「PMは孤独で辛い仕事」と諦めてはいませんか?情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(58)

ビジネスが複雑化し、個々人の仕事の専門性も増している今、組織のマネジメントは一層難しくなっている。そうした中、より高い成果に向けて組織をリードするためには、いったい何が必要なのだろうか?

» 2011年09月06日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

人が「つながる」マネジメント

ALT ・著=高橋克徳
・発行=中経出版
・2011年8月
・ISBN-10:4806141135
・ISBN-13:978-4806141136
・1500円+税
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 「経営層が、現場が動かないことにいら立ち、単にマネジャーを責めても何も解決しません。逆にマネジャーが、現場と乖離した方針だけを示す経営者を冷ややかに見て、日々のマネジメントを変えないでいても、状況は悪化するだけです」。「ではどうすれば良いのでしょうか。その解決のカギになるのが『リレーションシップ』という概念です」――

 本書「人が『つながる』マネジメント」は、お互いが連動して仕事を成功に導くように支援し合う『関係志向のマネジメント』」について、実現のポイントを詳細に解説した作品である。ビジネスの領域が多様化、複雑化し、ビジョンや方向性を明確化することが難しくなっている中で、「人が前向きに行動を起こし、お互いの力が結び付いて組織の力になる」というマネジメントの本質に着目している点が特徴だ。

 特に注目すべきは、プロジェクトの成果が上がらないことを、「マネジャーがだらしないからだ」といった心ない言葉で片付けてしまいがちな状況について、「マネジャーを経営陣が支援できていない現状もあるのではないか」と問題視し、「不当な扱いを受けている」マネジャーへのシンパシーを基に論を構成している点だ。

 中でも大きな問題点は、「マネジャーの仕事自体が評価されていない」ことだという。「マネジメントという仕事自体が評価されるわけではなく、部署としてトータルで成果を上げるかどうかが評価の対象になっている」。従って、マネジメントに対するモチベーションが失われ、おのずと自分の仕事を最優先し、部下を指導することが少なくなりやすい構図が問題の根底にあるというわけだ。

 加えて、ITインフラの発展によって情報の流通が変わり、「昔だったら上司しか知らないような情報がすぐ部下まで伝わるようになった」。これにより、部下は仕事を自己完結できるようになり、仕事のスピードも加速した。だがその半面、組織運営は個別化し、マネジャーの仕事は「プロセスの管理ではなく(最終的な)成果の管理」が中心になってしまった。また、各スタッフの仕事内容が細分化・専門化したために、マネージャは容易に部下の仕事に立ち入ることも難しくなった。これにより、指導しようにもできず、成果を評価すれば「こちらの状況を何も知らないないくせに!」という部下の反発を買い、個別化したチーム全員が自己防衛的な行動に走り、マネージャはますます無力感に襲われる……という“負のサイクル”が多くの企業に存在していると指摘するのだ。

 著者はこうした“負のサイクル”から抜け出すためには、マネジメント本来の在り方を見直し、「人が一緒に働くことで、より高い成果を生み出していくためのメカニズムを作ること」が必要だとして、その具体的な方法を多数紹介している。中でも最も重要なことは2つあるという。1つは、組織の目的や目標を示し、その実現に向けて知恵と労力を重ね合わせられるような「仕組みやメカニズムを設計すること」。もう 1つは、人に働き掛けて「行動が生まれる状況を作り出すこと」だ。

 具体的には、まず「組織の目的や目標」として、自社は「誰に何を提供して、どのような価値ある存在になるのか。その結果、われわれはどんな喜びを得るのか」を明確化する。その上で「目標」を実現するためには、どんな取り組みが必要なのか、より具体的な実践目標を定め、それを「実行していくための『行動の枠組み』を示す」。つまり、「誰が、どう動き、どのように仕事をつないでいくのか。プロセスや体制を構築し、どのように調整するか、誰が意思決定するか、誰が最初の窓口になり、どうバックアップするかといった運営ルール」を決めるのである。

 さらに、「仕事のやり方の中で大切にしていきたい価値観やマナー」を共有するほか、各人材にも配慮し、1人1人の仕事の進ちょく状況を把握しながら、育成の観点も視野に入れつつ必要な支援を与え、仕事の品質・成果を管理する。こうしてお互いが支え合い、高め合えるような環境作りを心掛ければ、部門やプロジェクトチームのビジネス、雰囲気はおのずと改善されるはずだと説くのである。

 さて、いかがだろう。このように整理して説かれると、これらは「やりがいある目標から実現手段を導き出し、プロセスの進ちょくを管理する」というごく一般的なマネジメントの在り方に過ぎないと分かるのではないだろうか。結果の評価ではなく、そこに至るプロセスにおいて、チーム全員でゴールに到達できるように配慮することがマネジメントなのだ。換言すれば、これらはあらゆる業種に共通するマネジメントの基本、鉄則であり、現にシステム開発プロジェクトでも、複数の成功事例が以上のようなポイントをしっかりと押さえている。

 それだけに、これらを理想論と感じてしまう場合は要注意だ。“負のサイクル”にはまった状態に慣れてしまっていないか、ぜひ自問してみてほしい。例えばあなたは今、部下の面倒を見ても 評価されないと思ってはいないだろうか? 指示だけ出せば良いと考えていないだろうか? 毎週、ビジネスの実績数値だけをチェックすれば良いと思ってはいないだろうか? 部下の仕事に踏み込めないと感じていないだろうか? 信頼されていないと悲しんではいないだろうか? 報われない仕事だと無力感にとらわれていないだろうか? もう辞めたいと思ってはいないだろうか?

 マネジメントとは「放っておけばバラバラになってしまう人たちの力を束ね、重ね合わせること」――すなわち「人とのかかわり」を主軸に、組織全員のやりがいを高め、職場の居心地を良くすることに他ならない。あなたの会社のマネジメントに改善の必要があるか否かは、以上のように自分の心に聞いた方が正しい回答が得られるのではないだろうか。管理層の人はぜひ本書を読み、より良い運営サイクルに向けて、一歩踏み出してみてはいかがだろう。


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