プロジェクト管理は「簡単なことを、確実に」やる気を引き出すプロジェクト管理(2)(1/2 ページ)

“プロジェクトマネジメント”と聞くと、やるべきことが山積しているようなイメージがあるかもしれない。しかし、本当に必要な作業は、実はそう多くはないのだ。今回は、それらの概要を説明する。

» 2008年03月03日 12時00分 公開
[安達裕哉,トーマツ イノベーション]

まずは「成果」ありき

 前回「プロジェクト管理技法はなぜ徒労に終わるのか?」では、プロジェクトマネジメントで行うべきこととして、以下の3つを挙げました。

  1. プロジェクトの成果(目標・目的・狙いなど)の設定
  2. 仕事の設計(作業分解・作業フロー・スケジュール)
  3. PDCAサイクルを回す(マネジメント・サイクルの確立)を回す(マネジメント・サイクルの確立)

 今回は、これら3つそれぞれの内容について説明していきたいと思います。まずは、「プロジェクトの成果の設定」です。

 ところで皆さんは、ピーター・F・ドラッカーをご存じでしょうか? 世界で最も有名な経営学者の1人であり、「マネジメント」(日本語では“管理”などと訳される)という言葉を今日使う意味に定着させた人物として、非常に有名な方です。

 ドラッカー氏は、著書『マネジメント──基本と原則[エッセンシャル版]』(2001年)の中でこう述べています。

 「基本的なこととして、成果すなわち仕事からのアウトプットを中心に考えなければならない。技能や知識など仕事へのインプットからスタートしてはならない。それらは道具にすぎない。いかなる道具を、いつ何のために使うかは、アウトプットによって規定される。作業の組み立て、管理手段の設計、道具の仕様など必要な作業を決めるのは成果である」

 ドラッカー氏の説は、そのままプロジェクトマネジメントにも当てはまります。まずは、プロジェクトマネジメントにおける成果を決定しなくてはいけないのです。

プロジェクトの成果を設定する

 皆さんのプロジェクトでは、成果を明確に定めているでしょうか? プロジェクトの成果を明確に決めておかなければ、緻密なスケジュール表も、優れたツールも、まったく役に立ちません。プロジェクトにおけるトラブルの多くは、成果が明確になっていないために発生することが実に多いのです。

 では、具体的にどのように成果を決めればよいのでしょうか? それ以前に、そもそも「成果」とは一体何でしょうか?

外部からの要求を基に検討

 一般的なプロジェクト管理技法では、成果を「プロジェクトの要求事項を満足」(PMBOK)、

「使命を達成」(P2M)、「プロジェクトの目標を達成」(ISO 10006)などと定義しています。しかしこれだけでは漠然としていてよく分からないので、もう少し具体的に定義してみたいと思います。

 成果とは、大別すればプロジェクトに対する次の三者の要求を検討し、決定するものです。

  1. 顧客(依頼者)からの要求
  2. 自分の属する組織(自社)からの要求
  3. そのほかの第三者(法律・社会など)からの要求

 例えば、プロジェクトに対して品質の要求がある場合、上記3つの観点に照らし合わせて、具体的にどのような要求を満たすべきかを検討します。すなわち、

  1. 顧客が要求する品質とは何か?
  2. 自社で決定している品質とは何か?
  3. 第三者が求める品質とは何か?

の3点を検討するのです。

 顧客が要求する品質の例としては、機能、使い勝手、デザイン、性能などが、自社で決定している品質の例としては、テストや検査の合格基準、自社の品質目標などがあるでしょう。また第三者が求める品質としては、法律で定められた要件、基準、規格などがこれに当たります。

ナイン・ターゲットとは

 ではプロジェクトの成果としては、どのような要求に応える、どのような成果を設定すればよいのでしょうか? 当然のことながら、プロジェクトの目的はプロジェクトごとに異なるため、成果もプロジェクトごとに異なってきます。従って、成果を設定するための唯一の方法というものはありません。

 しかし、これらの項目については必ず成果を検討すべきである、というフレームワークは存在します。トーマツ イノベーションではこれを、「プロジェクトのナイン・ターゲット」と呼んでいます(図1)。

ALT 図1 ナイン・ターゲットでプロジェクトの成果を検討(出所: トーマツ イノベーション)

 上図で丸に囲まれている9つの項目が、成果を検討して設定すべきものです。通常のプロジェクトであれば、「品質」「コスト」「スケジュール」などについてはいわれるまでもなく成果を設定すると思います。しかし、それらに加え「どの程度成果物を残すのか?」「人のスキルをどの程度高めるのか?」「どのような協力会社と付き合うのか?」などといった点についても成果を設定することにより、プロジェクトマネジメントの質を向上させることができるのです。

成果の明確化

 ナイン・ターゲットで定められた9つの項目それぞれについて成果を検討したら、次にやるべきことは「成果を明確にする」ことです。そのためには、次の2つの作業が必要になります。

  • 明文化する
  • 達成判定可能にする

 「明文化する」については当たり前だと思われる方も多いかと思います。あえて例を挙げると、「要件定義書を作成する」「電話だけでなく、決定事項はメールで残す」「議事録を残す」などといったことです。いずれにせよ、分かりやすい書面の形で残しておくことが重要です。

 では、「達成判定可能にする」とはどういうことでしょうか? 例を挙げて説明しましょう。下記の2つの説明のうち、皆さんはどちらの例がより「明確」だと感じますか?

本プロジェクトの品質に対する要求は、納品後のトラブルをできるだけ少なくすることである。


本プロジェクトの品質に対する要求は、サービスインの期日である5月1日以降のシステム障害をゼロにすることである。なお、ここでいう「システム障害」とは、下記の1?3を指す。

  1. ソフトウェアのバグが原因によるサーバの停止
  2. 使用者の同時アクセスが10000件以内の状態で、応答時間がXX秒以上になる
  3. ハードウェアに起因するサーバの停止/応答時間の上限値オーバーは障害に含まない


 もちろん、後者の例の方がより明確なことは明らかですが、肝心なのは、前者に比べ後者がより「達成判定可能」になっているということです。すなわち、成果の達成を判定するための条件が具体的に定義されているということです。この部分をあいまいにしておくと、後々プロジェクトの結果を評価する際にトラブルの元になってしまいます。十分に注意して、成果を設定してください。

 成果の設定については、具体的手法も含め、またあらためて詳細な解説を行う予定ですので、今はこの程度にとどめておきます。現時点では、ここで述べた内容をしっかり押さえておけば十分です。

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