プリンティングガバナンス、問題点とその背景ネットワーク時代のプリンティングガバナンス(2)(1/2 ページ)

前回は企業内の情報メディアとして「紙」が重要なコンポーネントであること、それを対してガバナンス(統治)が必要であることを解説した。今回はプリンティングガバナンスの問題の遠因を探ってみたい。

» 2008年03月11日 12時00分 公開
[向井 俊一,@IT]

昔、プリンティングは統治されていた!?

 企業によるコンピュータ利用が始まったばかりの1970年代、プリンティングは統治されていました。メインフレームのホストシステムによる印刷はすべてコンピュータルームに設置された大型のシステム・プリンタによって高速大量に出力され、それが仕分けされて各事業拠点に注意深く配送されていました。印刷拠点の責任者(情報システム部門、計算センター)は、どこからどんな印刷要求があり、いつどこでどれだけ印刷するのかをすべて把握していました。プリンティングは統治されていたのです。

 今日、このようなプリンティングガバナンスは失われています。その理由の第一は、オフィスのネットワーク化が進展したこと、そして小型のオフィスプリンタの普及です。小型プリンタはパソコン用として登場したものですが、1980年代のパソコンは原則としてスタンドアローンで使われており、メインフレームやオフコンで構築された基幹系システムとは隔絶された、文字通り“パーソナル”な存在と考えられていました。従って、パソコンもそのプリンタも情報システム部門が管理する対象ではなく、部門や個人の管理に任されていました。

 それがTCP/IPネットワークの進展に伴って、企業システムのネットワーク化とオープン化が進み、オフィスにいる社員のパソコンから業務システムにアクセスし、その内容を手元のプリンタで印刷できる状況が生まれました。パソコン+ネットワークの発展は、オフィスワーカー個々人の知的生産性を高めたといえるでしょうが、今日盛んにいわれているセキュリティ問題の根源はここにあるといえるでしょう。

 また、プリンタはオフィスにありふれた装置になりました。複写機は、複合機(MFP)へと進化してプリンタ機能を備えるようになっており、一定規模以上の企業であれば、膨大な数のプリンタを設置・利用しているはずです。それを総合的に把握・管理するのは困難になっています。

 それに関連してシステムのマルチ化がプリンティングガバナンスの阻害要因になっていることも指摘しておきます。大型機の時代は、その会社のホストシステムはある特定のベンダに統一されているというケースが多かったのですが、現在では業務ごとにアプリケーションが次々に作られたこともあって、適用業務ごとに異なるホストシステムが混在しているケースが増えています。メインフレーム、UNIX、Windowsをベースとするシステムがそれぞれあって、それぞれに異なるプリンタが用意されているというわけです。これもプリンティングの一元管理を難しくしています。

 加えて、使用されるプリンタの多様化も阻害要因です。1970年代、システム・プリンタの時代はプリンタの種類もわずかでした。今日では、さまざまなプリンタ・メーカーのさまざまな機種・仕様がオフィスに混在する状況です。これらを統一的に管理するのは技術的に困難なのです。

ネットワーク時代のプリンタ・ユーザーの自然な要求

 前回の「プリンティングガバナンスとは何か?」で、「紙は便利な情報メディアだ」という話をいたしました。企業における情報ユーザーとして必要なのは第一に「情報」であり、続いてその情報を扱うに当たって紙メディアが妥当だというとき、プリンティングが行われます。ユーザーは最終的に紙メディアで情報が手に入りさえすればよいので、それがどのような言語を使いどのようなプリンタで印刷されたのかということは関係ありません。

 このとき、ユーザーは自分の身近なところにあるプリンタに出力したいと考えるのはごく自然のニーズでしょう。ところが現実には、システムやアプリケーションによって使えるプリンタが限られていて、融通が利きません。必ずしもユーザーにとって便利なプリンタに出力できる環境にはなっていないのです。

 現在、多くの企業では社内が統合ネットワーク化されており、システム同士も接続されています。にもかかわらず通常はメインフレームをホストとするプリンティング・システムはメインフレーム専用プリンタに、UNIXシステムはその専用プリンタに、個人用PCはオフィスの共用プリンタというように、システムに依存したプリンタが使われているのです。これはシステム側の都合であって、ユーザーに不便を強いるものです。なぜ、プリンタだけが特にこのように融通が利かないのでしょう。それには理由があります。

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