最優先事項は“絶対ローンチさせること!”事例に学ぶシステム刷新(2)(1/3 ページ)

現在、システム全面刷新と大規模ERPパッケージ導入のプロジェクトに取り組んでいるゴルフダイジェスト・オンライン。前回はプロジェクト発足の背景を紹介した。今回は、現行業務システムに対する不満や問題意識が表面化し、ERPパッケージ導入へと至った経緯などを紹介する。

» 2010年09月02日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 現在、システム全面刷新と大規模ERPパッケージ導入のプロジェクトに取り組んでいる株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)。

 前回はプロジェクト発足の背景として、2000年の創業時に構築したシステムを根本的な改修をしないまま長期間使い続けた結果、ビジネスの実態にそぐわなくなってきたこと、そしてシステムの老朽化が一因となって2008年9月にセキュリティ事故が発生したことを紹介した。

 しかし、GDOがシステム刷新を決めた理由はこれだけではない。

 現行の業務システムに対する不満、特に会計や販売管理など基幹系システムが抱える課題については、かなり以前から社内で指摘されていたという。長年にわたり積もり積もった問題意識が、セキュリティ事故をきっかけに表面化し、結果として同社をシステム刷新とERPパッケージ導入へと導いたのである。

 今回は、この辺りの背景について紹介していきたいと思う。

「3カ年サービスライン」を策定する

 前回も説明した通り、2008月9月にセキュリティ事故が発生した後、同社は1年強にわたりその対応に追われた。

 しかし、それと並行して次期システムの構想も進めていた。事故の反省を踏まえ、次期システムではセキュリティの強化をうたっていたが、同時にサービスの増強にも十分耐え得るIT基盤の構築を目指すものでもあった。

大日氏 GDO 上級執行役員・コーポレートユニット担当 兼 システム戦略担当 大日健氏

 同社はこれ以前にも経営トップ主導のプロジェクトでシステム全面刷新を試みているが、不調に終わっている。今回はその反省を踏まえ、将来実現したいサービスとその業績見込みについて、まずは各業務部門の現場から提案を募ったという。同社 上級執行役員・コーポレートユニット担当 兼 システム戦略担当の大日健氏は、こうした経緯について次のように説明する。

 「これから3年後に、どんなサービスを使って、どれぐらいの会員数を獲得して、どの程度の売り上げや利益を上げられるか、といった内容の中期計画を策定した。こうした計画は、かつては経営陣が作成していたが、今回は各業務部門の部門長とマネージャが中心になって作成した。これまでの『経営主導』から、『現場主導』に方針を転換したわけだ」

 2009年5月から9月にかけて、各事業部門の現場が主導して策定作業が進められたこの中期計画は、最終的には2009年10月に「3カ年サービスライン」としてまとめられた。そして、その内容をいかに次期システムに反映させていくかが、IT部門にとって次のミッションとなった。

 当初は、現行システムをエンハンスすることによって、この中期計画の要件を満たすシステムを構築する予定だった。しかし、この方針は非現実的であることが早々に判明する。

 「エンハンス作業の見積もりのために、現行システムの調査・解析を行った結果、要件を満たすためには、膨大なコストと時間がかかることが判明した。また、エンハンスでは現行システムの無駄な機能まで、次期システムに引き継いでしまうリスクもある。そこで、今われわれがやっている業務や、3カ年サービスラインの要件をそのまま落とし込んだ形のシステムを、一から新規開発した方が良いのではないか、という方針に転換した」(大日氏)

現場の最優先事項は「絶対にローンチすること」

 また大日氏は、次期システムの構想が現場主導で進められてきたことの意義を、さらに異なる観点から次のように述べる。

 「現場が次期システムに対して何を最優先に考えるかというと、『絶対にローンチすること』だ。過去に行おうとしたシステム刷新が不調に終わったこともあり、もし次のシステムまで動かないとなると、われわれはいわば『ゆるやかな死』を迎えることになる。現場としては、『ローンチしない』『動かない』というリスクは何としても避けたい、という強い思いがあった」

 こうした問題意識が社内で醸成されたことには大きな意義がある、と同氏は言う。システム開発には、コストとリスクのバランスの問題が常に付きまとう。コストをとにかく抑えようと思えば、自ずと「安かろう、悪かろう」の製品やソリューションに手を出しがちだ。それでも運良くシステムが予定通りにローンチすれば良いが、実際には、スケジュール通りに作業が進まずにコストがどんどん膨らんでいく、ローンチがどんどん遅れていく、最悪の場合にはローンチ自体ができない……。こうした、もろもろの開発リスクを背負わなくてはいけない。

 GDOでは現場主導でプロジェクトを進めた結果、上記のような開発リスクは何としても避けるという方針を決定した。これは裏を返せば、リスクを回避するためのコストをいとわない、ということでもある。

 まずは開発リスクを低減するために、広く実績のある製品・ソリューションを選択する。そして、それらを導入するために掛かる費用をきちんと投資する。後述するが、こうした方針はERPパッケージ製品を選定する過程においても大きく影響を与えることになった。

 また、各事業部門が現場主導でそれぞれが思い描くサービスを実現できるようにするには、各業務システムの独立性がある程度担保される必要がある。

 「各事業部門でそれぞれ独立した業務システムを作ることができたり、柔軟に改修・改善できるようにするためには、そのバックエンドの基幹系システムにおいて、データの一貫性が保障されていなくてはいけない。そうなると、信頼の置ける会計システム、絶対に安心してデータ連携できる会計システム、というものがどうしても必要になる」(大日氏)

 このようにして、現場主導で新たな業務システムの在り方を模索していく過程で、バックエンドの会計システムの重要性が認識されていくことになったのである。

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