IPv4アドレスの枯渇時期に関する検討で代表的なものは、APNICのジェフ・ヒューストン(Geoff Huston)氏の「ISP Column: Numerology」と、Internet Protocol Journalに掲載されたシスコ・システムズのトニー・へイン(Tony Hain)氏による「A Pragmatic Report on IPv4 Address Space Consumption」(PDFファイル)である。
ヒューストン氏は、以前より「IPv4 Address Report」というレポートも公開している。IPv4 Address Reportにおけるアドレス枯渇時期算出根拠は、以前は「ISP Column: Numerology」のそれと異なっていた(本稿執筆時点では同一の内容になっている)。
これらのレポートはすべて英語で掲載されているが、JPNICの報告書では、解説を兼ねて、すべて日本語に読み解いている。
トニー・へイン氏のレポートは、ICANNやインターネットレジストリ関係者による電子メール会議の内容についても掲載しており、こちらもJPNICの報告書では日本語で読み解いている。
これらの内容は非常に興味深いが、本稿では誌面の都合上、記載内容のポイントを整理するにとどめる。時間があればぜひ一読いただきたい。
これらの報告書に述べられた予測のポイントを示したのが下の表である。ここでは4つの報告書が示した枯渇時期について整理してあるが、ここでは、下の2つに注目する。
ドキュメント名 | 発行年月 | 筆者 | 予測の特徴 | IANAプール | RIRプール | BGP |
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The ISP Column(How long have we got?) | 2003年7月 | Geoff Huston | 過去10年間の傾向を将来に延長して予測BGPの経路数を考慮 | 2021年 | 2022年 | 2029年 |
IPv4 Address Report (Potaroo) | 2005年12月28日* | Geoff Huston | 過去10年間の傾向を将来に延長して予測BGPの経路数を考慮 | 2013年1月* | 2016年1月* | 2022年8月 |
Internet Protocol Journal (A Pragmatic Report on IPv4 Address Space Consumption) | 2005年9月 | Tony Hain | 過去5年間の傾向を将来に延長して予測 | 2009〜2016年 | ― | |
The ISP Column (Numerology) | 2005年11月 | Geoff Huston | 過去3年間の傾向を将来に延長して予測BGPの経路数を考慮 | 2012年1月24日 | 2013年3月23日 | 2027年1月16日 |
*このレポートは、Web上に常時掲載されており、随時データが更新されて枯渇予測日が変わる。ここでは2005年12月28日時点のデータを掲示している |
へイン氏の予測は、2009〜2016年と、枯渇時期に7年の幅を持たせている。一方、ヒューストン氏の予測は、2005年11月時点でIANAプール枯渇が2012年、RIRプール枯渇が2013年と、比較的明確に予測している。
これは、へイン氏の予測では彼の予測手法にいくつかパラメータを変えて適用して計算した結果を文書としてまとめており、一方、ヒューストン氏の予測では、一定の計算式によって、定期的(ほぼ毎日)にIANAやレジストリの割り振り/割り当て状況によって計算し直し、Web上のレポートを自動的に更新しているためである。ヒューストン氏の予測は、IANAからレジストリに割り振りが行われる直前と直後で予測値が異なってくる。
予測の方法は、いずれも過去数年の需要トレンドから、統計的見地に基づき、指数関数などを用いて将来を予測しているにすぎない。あとは、需要トレンドとして計算する「数年」という期間をどのように設定するかで決まってくる。
ヒューストン氏の過去のIPv4 Address Reportでは、この値を10年に設定しており、予測枯渇時期は現在のものよりも遅くなっていた。しかし、過去10年の間にはアドレス需要トレンドが大きく変化している(図2)。このため、へイン氏はより直近のトレンドを基に予測するべきとして、5年トレンドを採用して予測し、その後ヒューストン氏も追随して、3年トレンドに基づく現在のISP Columnの掲載を始めた。
もう1つ言及しなくてはならないポイントがある。それは、「枯渇」というものの定義である。そもそも「IPv4アドレスの枯渇」といってもIPv4を利用したネットワークがなくなるわけではない。アドレスの割り振り/割り当てを行っているレジストリが追加的に配分するアドレスがなくなるということである。
また、アドレスの割り振り/割り当ては、上述のようにIANAを頂点とした階層構造で行われているため、IANAの割り振りが終了したからといって、すぐにエンドユーザーが新たなIPv4アドレスの割り当てを受けられなくなるわけではないし、利用者間ではレジストリを介さないアドレスの供給があるかもしれない。しかし、レジストリからの割り振り/割り当てが終了することが1つの転機になるのは間違いない。
このような枯渇予測の背景を踏まえると、これらのレポートはいつ枯渇するかを特定するためのものではなく、割り当てが終了する大体の時期を把握し、どのように準備をするかを考える基礎資料と考えるのが妥当であろう。
次回は、これらの枯渇予測を受け、IPv4アドレスの消費動向や枯渇時期に起こることが予想される事柄、そして、JPNICのレポートにおける提言について解説する。
▼近藤 邦昭(こんどう くにあき)
1970年北海道生まれ。神奈川工科大学・情報工学科修了。1992年に某ソフトハウスに入社、おもに通信系ソフトウエアの設計・開発に従事。
1995年ドリーム・トレイン・インターネットに入社し、バックボーンネットワークの設計を行う。
1997年株式会社インターネットイニシアティブに入社、BGP4の監視・運用ツールの作成、新規プロトコル開発を行う。
2002年インテック・ネットコアに入社。2006年独立、現在に至る。
日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ(JANOG)の会長も務める。
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