この2年足らずの間に、あまりにも多くの唖然とするようなことが次々と起こった。その原因を「集団の特性」という観点から考えてみた。
世の中には二種類の立場がある。片方は「問題を解決して、結果に責任を持たなければならない立場」であり、他方は「理想論を述べたり、問題点を探し出して追求したり、種々の要求をして『何とかしろ』と言っていれば地位が保てる、と考える立場」である。
政治の世界では与党や地方自治体の首長は前者、野党や地方自治体の議会の多くは後者である。国民の多くも後者であろう。企業なら経営者やマネージャは前者、労働組合などは後者に当たるであろう。ラインとスタッフの関係にも近いものがある。業界で言えば、現在のメディアやコンサルタントの多くは残念ながら後者であろう。双方の間でチェック・アンド・バランスが適切に取れた状態では、緊張感が醸成され、双方ともに道を外すことは少ないのだが、現状は後者に傾斜しているように感じる。
政権交代で人が攻守ところを変えて混乱が起こった。立場をまっとうできる能力が備わっていない、つまり「片方の立場で付けた力が他方では通用しない」という問題が顕著に現れた。
長年野党や傍流にあった人は、マネジメントの根幹でもある「ビジョン」や「戦略」「解決の方法」などを考える必要はなかった。チームプレーの必要性はなかったから、各自がそれぞれアイデアを語り、問題が起こった際には、各自がバラバラの論理で「禁止しろ」「責任を取れ」とカッコよくやれば人気が出た。「つぶす力」が評価された。業務仕分けなどはいまだにこの延長線上にある。各人がバラバラに矛盾する言動を行っても、「攻撃の内容に矛盾がある」などとは誰も批判しなかった。
立場に必要な能力は育って行くが、必要のない、使わない能力は育たない。しかし、問題を解決する責任のある側になれば、今までとは違った、別の資質、能力、発想が必要になる。「実行の具体論」と「結果に対する責任」ということの意味、重さが比較にならないほど大きなものになる。今までの立場で培った成功体験は関係ない。「作る力」が求められるのだ。
マネージャに求められる能力はかなり広範なものであり、その種類には必須科目と選択科目があると思う。選択科目は、例えば自分で「研鑽して、たらざる部分を伸ばす方法」もあれば、「他人に気持ちよく協力してもらえるような人柄」や「人に任せられる能力」で代替する方法もある、といったことである。
いずれにせよ何かの方法で、360度全方位の能力を自分の回りに備える必要がある。「一芸に秀でる」「得意分野を伸ばす」だけでは、マネジメントはおそらく難しいと思う。「弱点をどう補うか」を真剣に考える必要がある。
マネージャを目指す人には、自ら「マネジメント能力が育つ仕事のやり方、心の持ち方」を心掛けてほしいと思う。今、マネージャの地位にある人には、「凡庸なマネージャを得るために、優秀な専門技術者を失う」ようなことにならないよう、まず部下の特性をよく見極めてほしいと思う。マネージャ向きの人、専門分野で力を発揮できる人など、人はさまざまである。そして「マネージャに育てよう」という人には、マネジメント能力が付いて行くような立場を与え、厳しく育てることを考えてほしいと思う。多数の部下の「力を発揮させるも、殺すも」マネージャ次第なのだから。
参考リンク
「リーダーシップを発揮するにはどうすれば?(後編)」
(@IT情報マネジメント「何かがおかしいIT化の進め方」第26回)
3月11日、地震と大津波が襲ってきた。街が完全に破壊された。原子力発電所が大事故を起し、いまだに収束の目途の見えない状況が続いている。こんな大問題の中では誰がどうやっても、十分なことはできないし、どこからか批判も出るものではある。しかし、今回の地震後の展開を見るにつけ、「それでも」「あまりにも」という気持ちを抑えることができない。
“リーダーシップ”の姿を、以下の9つの言葉に集約してみた。 危機の下で、組織のトップ、現場のリーダー、現場で作業に当たった人、一般国民、諸外国、それぞれに求められたものは何であったか、その中で、それそれがどのように行動したかを、そして「自分なら本当にどうできただろうか」を以下の言葉から考えてみていただければと思う。「〜すべき」論をいくら述べてみても自分に力は付かない。
ノブレス・オブリッジ(フランス語)――貴族の責任:たとえ平常時には大したことはしていなくても、「いざというときには、領民(国民)を守るために身を挺して戦う」というエリートに求められる責任感・規範。
覚悟:「矢面に立ち、逃げない覚悟」が、周囲のやる気と信頼を生む。「最悪のケース」を覚悟すればそこから余裕が生まれる。逆に自分の目先の都合から事態を軽く考えようとすれば、事態の悪化に伴いどんどん追い詰められていく。
他人に任せる器量:己を知り、他人を信じられる心。
気づき・心配り:前もって自治体に退避の勧告の連絡がなかったため、首長は住民への説明ができずに困り、現場は大混乱した。「放射能汚染水の海への放流」は、水産業を監督する農林水産省にも、近隣諸国にも連絡しなかった。外国からの抗議に対し「国際法上問題ない」と言う大臣がいた。外国の政府は「自国民に説明できるようにしてほしかった」のだと私は思うのだが。5月のサミットの最大の話題は「日本の復興」だが、政府の「復興構想会議」の中間答申は6月だという。世界から大いに失望を買うだろう。
冷静・辛抱・広い視野:ある人は現状を、「全員がボールに群がり、リーダー自らシュートを狙う“少年サッカー”のようだ」と言う。司令塔も、ゴールキーパーも、冷静に全体を見る監督も見当たらないという意味のようだ。マネージャは最終判断をしなくてはならない。全体が見えなければ判断を誤る。安全圏に身を置いて怒る上司は、現場で頑張る部下にとって最悪の姿に映る。
率先垂範・使命感:現場を預かる指揮官に必須の規範。
言語力と情報公開:いろいろの背景/価値観/利害関係を持つ人(ステークホルダー)に、同じ言葉で理解、納得させる言葉選び/言葉使い。「嘘やあいまいさ」「言わないこと」が内外から不信と不安を呼ぶ。
タイミング:いかに良い内容でも時期を失せば弊害だけになる(注1)。
人間としての心:大きな危機に対し、世界中の人が、また日本の国民が連帯できることを示した(注2)。将来への一条の光だ。その一方で、買い占め、被災地から来た人への差別的言動、停電に対する一部の都市生活者の利己的な発言など、大変残念な事もあった。
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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