インシデント管理=障害対応という誤解システム管理入門(2)(1/2 ページ)

「情報システムはいつでも使えて当たり前」と思っている利用者は、何かあれば容赦なくシステム管理者にクレームを飛ばしてくる。すべてに正面から向き合っていてはストレスがたまる一方だ。どう対応すべきだろうか。

» 2010年05月10日 12時00分 公開

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 読者の皆さん、こんにちは。初登場の前回から2カ月以上が経過してしまいました。

 前回触れられなかったので簡単に自己紹介をしますと、わたしの本職はインストラクターです。具体的には、企業教育(社員教育)を幅広くやらせていただいており、中でも重きを置いているのがITサービス関連の教育です。わたしは、社内教育に関する、ありとあらゆる相談に乗るという意味合いで自らを「ラーニング・コンシェルジュ」と名乗っています。

 今の時期(4月?5月)は新入社員研修でいろいろな会社にお邪魔します。この2カ月間はわたしが勤務する会社の年商の4分の1を占めるほど重要な時期です。新入社員研修の中心は、「基盤系」と呼ばれるシステム管理者や運用保守担当者のタマゴである方々の育成と、「開発系」と呼ばれるシステムエンジニア、プログラマのタマゴである方々の育成です。

「障害報告」に翻弄されないために

 さて、システム管理の現場に話を移しましょう。システム管理者のほとんどは、「障害」という2文字に翻弄(ほんろう)される毎日を送っています。前回も少し触れましたが、情報システムの利用者は「システムは正常に使えて当たり前」と思っており、使いたい時に使えないと、すぐにシステム管理者に「障害報告」という名のクレームを飛ばします。

 例えば、今すぐ見積書を印刷して取引先に出向かなければならないのに、プリンタが動かないとなれば、その怒りの矛先は自然とシステム管理者に向けられます。システム管理者にしてみれば「そんなこと言われたって……」と思うところですが、利用者はほかに当り散らす先がないのが現状です。

 そんな毎日を繰り返していると、否応なくシステム管理者にストレスがたまってきます。そのストレスと上手に付き合うためにも、ストレスを少しでもためないようにするためにも、障害対応にはきちんとしたやり方を確立しておく必要があります。そこで、今回は障害対応としての「インシデント管理」についてお話します。

インシデント管理とは何か

 まずは、インシデント管理とは何かを知っておく必要があります。よく「問題管理」と同義語のように扱われますが、実際には異なります。この2つを明確に分離することこそが、システム管理者自身がストレスから身を守る最も重要なことだと考えます。

 一言でいえば、次のように定義できます。

インシデント管理:現状復帰
問題管理:インシデントの原因特定と対応策の立案

 では、インシデント管理について具体的に説明していきましょう。そもそもインシデントとは、通常業務の手を止めさせる、あらゆるイベントのことを指します。ITIL(システムの運用、管理業務に関する体系的なガイドライン)ではもう少し詳しい定義がなされていますが、ここでは「利用者がやりたいと思ったことがやれない状態」のことだと思ってください。

 やりたいことがやれないというのは、具体的にどういうことでしょうか。例えば、以下のようなことが挙げられます。

  1. メール送受信しようと思ったら、メールサーバにアクセスできなかった
  2. アプリケーションを起動しようとしたらフリーズしてしまった
  3. 印刷しようとしたら、PCがプリンタを認識していなかった
  4. PCにログオンしようとしたら、パスワードを忘れてしまった
  5. アプリケーションの機能を知らないので使用できない

 ここで注意していただきたいのは、道を進みたいけれど先に行けないという具合に、インシデントはあくまでも状態を表しているのです。やりたいことができなければ、それだけでインシデントです。ですから、インシデント=障害ではありません。障害とは、やりたいことがやれない、つまりインシデントという状態を生み出している原因の1つです。インシデントの原因は障害だけではありません。例えば「プリンタに出力できない」というインシデントの原因が、紙切れやトナー切れである場合もあるわけです。あるいは、アプリケーションが思うように使えない原因が、単に利用者のアプリケーションに対する学習不足である場合もあります。

 まずは、インシデント=障害という考えを断ち切ってください。利用者が取り除いてほしいのはインシデントであって、障害ではありません。やりたいと思うことができるようになることが重要なのです。

 ですから、インシデント管理とは、やりたいことができないという状態を取り除いてあげるための活動を指します。

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