順調に売れ続けたものの、行き詰る挑戦者たちの履歴書(44)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、青野氏がサイボウズを上場させるまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年08月25日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 サイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)の主力製品「サイボウズ Office」は、好調に売れていた。1997年10月に初代バージョンをリリース以来、順調に機能強化を進め、2000年にはバージョン4が発売された。青野氏らがサイボウズを設立した動機である「Web技術を使った“軽い”“手軽な”グループウェアを世に出す」という目標を、会社設立4年目にしてほぼ達成したのである。

 あとは、製品の機能を逐次強化しながら堅実にビジネスを継続していけばいいように思えるが……。この時点で青野氏は、サイボウズ Officeだけに頼ってビジネスを継続していくことに早くも危機感を覚えていたという。

 「サイボウズ Officeはまだまだ順調に売れ続けていましたが、『そろそろヤバい』と感じていました。新バージョンを出して、そこで稼いだお金をプロモーションと開発に回して、次のバージョンをまた売る……。この拡大再生産路線は、いつかは必ず行き詰るだろうと思っていました」

 サイボウズ Office以外の新製品を、早い段階で立ち上げなくてはいけない。グループウェア以外にも、安定収益基盤となる製品を確保しておかなくてはいけない。そう確信した青野氏は、新たにデータベース製品を出すことを決断する。

 早速、畑氏を中心とした開発陣にデータベース製品の開発を指示する。製品コンセプトはサイボウズ Officeと同様に、Web経由で「簡単」「手軽」に使えること。当時既に、サイボウズの社内ではそのようなツールを独自に開発し、運用していた。それをベースにして、わずか半年の開発期間で完成したのが「サイボウズ DBメーカー」、後の「サイボウズ デヂエ」である。

 2001年、同製品の初代バージョンがリリースされた。しかし、初めの数年間はなかなか収益が出せなかった。しかし、青野氏は当時を振り返り、「あのとき、DBメーカーを出しておいて本当に良かった」と断言する。

 サイボウズ DBメーカーは現在「サイボウズ デヂエ」と名を変え、サイボウズ Office、サイボウズ ガルーンと並ぶ同社の主力製品として着実に収益を上げている。先見の明があったと言うべきだが、青野氏本人いわく、「1年目からドーンといくかな、とも思ったんですけどね。ちょっと早すぎたのかな?」

 さらに続けて青野氏らは、もう1つの大きなチャレンジに挑む。サイボウズといえば、中堅・中小企業向けの“軽い”製品をネット販売で提供する企業、というイメージが強い。そもそもこれが、青野氏らが同社を設立した当初のビジネスプランでもあった。2002年、同社はこの路線を大きく方向転換する。大企業向け製品の開発と、パートナービジネスモデルの導入である。

 サイボウズ初の大企業向けグループウェア製品「サイボウズ ガルーン」の初代バージョンは、2002年9月にリリースされた。当時、サイボウズ Officeで高い評価を得ていた同社が初めて出す大規模向け製品ということで、リリース直後から多くの大手ユーザーに導入された。

 「初代のガルーンは、複数のサイボウズ Officeのデータベースをスケールアウトさせ、さらにそれらを一極集中管理するというアーキテクチャを採用したのですが、初めのうちはトラブルが多くて苦労しました」

 2002年に同製品をリリースした後の数年間は、「ガルーンに付きっきり」だったというほど、立ち上げには苦労したようだ。しかし、発売当初からユーザーからは「非常に使いやすい」と好評価を得ていたという。さらに、ガルーンの販売はネット経由ではなく、販売パートナーを経由して行われた。同社初の試みとなる、パートナービジネスモデルの導入である。

 こうして、サイボウズ ガルーンを世に出したことにより、同社はソフトウェアベンダとしてもう一段上の高みに登ったといえるだろう。

 「それまでは、Lotus Notes/Dominoを買えない中小企業のお客さまがビジネスの対象でした。でもガルーンは、『Lotus Notes/Dominoよりも使いやすいグループウェア』を標榜していました。『Lotus Notes/Dominoのユーザーをひっくり返していこう』というビジネスを新たにスタートさせたということです」

 こうして、常に先を読んで新たな施策を打っていくことで、サイボウズは順調にビジネスを成長させていった。2002年3月、同社は株式の上場先をマザーズから東証二部に変更するが、会社設立後4年7カ月での二部上場は、当時の最短記録であった。


 この続きは、8月27日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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