ERPで「見える化」も実現!ERPリノベーションのススメ(3)(1/2 ページ)

「見える化」というと、反射的にSCMやBIの導入を考えがちだが、ちょっと待ってほしい。ERPをベースにして足りない機能だけ補えば、「見える化」をはじめ、実にいろいろなことができる。いまあるシステムを賢く、安く、徹底的に使いこなしたい

» 2008年08月11日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

ERPは会計機能だけではない

 皆さんもご存じの通り、ERPという言葉は製造業におけるMRPが語源といわれています。製造業では原材料、仕掛品、製品といったモノの動きを把握し、その調整をきめ細かく行うことが、ムダを最小に抑え、利益を最大化するポイントとなります。それを実現する仕組みをMRP(Material Requirements Planning)と呼ぶことを受けて、「経営資源であるヒト・モノ・カネのムダを最小にする仕組み」はERP(Enterprise Resource Planning)と呼ぶべきだろう、というわけです。

 事実、MRPが定着しているだけに、製造業者におけるERP導入率は高く、「ヒト・モノ・カネの情報を統合管理して最適化する」という概念も広く浸透しています。しかし実際にERP導入企業が活用しているのは、会計を中心としたカネを管理する機能がほとんどで、モノを管理する機能は二の次となっているケースが多いようです。

 これは、ERPの導入目的が会計システムのリプレースであったり、経営管理のレベルアップにあったりと、会計以外の機能はそもそも視野に入っていなかった例が多いためです。また、工場など製造現場の生産管理にはこだわりのノウハウが多いため、「それらをERP標準機能でカバーするのは難しい」と考える企業が多いことも挙げられます。

 とはいえ、最近よく使われている業務改革のキーワード「見える化」は、製造業においても重要な課題です。具体的には、必要なモノを、必要なときに、必要なだけ、できるだけ安い原価で、できるだけ早いリードタイムで、できるだけ効率的に作ることを狙いとしています。この実現のためには「モノが今どこにいくつあるのか」、正確に把握する必要があります。

 そう聞くと、反射的に「SCMシステムが必要だ」と考えたくなるところですが、ちょっと待ってください。新たにシステムを購入するほどのコストをかけなくても、ERPがあれば「経営資源であるヒト・モノ・カネのムダを最小にする」ことができるのです。今回は、会計機能とは違う視点から、ERP活用を考えてみたいと思います。

既存システムを有効活用する

 では、さっそく事例を紹介しましょう。システム構築の選択肢は、リプレースや新規導入ばかりではないことを、改めて考えさせられる事例です。

事例:製造業C社の挑戦〜見えない拠点を3カ月で“見える化”する〜

 中堅部品メーカーC社は、急激な原材料と原油高騰、そして世界各地で頻発する地震などの災害によって経営方針の抜本的な見直しを迫られていた。2年前に策定した5カ年の中期経営計画も景気回復を前提としており、グループ売上の約半分を占める海外の生産・販売拠点の売上が、自ずと回復することを見越したものであった。

 ほぼ同じ製品を、拠点ごとの地域特性やニーズに合わせて製造・カスタマイズして販売する戦略は、地域によって状況が異なることから収益性に差があった。しかし、いずれの拠点も着実に成長しており、特に新興国においては将来、飛躍的な業績が見込めるはずであった。

 しかし、C社を取り巻く状況は大きく変わってしまった。今期の売上は楽観的な予想を完全に裏切り、海外拠点の多くで赤字決算が避けられないことが確実となった。“現代の第3次オイルショック”とでもいうべき緊急事態が勃発することなど、完全に想定外であった。

 本社は全グループに向けて方針転換を通達した。「全社業績を最大化するために、本社集中管理による生販在オペレーションコントロールを徹底する」と決定したのである。従来は拠点ごとに製品を生産・販売していたが、今後は本社が全拠点の生産・販売を統括し、最適な生産地・販売先を指示することによって、生販在を最適化しようというものであった。

 この計画を成功させる鍵は「モノの見える化」にあった。製品の原材料、仕掛品、完成品の在庫・物流、販売状況を本社がリアルタイムに把握することで、グローバルレベルの最適化を実現するのである。これを受けて情報システム部門には「3カ月以内に仕掛品と完成品を即時に把握できるシステムを構築せよ」という指示が下された。

 情報システム部では、さっそくこれまで付き合いのあったITベンダらに相談してみた。彼らの提案はSCMシステムの導入であった。しかし各ベンダとも「3カ月以内という納期では不可能、最低でも12カ月は必要」ということであった。

 結局、SCMシステム導入を断念し、次に検討したのはBIの構築である。これは「モノの見える化」というテーマに対して、半分だけ正解といえた。というのは、各拠点の状況は管理できるが、そのデータをリアルタイムに入力する必要があったのである。

 日々の状況を各従業員に入力させるのは、業務負荷、コストの両面からみて難しく、さらに各拠点のデータ二重入力による誤入力や不整合の危険性もあった。加えて、各拠点に設置してあるシステムは、ERPからExcel/Accessレベルの業務管理システムまで多種多様である。これらを各拠点、一様にそろえることは、コスト的にも時間的にも不可能であった。

 ではSCM、BIの導入が難しいなら、それに代わるものは何か──具体的には、それぞれフォーマットの異なるシステムからタイムリーにデータを収集し、フォーマットを正規化し、これを時系列で一元管理する仕組みが必要である。

 そうした中、解決策となったのは、本社ERPのAMO(アプリケーション・マネジメント・アウトソーシング)サービスを提供していたベンダによる提案であった。その提案とは、現在稼働している本社ERPをベースとして、「モノの見える化」すなわち在庫管理機能に特化したERPを追加構築し、ここに全拠点の在庫情報をETLEAIで自動的に収集する、というものであった。

 「在庫管理統合データベース」としてERPを追加構築し、これにBIを連携させることで時系列にモノの流れを可視化する──この方法なら、ERPは既存ERPの追加構築で済むほか、BIも既存ERPで利用しているものがそのまま流用できた。新規投資はETL/EAIの導入費用と、そのデータ連携設定作業料のみで済む。C社は迷わずこの方法を選択したのである。

 またC社は、BIレポートの開発についても細心の気を配った。時差や各拠点の管理レベルの差異を考慮し、データ収集時間を示すタイムスタンプ情報を追加したほか、レポート照会時に24時間経過したデータが表示される場合、自動的に赤字で表示されるように工夫した。さらに「精度が低いと思われるデータは、人が確認する」という指示を徹底した。これによって、コスト、納期、品質いずれの条件もクリアしたのである。


こんな時代だからこそ、“リノベーション”を

 さて、以上のように製造業において「見える化」の仕組みを構築するのは非常に重要なことです。もちろん時間やお金に余裕がある場合には、多くのITベンダが勧めるようにSCMシステムを導入し、需要予測精度の向上や、高度な生産シミュレーション機能の実現などを追求するのもいいかもしれません。

 しかし現在の経済状況は、とても平常とは思えません。原材料価格の2〜3割アップは当たり前で、原油やエネルギーコストは昨年に比べると2倍以上に跳ね上がっています。しかもそれを売値に転嫁できるのは、製造業界の代表的プレイヤーの中でもごく一握りの企業だけです。

 こうした状況で新規にIT投資を決断するのは非常に難しいものです。しかし「見える化」をはじめ業務改善の必要性は常に存在しています。ではどうすればよいのでしょうか? 今回の事例はそれに対する1つの答えです。つまり、コストパフォーマンスを追求したアイデア勝負のIT活用──リノベーションの発想が、こんな時代には有効だと思うのです。

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