ないものねだりのRFP情マネ流マーフィーの法則(5)

今回は、システム開発における“RFP”についての法則を紹介する。

» 2008年01月08日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 システム開発の外注では、RFP(Request For Proposal)の作成やベンダの選定から納入、アフターフォローにいたるまで、いろいろな局面で留意すべきことがある。

情マネ流マーフィーの法則その18

ないものねだりのRFP


 システム外注を円滑に行うには、適切なRFPを作成することが重要だという。

 IT成熟度が未熟な中小企業にもそれを求めている。しかし、適切なRFPを作る能力はIT技術者の最高能力の1つであり、素人にそれができるはずがない。ないものねだりの典型例である。

  • 究極の目的は明確である。もうけたいのである。必要ならば数値的に明確に示すこともできる。
  • でも、どうしたら儲るかが分からない。分かっている場合でも、ITとは直接的な関係のない(と思われる)ビジネスモデルである。
  • ITに関係しそうだと思っても、どこにどのように適用すればよいか分からない。
  • 適用分野が分かっても、それを情報システムの機能として具体的に示すことができない。
  • 情報システムの機能は分かっても、ITベンダにどう示せばよいのか分からない。

 それで、RFP策定にコンサルタントを使えというが、そのコンサルタントにも適切に説明できない。そこで、コンサルタントの質問に答える形式になるが、コンサルタントが適切な質問をしないので、ますます思っていることと異なる方向へいってしまう。

情マネ流マーフィーの法則その19

コンサルタントの食い逃げ。ベンダの我田引水


 RFP作成あるいは外部仕様書作成までの工程と、具体的なシステム構築の工程を切り離して契約せよという。

 ところが、前者でのコンサルタントは、絵に描いた餅、机上の空論に終始した分厚い文書を残して去ってしまう。後者のベンダは、それを読んで「これでは構築ができない」といい、結局は自分勝手な仕様書に作り直してしまう。

情マネ流マーフィーの法則その20

提案の評価は、RFPの内容とは無関係である


 提案書の説明会は、PowerPointのテクニック競技会の様相になる。かなりの準備をしたと感心する初心者もいるが、他社から転職してきたベテランIT部員は、先の職場でも全く同じ画面を見たことに気付く(もっとも、これを揶揄するべきではない。ベンダの情報共有化や、部品再利用の成熟度を示す尺度になる)。

 当然、経営者(注)はそのような表面的なことには惑わされず、提案内容を重視する。ところが、その内容がRFPの要求をどのように解決しているかには関心を持たない。

 関心を持つのは「貴社を取り巻く経営環境」とか「競争に打ち勝つには」など、提案の枕言葉の部分だけである(経営者が理解できるのはこの部分だけなので)。

 これを理解しているベンダは、その枕言葉に大部分を割き、提案内容は「ですから、弊社にお任せいただくことが最適なのです」の1行だけにする。当然、この枕言葉はベンダが調査・理解したものではなく、業界誌の記事をPowerPoint画像にしただけである。

(注)以下、経営者とはベンダ選択の決定権を持つ者のことである。

情マネ流マーフィーの法則その21

ベンダの数だけ「標準」が作られる


情マネ流マーフィーの法則その22

サーバの数は、ベンダの数に比例する


 ベンダは多様な提案をしてくるが、経営者が判断する基準はただ1つ、見積金額である。そのため、案件ごとに異なるベンダになる。

 ベンダは、それぞれ自社のシステム開発の標準を持っている。提案書にはその標準を用いることが書いてあるが、そのようなさまつなことを重視する経営者はいない。その結果、社内には多数の「標準」が乱立することになる。多様なOSやミドルウェアが存在するのも同様な理由である。

 また、システム構築のときに既存のサーバを用いると、他社が開発した既存システムとの調整が面倒である。そこで、開発用として臨時に新しいサーバを設置する。実施後は撤去されるはずなのに、その開発用サーバをそのまま(グレードアップして)本番用にするのが通常である。その結果、IT部門には多数のサーバが林立してしまう。

情マネ流マーフィーの法則その23

2423の法則(作者不詳)


 当初は、2の機能のシステムを2の料金で契約する。作業を進めている間に多様な追加要求が出てくる。ベンダは追加機能だとして4の料金を求めるが、発注側は仕様解釈のうちだとして2の料金に固執する。結局のところ、ベンダは2の料金で3の機能を持つシステムを開発する。

 ベンダは2の料金で3の機能を作らされたとして、1の不満を持つ。発注側は4の機能を求めたのに3の機能になってしまったとして、1の不満を持つ。これが公平な取り引きというものだ。

情マネ流マーフィーの法則その24

管理を強化すれば裏取引が増加する


 仕様変更のトラブルを避けるために、双方が責任者を決めて、ささいな変更であっても署名捺印する仕組みにする。

 ところが、ユーザー側の担当者は責任者に報告説明するのが面倒だし、ベンダ側の担当者はプロジェクトリーダーに報告説明するのが面倒である。そして、担当者間での裏取引が成立する。この取引は、交際費を用いて一杯やることで決済が終結する。

情マネ流マーフィーの法則その25

ユーザーがベンダを最も信用するのはテスト段階である


 ユーザーが真剣にテストデータを準備することはまれである。

 前月データを渡してその結果をチェックするだけである。そのために、誤りデータのチェックをすることはほとんどない。テストのときだけは、ベンダは間違いを犯すようなヘマはしないと信じている。

 信じているからこそ、エラーは裏切りだと思う。それでSLAの条件を厳しくして、ペナルティ条項を主張するのである。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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