製造業は“ITシステムの使いこなし”がキモIT担当者のための業務知識講座(4)(1/3 ページ)

常に不良在庫のリスクを抱えている製造業では、業務プロセス全般にわたってシビアな効率化が求められる。従って、その“使いこなし”が業績を左右してしまうほど、ITツールが活躍するシーンも多い。

» 2010年11月17日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

製造業の本質は、「ものづくりによる価値創造」にあり

 今回は卸売業の川上に位置する製造業をご紹介します。製造業を表す基本的な概念は、製造業のことを「ものづくり企業」と呼ぶことがあるように、「商品を自ら製造する」ことです。そのために工場を持ち、機械や食品、衣類など、何らかの製品の製造活動を行っています。

 しかし、製造活動を行ってさえいれば製造業と呼ばれるかというとそうではありません。製造した製品を商品として買ってくれる顧客がいなければ、無駄に資源を浪費しているに過ぎません。「ものづくり」の活動を「製造業」として成立させるためには、顧客にとっての価値を生み出すものでなければならないのです。製造業の本質は「ものづくりによる価値創造」と言うことができるでしょう。

 では、製造活動にとっての「顧客」とは誰なのでしょうか? 「製品によって生み出される価値」は誰のものなのでしょうか? それは「製品に価値を見いだしてくれる相手」ということになります。ただ、卸売業/小売業にとっての顧客も「製品に価値を見いだしてくれる相手」と言えます。実際、製造業でも製品を作り置きして販売することが多いため、営業部門だけを見れば、卸売業/小売業と大きく変わるわけではありません。

 では、製造業と卸売業/小売業の違いとは何なのでしょうか? それは卸売業/小売業が「製品を仕入れて売る」のに対し、製造業は「製造して売る」点にあります。こう言ってしまうと当たり前のようですが、これは製造業という業態の軸はあくまで「製造活動」にあり、その本質は「工場での活動」にあることを表しているのです。

受注生産と計画生産の違い

 では、そうした製造業の本質と言える「製造活動」のアウトラインを紹介しましょう。まず、その製造活動には「受注生産」と「計画生産」という2つのスタイルがあり、これによって企業の戦略は大きく変わってきます。「受注生産」は、「特定の顧客が要求する仕様」に基づいて設計、製造するため、製造された製品は特定の顧客に対してしか価値を発揮しません。これに対して規格品を量産する「計画生産」は、その規格品を求める全顧客に対して価値を持ちます。

 従って「受注生産」は顧客数や生産数が絞られる分、単価が高く、納期も長くなりますが、より多くの顧客に向けて大量生産を行う「計画生産」は、単価が安く、納期も短くなります。これを受けて、顧客側は規格品で済むなら規格品を購入しますし、規格品が安くなく、品質も悪いのであれば、少々高くても受注生産を頼む、という選択をすることになります。

 受注生産は「高度な設計能力」「優れた製造技術によるフレキシブルな対応」「リピート受注時における短納期・低価格化」が、計画生産は「コストダウンによる低価格化」「製品規格のバリエーションを増やすことによるラインアップの拡大」が成功のポイントとされています。これらは同業他社との競争に勝つこと以前に、受注生産、計画生産を業務として成立させるうえでも不可欠な要素となっています。つまり、前述のように、受注生産か計画生産か、いずれを採るかによって、製造業としてのスタンス、経営戦略はまったく異なってくるのです。

中小は専門性、大企業は市場を読む力が求められる

 では、受注生産と計画生産、それぞれのスタイルの業者が“勝ち残るための要点”はどこにあるのでしょうか? まず中小規模の製造業に多い受注生産の場合、「顧客の要求に対応できる技術力があるか否か」が問題となります。むろん、あらゆる要求に柔軟に対応でき、なおかつ競争力も担保できることが理想なのですが、現実的には「何らかの専門分野に特化することで、品質、納期、コスト面における競争力を確保する」ケースが大半を占めます。

 しかし、専門分野を狭くし過ぎると、対応できる顧客ニーズを絞り込んでしまい、顧客そのものを失いかねません。かといって、専門分野を広げ過ぎれば、おのずと技術力の蓄積がおろそかになり、差別化のための専門性が薄れていくことになります。

 この点を受けて、製造業同士での連携が盛んに行われています。「それぞれの専門分野を生かしながら、対応範囲の幅を広げる」ことで、自社の専門性を担保しながら、より多くの顧客獲得を狙うわけです。

 一方、計画生産は大企業が中心となります。こちらの場合、収益獲得の基本的な流れとしては、「一定期間で一定数量が売れると見込んで生産した製品を、宣伝・広告によって顧客に認知してもらい、注文を獲得する」スタイルとなります。

 従って、「何が、どれだけ売れるのか」「何を、いつ、どれほど作れば良いのか」を予測するマーケティングリサーチや、顧客ニーズ、市場動向に基づいて販売が見込める商品を考える「商品企画」が重要となります。計画生産を行う製造業の中には、工場機能をアウトソーシングして、マーケティングや企画業務に集中する“ファブレス・メーカー”も少なくありません。

 「何が、どれだけ売れるのか」を考えるためには、卸売業/小売業に対する売れ筋商品を調べたり、試作品を作って試用評価を繰り返したりすることが求められます。前回、「卸売業が自社の売り上げを伸ばすために、メーカーにマーケットデータを提供している」ことを紹介しましたが、そうした市場データは、未来の販売を見込んで計画生産を行うメーカーにとって、収益を伸ばすうえで不可欠なものとなるのです。

 一方で、きちんとした販売予測に基づいて製品を製造しても、その存在や魅力をターゲットに認知してもらえなければ製品は売れません。そこで、製品の品質や魅力をイメージ的に保証する“エンドーサ(endorser)”として有名人などを起用し、需要を喚起する宣伝広告活動が重要となってきます。このように、計画生産の製造業では、マーケティングリサーチやR&D(研究開発)、プロモーションといった、製造以外の幅広い業務が不可欠となるため、必然的に大企業が中心となるのです。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ