北京出張報告編?北京ダックはやっぱりうまい!現地からお届け!中国オフショア最新事情(7)(3/3 ページ)

» 2007年03月13日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ有限会社]
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5日目:オフショアベンダ成功の鍵は「規模の追求」

 2006年10月30日(月) 翌朝9:00便で帰国するため今日が実質的な最終日です。いよいよ日本向けオフショア開発ベンダを集中的に訪問する日がやって来ました。結局、午前1社、午後2社を訪問しました。

 1社目は、開発人員1000名を超える中国でも有数の対日オフショアベンダです。副総経理を筆頭に、4名の幹部のお出迎え。お忙しいところ、誠にありがとうございます。

 オフショアベンダ成功の鍵は、規模の経済を追求することだといいます。人材管理、開発プロセスの確立と定着、コミュニケーション手段の確立、ラボ契約の締結・維持・拡大、これらはすべて会社規模を拡大させるための手段にすぎません。

 個人的に興味深かったのは、この会社が特定の業務分野に強い人材を大勢抱えているこ

とです。この規模にまで成長すると、他社はほとんど太刀打ちできないレベルだろうと推測されます。

 2社目は、上海に本社がある社員50名規模のベンダ。金融系、流通系の受託開発を手掛ける傍ら、日本企業と提携して中国市場向けにドキュメントソリューション事業を展開しようと模索中のベンダです。社内には、日本から持ち込んだ1000万円以上もする高価なハードウェアが設置されていたのには驚きです。紙の伝票処理が絶滅しない日本では、いまでも大活躍するこのマシン。中国でも歓迎されるのでしょうか。要チェックですね。

 3社目は、オフショア開発サポーターズとして活動を続ける日本人読者の会社を訪問しました。親会社は日本の大手メーカー。これまでは、親会社が受注した案件をこなしてきましたが、これからは外販を伸ばしていきたいといいます。

ALT 3社目でTV会議に参加したときの様子。ホワイトボードにぎっちり注意点が書かれているのが分かる

 規模はさほど大きくないのですが、進ちょく管理やQ&A管理の状況を詳しく教えてもらいました。圧巻は、本番のTV会議に筆者が緊急出演したことです。いきなり東京に常駐するブリッジSEと会話させられたのです。向こうも驚いたに違いありません。

 打ち合わせが終了した後、TV会議用のカメラの背後に設置されたホワイトボードを撮影させてもらいました。

 この会社では、通訳として採用した日本語学科出身の中国人従業員を、「開発現場に投入するブリッジSE」として再教育しています。写真に映し出されたホワイトボードには、TV会議で注意すべき言葉遣いや正しい質問方法、議事録の取り方などが具体的に書かれていました。

 文系出身の日本語通訳が、ブリッジSEに転進するための教育カリキュラムを考案したのは、オフショア開発メルマガの読者でもある日本人駐在員です。特別に許可を得てカリキュラムの一部を見せていただきました。

【指導例】日本とのTV会議中によく使われる会話文
「サ変動詞を避ける」
× 〜を変更しない/する
〜変更あり/なし
「相手の話し声がよく聞こえないとき」
× 〜をください
もう一度いってください/もう一度お願いします
「進ちょくを聞かれたとき」
× 〜の予定です ※予定=計画。計画は変更できないので
〜の見込みです ※1つの作業項目、短期の場合
〜の見通しです ※複数の短期項目、中長期の場合
「言い訳するとき」
× 昨日送りたいです
昨日メールを送りたかったのですが……

 これはとても興味深い取り組みです。しかしながら、指導員の日本人ですら、文系出身の中国人通訳がブリッジSEに必要な技術やマネジメント能力を身に付けるには、かなりの時間を要すると認めていました。

 今後しばらくの間は、中国人ブリッジSEの人材不足は解消しそうにありません。ですので、ここ2?3年間に限り、オフショア開発コーディネート業務の専門的な訓練を受けた日本人リーダー経験者の需要が高まるのではないかと予想しています。

 マネジメント経験の浅い日本語が堪能な中国人技術者を使うより、短期間の専門教育を受けた日本人コーディネータを起用する方が、オフショア開発プロジェクトの成功率は高まるのではないでしょうか。しかし、このような日本人コーディネータは、残念ながら日本と中国の言葉の壁を超えられないので、いままでどおり、通訳を使って修羅場を乗り切る場面が少なくないと思われます。

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)琉球大学非常勤講師

オフショア開発フォーラム 代表

アイコーチ有限会社 代表取締役

沖縄生まれ。


九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門?失敗しない対中交渉?」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。


オフショア開発フォーラム:http://www.1offshoring.com/

アイコーチ有限会社:http://www.ai-coach.com/



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