CIOと情報システム部門の役割を見つめ直せCIO、もの申す(2)(2/2 ページ)

» 2007年05月23日 12時00分 公開
[佐藤 良彦,@IT]
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ITの進展、情報システム部門の変遷

 情報システム部門の役割は、過去のデータプロセッシング──いわゆるEDP部門から電算室を経て、IT部門へと進化してきました。そしていま、経営情報戦略部門へと進化を遂げようとしている(進化しなければならない)のではないかと感じています。単に、エンドユーザー部門から上がってきたビジネス要件をシステム要件に落とし、それをコンピュータ・システムとして製造・保守するだけのシステム部門は、時代に取り残されていくように思うのです。

 システム部門の戦略部門化というテーマは、かなり以前からいわれてきていますが、小生は特に最近、それの重要性を感じます。そして、この変化に早期に気付き、組織化を果たした企業が競争優位に立てるのではないかと考えているのです。

 誤解がないように申しておきますが、すべての企業にこの考え方が適用できるということを主張するわけではありません。例えば、インターネット技術を武器に事業を展開している企業であれば、ITをコアとして事業戦略を立案し、ビジネス・サービスを具現化していくでしょう。そうでない企業であれば、事業戦略を立案してからIT化戦略に落とし込んでいくようなアプローチを取るかもしれません。企業のビジネスモデルや企業が置かれた環境に応じて、情報システム部門の立ち位置と在り方は変わるのです。

図1 情報システム部門の歴史(出所:経済産業省「平成15年度情報経済基盤整備レポート」)

 上の表は、経済産業省の平成15年度情報経済基盤整備レポートからの抜粋です。ホストコンピュータの時代、ITは業務の合理化・省力化を目的にした処理を中心に使われていました。それがインターネット/オープンソースの時代になると、ITの革新によって、ビジネスそのものへの直接的な効果を狙う働き(売り上げ増大、顧客満足度の向上など)を期待するものへと変化していることが分かります。これは現在も同じです。

情報システム部門スタッフに求められるマインドとスキル

 先に、情報システム部門は経営情報戦略部門へと進化を遂げようとしている、そうあるべきだということを主張しました。その際、CIOはもちろんのこと、情報システム部門のスタッフに求められるのは、経営戦略を支えるIT戦略を企画・立案できるスキルと経験にほかなりません。詳細な個別技術をマニアックに知っているだけでは、ITの技術オタクになるだけで、経営にITを結び付けることはできません。

 インターネット技術やオープンソースの発展により、BtoB/BtoCといったEC(電子商取引)に関連する事業が発展し、他方ではERPパッケージなどを用いたサプライチェーンの構築が進められています。また、アライアンス事業の展開やM&Aのような動きが日常の出来事として起こっている現在、情報システムを無視しては実行できない事業や業務は数多くあるのです。

 だからこそ情報システム部門は、ビジネス的知識と経験を今後、いやいますぐにでも必要とされるのです。加えて実践力も求められます。

 実践スキルの1つに、プロジェクトマネジメント能力があります。日本でPMBOKなどが広く知られるようになったばかりの2000年代前半ぐらいまでは、プロジェクトマネジメントも座学的な知識(サイエンス)と見なされていましたが、いまではセンスや職人芸的な実践力という意味でアートないしクラフティングという側面が強調されています。

 そのプロジェクトマネジメントですが、IT関連──特にSIerの方と話をすると、プロジェクトマネジメントはシステム開発の分野だけで使われる言葉のように思っている人が多いことに驚きます。小生は、経営こそがプロジェクトマネジメントであると考えています。

 企業は複数の事業やサービス、そしてそれを運営する複数の部門から成り立っています。すなわち、1つ1つの事業・サービスをプロジェクトとしてとらえるならば、それらの集合体である企業経営は“プログラム※”だといえます。ですから、企業の社長は複数のプロジェクトを統括するプログラムマネージャであり、各事業部門長がプロジェクトマネージャであるといえるでしょう。こうした考えを「プログラム・マネジメント」とか、「エンタープライズ・プロジェクトマネジメント」などといいますね。

※プログラム:プロジェクトマネジメントにおける用語で、プロジェクトの上位にある管理単位。一般に複数のプロジェクトから構成される。各プロジェクトを包括的に計画・評価・調整・管理するための概念である。

 今回は、CIOと情報システム部門の在り方について述べてきました。最後に小生の提言をまとめておきましょう。

  • 情報システム部門は経営情報戦略部門へと進化を遂げるべきであり、経営サイドもそれに気付いて、相応のポジションに位置付けるべきである
  • ビジネスが先か、ITが先かについては企業環境やビジネスモデルに応じて選択されるものであり、経営者は現状の経営戦略策定アプローチが妥当かどうか、いま一度考えるべきである
  • 経営=プロジェクト(プログラム)であることを意識し、CIOや情報システム部門は経営戦略から設計・実装、そしてオペレーションからモニタリング(経営監視と改善施策)まで、多岐の領域に直接的にかかわるべきである
  • 「CIOの必要性」について企業は認識を深め、その育成に関してももっと真剣に注力すべきである

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筆者プロフィール

佐藤 良彦(さとう よしひこ)

1965年生まれ。日本工業大学大学院 技術経営研究科(MOTコース)修士課程修了。 日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)の情報システム部門および国際業務企画部門にて国内・海外の基幹系、情報系システムの企画・開発・運用において大小さまざまなITプロジェクトに携わる。その後、デロイト・トーマツ・コンサルティング(現アビームコンサルティング)などで、新規事業や新規事業部門の立ち上げ、IT企業の再生、大型BPRプロジェクトなどの案件を手掛ける。また、IT教育ベンダ最大手のグローバルナレッジ・ネットワークで、IT戦略系、プロジェクトマネジメント系のコンサルタントや講師としても活躍の実績がある。現在は、某インターネットポータルサイト運営企業において、情報システム本部長を務める一方、高度IT人材の育成や、技術経営(MOT)の普及のために、2007年4月から母校である日本工業大学大学院技術経営研究科(MOTコース)の客員教授も兼任。


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