IT資産管理・構成管理がクラウドにもたらすもの勉強会リポート:クラウド時代のIT資産管理(3)(1/2 ページ)

2009年9月29日に東京・大手町で開催された@IT情報マネジメント勉強会「PCから仮想サーバまで ― クラウド時代の運用管理」の模様をお伝えする。勉強会ではプライベートクラウド構築の基礎となるIT資産管理について、講演とパネルディスカッションが行われた。今回はそのパネルディスカッションの後半部分をお届けする。

» 2010年01月19日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 パネルディスカッションの第1部ではモデレーターの新野淳一氏以下、5人のパネリストがIT資産管理が抱える課題、成功する方法、経営への貢献などについて討論を戦わせた。後半となる第2部では視点をオフィスのPCからデータセンターのサーバへ移し、クラウド化によってIT資産管理がどう変わるのか? これからのIT資産管理について熱のこもった議論が繰り広げられた。

パネリスト

第一生命情報システム株式会社 基盤システム第一部 オープン技術グループ チーフSE 石井仁氏

マイクロソフト株式会社 ライセンシングソリューション本部 ソフトウェア資産管理ソリューショングループ グループリーダー 花岡悟史氏

インテル株式会社 マーケティング本部 ソフトウェア・エコシステム・マーケティング総括部長 下野文久氏

日本CA株式会社 ソリューション営業本部 サービスマネジメント・ソリューション営業部 テクニカル・ソリューション・グループマネージャー 奥村剛史氏

株式会社コア プロダクトソリューションカンパニー ネットワークソリューション事業部 武内烈氏


モデレーター

新野淳一氏


IV - クラウド時代の資産管理の課題とは?

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(元@IT発行人)
新野淳一氏

新野 パネルディスカッションの第2部では、論点をサーバやデータセンターに移して進めていきます。1つ目のテーマは、『クラウド時代の資産管理の課題とは?』です。これも今日的なテーマになりつつあると思いますが、まず株式会社コアの武内さんにお聞きしましょう。クラウド時代になると何が変わってくるのでしょうか?

武内 ここで取り上げるクラウドというのは、プライベートクラウドあるいは社内クラウドと呼ばれているものです。パブリッククラウドについてもそうですが、基本的には資産管理がしっかりできていないと、サービスコストが分からないのでクラウドが成り立たないと考えています。

新野 プライベートクラウドは、社内でいろいろな部門が会社のデータセンターを使う形ですね。どの部門でも一律に均等割りという方法はよくないということですね。

武内 クラウドのメリットがないですよね。仮想化技術では、サーバ負荷のピークをずらす??CPUを昼間に集中して使うアプリケーションと夜に忙しいアプリケーションで自動的にリソース割り当てを変えて、サーバ稼働率を調整する機能が提供されますね。これをうまく使わない手はないと思うのですが、このときに各時間帯でそれぞれどのくらいCPUリソースを使っていて、それをコストとしてどのように計算してサービスチャージするのかを考えることが非常に重要になってくるわけです。

新野 同じくクラウド化について、ユーザー代表の石井さんにうかがいます。サーバ仮想化やクラウド化で、何か悩みはありますか?

石井 ハードウェア資産は、現状の管理からそれほど変わらないだろうと考えています。ただし、仮想化が進むことにより、仮想サーバがどのハードウェアで動いているのかが分からなくなってしまうので、ここをひも付け管理することですね。それから仮想化ソフトウェアについてベンダさんによってライセンスに対する考え方がバラバラなんです。CPU課金のところもあれば、ゲストOSを立てる分にはいくつでも無料という体系もあります。ですので、実際にはいくらかかっているのか、ライセンスが足りているのかという管理が必要になってきます。

新野 ライセンス体系が複雑になっているという点をご指摘いただきましたが、この点についてマイクロソフトの花岡さんにお聞きしましょう。ライセンスの複雑化という点はどのように認識されていらっしゃいますか?

花岡 まず1つには単純に製品が増えてきているので複雑になっているという側面があります。それからクラウドになりますと、いままでのインストールベースの考え方を壊してしまうような運用が出てきます。それに対して1つ考えられるのがユーザーライセンスですね。つまり、ハードウェアへのひも付けでなくて、ユーザーにひも付くようなライセンスを提供するのがクラウド環境では有効だろうと考えています。

新野 いままでのライセンスは、「○台のサーバなのでいくら」だったものが、「○人使うのでいくら」というライセンスになるわけですね。

花岡 そうです。ただ、すべてそうなるかというと難しいところがあります。例えば、クライアントPCにインストールするWindows OSやOfficeについてはデバイスに対するライセンスが残ってしまうでしょう。これは今後の検討課題です。

ALT Panelist:
インテル株式会社 マーケティング本部
ソフトウェア・エコシステム・マーケティング総括部長
下野文久氏

新野 インテルの下野さんはこのへんの状況はどうお感じになっていますか。

下野 クラウド化されたからといって運用管理がドラスティックに変わることはないと思っています。管理のやり過ぎという弊害もあるでしょうから、何をどこまで管理するのかをしっかりと考慮してITポリシーとして定義すべきです。そして提供するクラウドサービスの内容が複雑すぎると、エンドユーザーは何を使っていいのか分からないということになりますので、サービス事業者もサービス体系や料金体系をシンプル化することを強くお奨めします。

新野 クラウド技術をうまく使うことで、シンプルになるかもしれないということですね。

下野 はい。管理者側にとっても、サービス提供を受ける側にとってもシンプル化は非常に重要なキーワードになると思います。

新野 サーバのシンプル化で何かアイデアはありますか。

下野 仮想化がクラウドのキーテクノロジであることは間違いありません。クラウド時代になっても社内のサーバが全部なくなることはないはずです。残ったサーバは仮想化技術を使って、集約するというのは1つのアイデアでしょうし、点在していたものをプライベートクラウド化するということもあるでしょう。そこは各社のポリシーや戦略次第ですね。

新野 日本CAの奥村さん、管理の複雑化に対してお聞かせください。

奥村 変更管理・構成管理・資産管理を行っていくための課題として、ITサービスという観点でいうと「サービスカタログ」が作られていないユーザー企業さんがまだまだ多いという点を指摘したいですね。

新野 サービスカタログとは?

奥村 サービスカタログとは、「エンドユーザーに提供されるITサービスの一覧」ですね。IT部門の方にITサービスのリストを作りましょうというと「私はバックアップのテープ交換をしています」「情報の管理をしています」というお答えが返ってくることがあります。それは現場の利用者(エンドユーザー)に提供されるサービスではなくて、作業リストなんです。サービスカタログの形にまとめないと、サービスレベルが定義できませんし、課金テーブルを決めたり、さらにはサービスアカウンティングを行ったりという域にまでたどり着けません。ITサービスがエンドユーザー向けのメニューの形に整理されていないことには、資産管理は成功しないのではないかと考えています。

新野 サービスカタログは課金したり、コストを考える単位としては有効ですね。

奥村 そのカタログがあればエンドユーザーの方々に説明しやすいのです。どういうサービスにいくら課金されるのかなどですね。

新野 利用状況や稼働状況を踏まえてコストやチャージ金額が算出するためには、仮想化レイヤを含めたインフラがそれぞれ連動した形で管理することが求められるわけですが、クラウドにおける管理ツールがどうなっていくのかをコアの武内さんにお聞きしましょう。

武内 データセンター内の各コンポーネントをどういった粒度で管理するのかが1つのポイントですね。CPUコアの単位で管理しないと正確な積算ができないというのであれば、コア単位から管理する必要があります。さらにOS、ミドルウェア、アプリケーションなども属性情報のような形で保守契約やSLA契約、そのほかの会計情報??いわば簿価がひも付けられ、それぞれの依存関係が分かるようになっているというのが理想です。これをIT資産管理のツールと構成管理データベースで実現していこうと考えています。

新野 ある意味でビジネスポリシーとかサービスポリシーに結び付くような管理になってくるわけですね。

武内 はい。最終的にはサービス提供の相手であるビジネス側に向かって、サービス構成やコスト構造、資産台帳における簿価などをアカウンティング(説明)できるようになっている必要があると考えています。

V - 資産管理によってもたらされる新しい価値とは?

新野 この話題は、次のディスカッションテーマの『資産管理によってもたらされる新しい価値とは?』に結び付いていますので、続けてうかがっていきましょう。コスト算定ができると、社内のエンドユーザー部門や経営に対してどのようなインパクトがあるのでしょうか?

武内 弊社コアの製品で現在できることを中心に申し上げると、資産として管理されている対象のコストはその時点のデータ??スナップショットのような形ですべてデータ出力できます。それをBI分析ツールなどに取り込んで昨年対比などをみていただくと、資産の変化が把握できたり、サービスラインごとのコストの変遷が見えたりします。するとユーザー数は増えているのに1人当たりコストは下がっているとか、メリットに対してコストは低下傾向にあるとか、そういったことを分かりやすく説明できるようになります。

新野 マイクロソフトさんにもお聞きしましょう。資産管理が生み出す価値とはどんなものでしょうか?

花岡 IT資産管理の全般にいえることだとは思いますが、例えばISOのSAM(ソフトウェア資産管理)では「意思決定が速くなる」「市場ニーズに即応できる」といったことがメリットとして挙げられています。

新野 PCやサーバの使用状況がリアルタイムに把握できることによって、迅速な経営判断ができるということですね。

花岡 逆にいうと、自社の持っているサービスが理解できていない場合、何かのニーズがあって対応しようとしたときに、すでに導入済みなのにさらに導入してしまったり、「あるのか、ないのか?」と決断ができなかったりといった事態が発生してしまいます。実際にあるお客さまで、運用管理製品を導入するときにすでに持っていることを知らずに改めて全PC/サーバ分を購入してしまったというケースも実際にあります。

ALT Panelist:
日本CA株式会社 ソリューション営業本部 サービスマネジメント・ソリューション営業部
テクニカル・ソリューション・グループマネージャー
奥村剛史氏

新野 日本CAの奥村さんにもお聞きしましょう。今後、構成管理ツールが進化することによってどんなメリットがもたらされるのでしょうか?

奥村 いまのメリットに加えて、CAではもう少し先の分野も考えております。金融ポートフォリオというものはご存じかと思いますが、プロジェクト管理の世界では「プロジェクト・ポートフォリオマネジメント」という言葉が最近、日本でも浸透してきています。これに対して「サービスポートフォリオ」という考え方もあります。それは経営者やマネージャに対して、各サービスが自社にどれだけの価値をもたらしているのか、それに対してシステムとコストの構成がどうなっているかを一覧やバブルチャートなどの形で見える化するものです。CAではそのようなTo-Beモデルを描いています。

新野 下野さんはどうですか?

下野 いま皆さんがおっしゃられた価値というのはあると思います。少し視点を変えてみます。IT管理者にはコスト意識や経営意識がなかった??というとお叱りを受けるかもしれませんが、そういうケースが非常に多いというのがわれわれの感触です。その一方、先に私は購買部門の力が強いと申しましたが、購買部門が安かろう悪かろうの製品を指定してうまく管理ができない製品を買ってしまう。その結果、IT部門に非常に負担の掛かるIT管理、資産管理を押し付けられる。そういう悪循環に陥っているのが現状だと思います。そういったことを考えると、IT部門の方々がIT資産管理ツールを使い、しっかりと経営の視点を持つことによって在るべき姿を描き、自分自身の作業負荷の軽減とトラブルを減らすことで、全社的なコストが下がる。結果としてそれ自体が経営者やCIOの方々に対するメッセージになるはずです。インテル自身、社内でCIOやIT@Intel=IT部門が非常に存在感を持っていますが、それはやはりそういった裏付けがあるからなんだと思っています。

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