「なぜ?」という言葉、使っていますか?情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(26)

「言われたから」「通例だから」「他社もやってるから」が口癖になっていませんか?――物事の表層しか見てないと、状況に流されるばかりで目的を達成することは非常に難しい。

» 2011年01月18日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

「Why型思考」が仕事を変える――鋭いアウトプットを出せる人の「頭の使い方」

ALT ・著=細谷 功
・発行=PHP研究所
・2010年8月
・ISBN-10:456979078X
・ISBN-13:978-4569790787
・800円+税
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 顧客の要求を聞くだけの御用聞き営業マン、言われたことしかやらない部下、本に書いてあったことをうのみにして失敗する経営者、学歴は立派だがビジネスに適応できない新人――これらの人々に共通するのは、「正解は何か?」を求め、得られた回答をそのまま暗記してしまう「What型思考」であるということだ。一方で、与えられた課題や情報に対して「なぜそうなるのか」と考え、その真意をくみ取った上で自分の言葉や行動に還元する「Why型思考」の人もいる。ビジネスや日常生活でより良いアウトプットを出せるのはどちらかといえば、まず間違いなく後者だろう。

 本書「『Why型思考』が仕事を変える」は、「規則だから」「通例だから」「言われたから」「評判が良いから」といった理由で思考停止してしまうWhat型思考の人を「そのままくん」、受け取った情報の真意を考え、効果的なアクションにつなげるWhy型思考の人を「なぜなぜくん」と名付け、両者の考え方の違いや、それによりもたらされる結果を比較・分析した作品である。これを通じて、「本当に頭を使うとはどういうことか」「どうすればWhy型思考が身に付くのか」を分かりやすく解説している。

 というのも、いま日本は「新興国の追い上げに真っ向から対決しなければならない立場」にあり、企業はもう通用しなくなった過去の成功体験を捨てて、“既存のやり方”を大きく変えていかなければならない状況にある。だが、日本のビジネス界には「WhyなきWhat病が蔓延している」。そこで著者は、「答えは何?」から「なぜそうなるの?」へと思考回路を転換しなければ、「既存のモデルを改革し、世界で再び優位に戦うことは難しい」と諭しているのである。

 では「WhyなきWhat病」によって引き起される事態にはどのようなものがあるのか? その1つが「前例主義」だ。例えば「前年並みの予算策定」「前もやったイベント企画」などは最も身近なケースだろう。本来なら「なぜその予算額なのか」「なぜその時期に、そのイベントを企画するのか」という“理由”をきちんと考えなければならない。しかし「楽」であるがゆえに、考えることから逃げてしまっているケースが多いのだという。また、「なんとなく責任回避ができてしまうことも、このWhyなきWhat病がなくならない要因でもある」と指摘する。

 「作り手視点のみの商品」も挙げられる。本来、技術とは顧客(ユーザー)ニーズを実現するために使われるものだ。だが「開発者というものは顧客を忘れて技術力に走ってしまいがち」であり、「それ何のために開発しているの?」という肝心のところを置き忘れてしまっているケースも少なくないという。もちろん、顧客の支持を集めた製品の中には「顧客に媚びず、技術者の強い思い入れによって作られたもの」もあるが、多くの場合、そうした製品は「表面的なニーズではなく、深層にある顧客ニーズをしっかりと捕まえた」結果だと力説するのである。

 このほかにも「なぜこの手続きが必要なのか」という理由が忘れ去られたまま、社内スタンプラリー化している承認フロー、「業務品質維持のため」のものでありながら、いつしか「空欄を埋めること」が最重要視されるようになった定型業務書類など、多くの人に身近な事例を多数紹介している。

 特に重要なのは、「なぜこれをやるのか」という理由や真意が分かれば、「なぜこれをやってはいけないのか」も分かるということだろう。特にITシステムの開発プロジェクトなどの際、「なぜこのタイミングで、この作業が必要なのか」「なぜこうしたことが、このタイミングであってはならないのか」が分かっていれば、問題が顕在化する前に予兆を発見しやすくなる。つまり、どのような業務/行動にせよ、「真意」を認識していなければ、“目に見える表面的な事象”しか認識できず、その結果、状況に流されやすくなったり、狙った結果を得にくくなったりしてしまうのだ。

 では、そうした“真意をつかむ習慣”はどうすれば身に付けられるのか? 著者はその方法として、常に疑ってかかる「天邪鬼になれ」、他人の発言にいちいち「それ本当?」と聞き返すような「悪い性格になれ」、原因を周囲に求めて思考停止に陥ることなく、徹底的に自分に原因と改善点を探る「ドMたれ」などとユーモラスに紹介している。

 むろん、これを文字通りに受け取って“性格が悪いドMの天邪鬼”になり、並み居る“ドラッカー仮面”や“コトラー仮面”などの間に切り込んでみるのも一興だが、それでは本書を理解したことにならないのは言うまでもない。“表層しか見ない”ことがいかに愚かなことか 、咀嚼して自分のものにすることがいかに重要か、そして“なぜ?”と問い続けることが仕事や人生に対して主体的なスタンスを生み出し、いかに豊かな実りをもたらしてくれるものなのか――本書を読めば、あらためて確認できるのではないだろうか。


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