前回は、求められる人材ポートフォリオが作られていない原因に、IT企業の多くが明確な戦略を持っていないことと、ITSSに自社の戦略実行に必要な人材像が存在しないケースがあることを挙げた。今回は、ITSSがIT人材育成に生かされていない原因の2つ目である「人材育成の仕組みが構築されていないこと」の原因を追究し、解決の方向性を検討してみる。
人材育成には時間がかかるため継続的な取り組みが必要であり、会社としての仕組みがなければならない。しかし、ITSS導入企業でもキャリア体系構築に留まり、人材育成の仕組み作りができていない企業が多く見られる。
では、なぜ、人材育成の仕組み作りができないのだろうか? その原因を追究した上で、解決策を考えてみる。
人材育成の仕組みが構築できない原因としては、次の3つが考えられる。
人材育成の仕組みとして、キャリア開発プログラム(CDP:Career Development Program)を導入し、社員のキャリア開発に積極的に取り組んでいる企業もあるが、その中身は、キャリアコンサルタントによるワークショップなどによって、「社員個人が自己キャリアを考える場を与えること」に終始しているものが多い。
自己を見つめ直し、自分自身のキャリアを考えることも重要だが、目標とするキャリアへ到達するために、会社の支援の下、必要な知識を身に付けて経験を積んでいくことで、1歩ずつ確実に目標に近づいていくことの方がより重要である。
これを実現するためには、中長期のキャリア目標を設定するためのCDPと、短期の目標を管理する目標による管理(MBO:Management By Objectives through self control)が連動していなければならない。
しかし、多くのCDP導入企業ではCDPとMBOが連動しておらず、MBOは年度単位の業績管理だけに使われ、成果主義を実践する仕組みになってしまっている。
ITSS準拠のスキル診断ツールを導入し、社員のスキルをITSSという業界標準の物差しで把握することで自社の弱みを発見し、強化策として全社研修・教育を行うことがITSSを活用した人材育成サイクルであると、誤解している企業がある(図表1参照)。
業界平均値に社員のスキル平均値を上げれば、それで自社の人材育成ができたといえるものではない。
自社の業界内に占めるポジション、実践する戦略によっては、業界平均値以下でも構わないスキルもあるだろうし、自社が独自に必要とするスキルはITSSには存在せず、ITSS準拠のスキル診断ツールでは測定することができないものもあるはずだ。
すべて業界平均値を上回ったからといって、業績が業界トップになるものではないため、業界平均値を目標としたスキル診断は、自社の人材育成に必ずしも効果のあるものではない。
ITSS準拠のスキル診断ツールでスキル診断を行うのは(2)と同じだが、全社の傾向から全社の強化プランを作るのではなく、個人の強化プランを作っている企業もある。
社員個人が自分のスキルと業界平均を比較して自分の弱点を把握し、これを補うための研修プランを自分で作成、実施する。会社は、各スキル強化に必要な研修情報の提供、研修の受講料を負担する。いわゆる、アラカルト方式の研修である。
これには2つの問題点がある。
第1の問題点は、研修プランの作成が個人任せになってしまっている点だ。個人のプランと会社側とのすり合わせが行われていないため、会社の事業の方向性や戦略と一致せず、必要とする人材が育成できない可能性がある。
第2の問題点は、研修受講などの育成実施が個人任せになっている点である。「自分のスキルは自分で身に付けるもの」というのは正しいが、個人にすべてを任せておけばよいというものではない。
個人任せにしておくと、仕事が忙しい人はなかなか研修を受講できないばかりか、「研修をよく受講している人間は仕事のできない人」という見方をされるようになり、忙しい仕事をやりくりして研修を受けようとしても、後ろ指を指されるのではないかと思い積極的に受けることができなくなってしまう。
その結果として、個人が立てた研修プランは未実施に終わり、部門で準備した研修予算は使われずに終わってしまう。
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