企業にとって投資を絞り込みたい状況が続いているが、中長期的な視点でみれば、まさしくいまがERP導入・再構築の絶好のタイミング。ERP刷新をテコにすれば、システム構成のスリム化など、コスト削減のあらゆる可能性も見えてくる。
2009年度の企業決算は、ほぼすべての業界で厳しい結果となりました。金融はもちろん、日本の基幹産業である自動車、ハイテク業界なども、世界的な景気後退の直撃と円高により、今期も厳しい状況が続く見通しです。
こうした状況を反映して、「将来の成長事業や新製品開発に投資を絞り、既存事業や設備投資、IT投資については必要最小限に抑える」という企業が多く、2009年はIT投資もマイナス成長が確実といわれています。
そうした中、ベンダ各社は少しでも売り上げを伸ばすために、サーバやパッケージ製品の大幅な値引きや、コスト削減提案を積極的に行うようになりました。
これにより、1年前には「2億円規模の投資が必要」といわれたERP導入も、1億円程度でできるケースも出てきました。技術者やコンサルタントも仕事が減り、不況以前に比べると優秀な人材を集めやすくなったといわれています。いま、このタイミングでERPを導入したり、抜本的に再構築することができれば、かなりお買い得な買い物になることでしょう。この不況は、ユーザー企業にとって大きなチャンスでもあるのです。
今回は、こうした状況を生かしたERPの導入・再構築のメリットについてご紹介しましょう。
では事例を紹介しましょう。この不況を逆手に取った、中堅製薬メーカー、G社のケースです。
G社が現行のERPを導入したのは、2000年問題が落ち着き、米国のITバブルが崩壊した直後の2002年であった。製薬業界では比較的早い時期からERPの導入が進み、大手外資系ベンダの製品が大きなシェアを獲得していた。特に1995年以降は2000年問題への対処とも相まって大盛況であった。
当時、ERP導入には最低10億円以上の費用と1年以上の構築期間が必要とされていた。G社もかなり早い時期からERPに注目していたものの、導入コストが高く、優秀な技術者の確保も難しいことから、踏み切れずにいたのだった。
しかし2001年、米国に端を発したIT不況は、G社にとって絶好のチャンスとなった。それまで何度相談に行っても事務的な対応しかしてくれなかった大手ベンダが、優秀なコンサルタントと技術者を集めて、それまで聞かされていた見積もりの半額ほどでERP導入を請け負ってくれたのである。
そのとき、G社の経営者と情報システム部門長が痛感したのは、大規模なIT投資については“逆張りが最良の買い方”(※注1)」ということだった。これを機に、G社では「ERP再構築のタイミングもIT不況時を狙おう」と決めたのである。
以来、G社では、またいつか訪れるであろうIT不況を有効利用できるよう、次期ERP構築に向けた“準備”を着々と進めるようになった。ERP普及率の高い製薬業界では、優良な活用事例が多い。G社の情報システム部門はそれらを参考にしつつ、経営企画部と協働してERP再構築の企画書を毎年作成したのである。
企画書には、ベンダ選定用のRFPとして、いつでも利用できる水準を確保した。ユーザー会や同業者のネットワークを通じて、「どのベンダの、どのコンサルタント、技術者が優秀か」といったこともきめ細かく調査した。
そうした地道な作業によって、ベンダ候補の絞り込みから、採用すべき技術・製品情報の収集、ERP再構築に必要な費用の試算までを行い、毎年の企画書に盛り込んだ。つまり、社長からいつでもゴーサインをもらえる準備を整えていたのである。そしてG社が現行のERPを導入した7年後の2009年、“チャンス”は再び巡ってきたのであった。
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