SAN管理ソフトウェアによる生産性向上を目指す情報資産管理とバックアップポリシー(5)(2/2 ページ)

» 2006年02月07日 12時00分 公開
[大内 剛,日本ヒューレット・パッカード]
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ストレージ管理の標準規格「SMI-S」

 さまざまなベンダのストレージ製品で構成されるSANを管理するためには、各ベンダのハードウェアやソフトウェアから共通に情報を取得し、操作を実現する必要があります。ストレージ管理ソフトウェアは、もともと各ベンダのハードウェアに固有の管理機能を提供していたため、互換性がありませんでした。しかし前述の要求を受け、2000年ころよりストレージベンダ間でストレージ管理ソフトウェアとハードウェアの間のインターフェイスを標準化する動きが起こりました。

 もともと、コンピュータシステムを統合的に管理する動きは90年代からあり、管理ソフトウェアと、管理対象のハードウェア間の情報取得や操作で使用する標準プロトコルにSNMP(Simple Network Management Protocol)があります。

 このSNMPは、サーバ管理ソフトウェアで広く使われています。しかし、SNMPで情報を受け渡すために使用するMIB(Management Information Base)のデータ構造は各社で異なるため、マルチベンダのストレージ管理に利用することができません。このため、ストレージ業界の主要ベンダは検討を進め、標準化団体DMTF(Distributed Management Task Force)が制定したCIM(Common Information Model)に基づいて共通のオブジェクトモデルを規定し、情報の受け渡しをWebブラウザベースのWBEM(Web-based Enterprise Management)によって行う標準仕様を定めました。これが後にSMI-S(Storage Management Initiative Specification)となります。

ALT SMI-Sのアーキテクチャ

 SMI-Sの原型となる仕様は、2002年の夏にSNIA(Storage Networking Industry Association)に移管され、標準化が推進されています。SMI-Sバージョン1.0は2003年4月に制定され、ストレージベンダはこれを受けて各製品にSMI-Sを実装し始めました。SNIAはその後もSMI-Sの管理対象と機能を拡張し、セキュリティ面での機能強化や管理サービスの向上を目指しています。さらに将来のSMI-Sバージョン2.xでは、データベースやアプリケーション、ILM分野への機能拡張も視野に入れています。

 日本でも、2001年8月にストレージネットワーキング・インダストリ・アソシエーション日本支部(SNIA-J)が発足しました。SNIA-Jでは、SMI-Sをストレージ管理の標準規格として広く浸透させるため、国内外のストレージネットワーキングに関する情報提供をはじめ、SNIA主催イベント(Storage Networking World)やストレージに関連する展示会、セミナー、講演会の企画、実施など、幅広い活動を行っています。

ポリシーベースのストレージ管理?プロビジョニング

 SAN管理ソフトウェアの機能の1つとして注目されているのが、プロビジョニング(Provisioning)です。プロビジョニング機能は、ユーザーまたはアプリケーションが使用する論理ボリュームの容量が足りなくなった場合、ストレージプールから必要な容量を切り出し、自動的に論理ボリュームに追加して容量を拡張するといった処理を行います。プロビジョニングの目的はアプリケーションのサービスレベルを維持することで、そのために設定されたポリシーに基づいて動作します。

 ここでは、日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)から販売されているマルチベンダSAN管理ソフトウェア「HP Storage Essentials」を例に取って説明しましょう。

【関連リンク】
▼HP Storage Essentials(日本HP)

 ユーザーやアプリケーションが使用する論理ボリュームの設定を変更するには、ボリュームの作成やLUNの設定や変更、ゾーンの設定といった一連の操作を誤りなく行う必要があります。IT管理者は、Storage EssentialsのProvisioning Managerが提供するウィザードやテンプレートを利用して、SAN内のストレージプールやボリューム、LUN(Logical Unit Number)、ゾーン、ゾーンセットの割り当てと管理ポリシーを設定し、ジョブとして定義します。さらにジョブキューとスケジューラを使用すると、複数のプロビジョニングジョブを迅速に作成することができます。ジョブを営業時間外に実行するよう設定すれば、業務への影響を最小限に抑えることも可能です。

 ストレージデバイス固有の管理ツールをそれぞれ起動し、一連の設定変更を行うのは非常に時間がかかり、ミスも発生しやすくなります。そこで、SAN管理ソフトウェアのプロビジョニング機能を使用すれば、ユーザー部門の要求に迅速に対応できるだけでなく、IT管理者も、より戦略的な業務に時間と工数を割くことができるようになります。

ALT HP Storage EssentialsのProvisioning Manager

ストレージ管理とサーバ管理の統合

 企業のITインフラストラクチャは、さまざまな機器とネットワーク技術で構成されています。SANおよびストレージデバイスはもちろん、さまざまなサーバやデスクトップPC、Ethernetネットワーク、WAN、プリンタなどが含まれます。従来、各デバイスは個別のソフトウェアで管理され、デバイス間の統合は行われていませんでした。

 日本HPのStorage Essentialsは、同社のサーバ管理ソフトウェアである「HP Systems Insight Manager (SIM)」に統合されています。Storage EssentialsはSIM上で動作する「プラグイン」という形で実装され、同一の管理サーバ上でデータベースを共有しています。従ってIT管理者は、サーバ管理とストレージ管理を共通のユーザーインターフェイスを用いて行うことができ、管理作業の効率を高められます。Storage Essentialsは、さらに同社のエンタープライズ管理ソフトウェアであるHP OpenViewと統合することもできます。

【関連リンク】
▼HP Systems Insight Manager (SIM)(日本HP)
▼HP OpenView(日本HP)

 このように、従来はデバイスごとに異なるソフトウェアを使用していたストレージ管理が、マルチベンダ対応のSAN管理ソフトウェアによって共通化・自動化され、さらにサーバ管理ソフトウェアとの統合も可能になりつつあります。

 SANの普及と爆発的なデータ量の増大に伴い、1人のIT管理者が管理しなければならないストレージの容量は増加の一途をたどっています。ストレージ管理におけるルーチンワークを削減し、IT管理者がより戦略的な業務に時間を割けるようにするには、さまざまなベンダのストレージに対応したSAN管理ソフトウェアの導入を検討すべきでしょう。オープンな業界標準技術に準拠し、ベンダの枠を超えた高度な管理環境を提供するSAN管理ソフトウェアの導入をお勧めします。


 さて次回は、本連載「情報資産管理とバックアップポリシー」の最終回です。まとめとして、企業のデータ保護におけるさまざまな要求と、それを実現するための技術トレンドについて解説します。

【参考文献】
『ストレージネットワーキング技術??SNIAストレージ技術者認定プログラム準拠』 喜連川優=編著/オーム社/2005年7月

著者紹介

▼著者名 大内 剛(おおうち つよし)

日本ヒューレット・パッカード株式会社 ストレージ・ワークス製品本部 プロダクトマーケティング部

日本DEC入社後、顧客向け技術トレーニングのインストラクタを担当。その後PC事業部門でIAサーバのマーケティングに従事。HP-コンパック合併後はストレージソフトウェア、ディスクアレイ製品のマーケティング担当を経て、現在はミッドレンジストレージ製品チームのリーダー


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