話キャリア、ITベンチャーを経て、現在はブログ・ソフトウェアベンダーのシックス・アパートでマーケティングに従事。これまで一貫してマーケティング業務に携わっている。


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