ITIL Version 3はなぜ必要なのか(後編)IT管理の最新事情(2)(1/3 ページ)

ITIL Version 3の趣旨や背景、目的、内容などを探る記事の後編として、この最新版ITILの具体的な姿や、ユーザー企業にとってのメリットを、インタビューで解き明かす

» 2007年08月24日 12時00分 公開
[三木 泉,@IT]

“ITとビジネスの統合”とは何を意味するのか

 この連載では前編と後編の2回に分け、「ITIL Version 3」と呼ばれるITILの最新版の内容と意義を、アクセンチュアのマイケル・ニーヴス氏とBMCソフトウェアのケン・タービット氏へのインタビューを通じて探っている。

 前編でニーヴス氏とタービット氏は、ITIL Version 3登場の理由を次のように説明した。

 ITIL Version 2は製造業の価値モデルに立脚していたが、ITIL Version 3ではITILの対象がITサービスであるという点を再認識し、価値モデルを再構成した。また、ITILVersion 2では一部の書籍しか参照されず、包括的な考え方を抜きに利用されるケースが多かったため、ITIL Version 3では全般的に書籍の構成を改めた。さらに時代の変化に合わせ、新たなITサービス要素を付加した。

 今回はより具体的なITIL Version 3の内容に関する、ニーヴス氏とタービット氏の説明をお届けする。

――ITILでは、これまで「ITとビジネスの整合(alignment)」が指向されていたものが、Version 3では「ITとビジネスの統合(integration)」といい換えられたということですが、これを具体的に説明してください。

ニーヴス氏 製造業とサービス業の違いについてすでに説明しましたが、製造業では部品をできるだけ安く仕入れるとともに、出来上がりのムラを減らし、例えば電球がいつでも同じようにちゃんと使えるということがポイントとなります。製造業における成否はこういう点で決まるわけです。しかし、サービスはまったく異なります。サービスの場合、すべてはサービスを受ける側にとってどう見えるかという観点から始まります。つまり、サービスを受ける側が何を達成したいのかによって、何を提供するかが変わってきます。コールセンターにかかってきた電話への答え方は、その内容によって違いますよね。ITILでも、原材料を手に入れて、最終製品を作り上げるという考え方に終止符を打ち、顧客の側に立つところからスタートしようということにしました。

ALT BMCソフトウェア グローバル・ベスト・プラクティス・ディレクター ケン・タービット氏

 金融機関を考えてみましょう。製造業的な手法でIT部門を運営すると、サーバをできるだけ安く買い、これを適切に構成して、動かすために人を雇うという思考の流れになります。これを迅速に、安定的に行えるほど、ある意味で付加価値が高まるわけです。一方、サービス業の考え方では、自分の顧客(である業務部門)が何を達成しようとしているのかをまず考えます。この例でいえば、企業向けローンを担当している部署に対しては、最初からサーバや電力のことを話すのではなく、まずは貸し付けの業務形態を理解しようということになります。この業務は世界中で行われているかもしれませんし、データの信頼性やアクセス形態、セキュリティ、事業継続性などで独特の要求があるかもしれません。サービス業的な手法ならば、こうした個別のニーズに対応して、まったく異なる方法で作業を行うことがあり得ます。

タービット氏 例えば米ボーダーズ・ブックストアなどの書店チェーンは非常に洗練されたITシステムで在庫や売り上げを管理してきました。しかしこれらの書店は、システムとお客様さまへの関係について十分に考えていなかったといえます。そこである日、米アマゾンが登場し、これらの企業も考え方を変えざるを得なくなりました。アマゾンは顧客サービスという観点でものを考えていましたが、ボーダーズなどの既存書店は在庫をコントロールするということばかり考えていたのです。

――これまでは、ITILの実装をサービスデスクあるいはインシデント管理から始めるユーザー企業が多かったと思いますが、ITIL Version 3ではこれが変わるといえますか?

ニーヴス氏 これまでずっと、インシデント管理は最も始めやすい部分だと考えられてきました。「患者の容体を安定させることができる」という点で、その意味は大きかったと思います。しかし多くの組織は、インシデント管理の導入で終わってしまっていました。インシデント管理を始めることで、IT組織のパフォーマンスはどんどん上昇します。しかしある時点から、逆に下がり始めることがあります。インシデント管理をうまくこなせるようになったとしても、ほかのことをすべて止めてしまうことで、状況を悪化させることがあるのです。インシデントがなくなることはありません。サービスの復旧は非常にうまくなっても、根本的な原因に対処しないままだと、こういうことが起こります。

 インシデント管理やサービスデスクはとっつきやすくはあっても、それ自体が目標ではなく、手段にしかすぎません。この点に関し、われわれはこれまで誤解を受けやすいメッセージを送っていたと思います。そこで今回は、本当に実現すべきこと、つまりより良いサービスに焦点を当て直そうということになったのです。

 自動車の例をあらためて使わせてもらうならば、タイヤが1本パンクした場合、1本だけしか交換しない人はあまりいません。4本のタイヤをすべて交換するのが一般的です。それは自動車というものが、単なる部品の集まりではないということを誰もが知っているからです。この(サービス全体を考えるという)アプローチは、初めは難しいと思います。しかし、焦点の当て方は正しいということが最終的には分かると思います。

タービット氏 私は、いまの話の両方をやる必要があると思います。患者の生活の向上を目指す前に、患者の容体を安定させることは必要です。従って、何らかの安定性をもたらすことを目的に、インシデント管理を導入しなければならないこともあります。ただし、インシデント管理を進めながらも、達成しようとしている全体的な目標や目的を考えなければならないということだと思います。

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