“PM力”の向上は、成果の見える化から始まる“PMOの成果”見える化のススメ(5)

本連載もいよいよ最終回。今回は「PMOの成果の見える化」のポイントを総括しよう。ぜひ皆さんの現場で役立ててほしい。

» 2011年08月08日 12時00分 公開
[荒浪篤史,日立コンサルティング]

 早いもので今回で最終回である。「PMOはタフで高度な仕事である以上、その“成果”を見える化して、プロジェクトオーナーにわれわれの貢献をアピールしよう!」というのが本連載のメインテーマであった。これをケーススタディを交えながら具体的に解説してきたわけだが、皆さんにとって有益な情報となっただろうか。

 ただ、中には初めてこのページをご覧になる人もいるかもしれない。そこで今回は、これまでにご紹介してきた内容を振り返るとともに、ケーススタディとして取り上げなかった管理領域にも簡単に触れることで、本連載を総括していきたい。

成果を見える化しやすいのは、主に「管理」領域

 ではさっそく本論に入ろう。まず、ご存じの通り、PMBOKではPMOの管理領域を9つに定義している。だが筆者はこれを、以下の図1の通り、「統括」「管理」「基盤」プロセスの大きく3つに整理できると考えている。

 まず図1の中段に示した「管理」は、プロジェクトの成果や工程を直接的に管理するプロセス群で、具体的には「スコープ管理/スケジュール管理/品質管理/課題・リスク管理/コスト管理&調達管理」が該当する。「基盤」はプロジェクトの運営基盤や「管理」プロセス群を支えるに必要なスキームやリソースを維持・適正化するプロセス群で、「コミュニケーション管理/リソース管理」を指す。そして3つ目の「統括」は「管理」「基盤」プロセスを含めた全体を管理する「統合管理」プロセスに当たるというわけだ。

ALT 図1 PMBOKで定義されているPMOの9つの管理領域は、「統括」「管理」「基盤」プロセスの大きく3つに整理できる

 本連載における「成果の見える化」は、以上のうち「管理」プロセスのみを対象とさせてもらった。というのは、「基盤」プロセスについては見える化するまでもないためだ。「プロジェクトと『管理』がうまくいったのだから、それらのプロセスを支えていた『基盤』も適切であった」と、逆説的に言えるからである。

 「統括」プロセス、すなわち「統合管理」も同様である。“統合管理の結果(成果)”としては「各管理プロセスの良し悪し」も重要ではあるが、何より「プロジェクト自体の成否」――つまり、「『プロジェクト発足時に定義したプロジェクトのゴール(成功要件)』に対して『結果』がどうだったか」によって評価されるべきものだからだ。

 とはいえ、アピールすべき点は多いに越したことはない。もし余力があれば「基盤」「統括」プロセスついても、本連載で紹介したノウハウを応用していただければと思う。

KPIはシンプルで、分かりやすく、堂々と提示できるものを

 一方、本連載ではケーススタディを通じて、成果の見える化方法の核はKPIの設定にあることを紹介してきたが、そのKPIを見て、中には「何だ、こんなことか」と思った方も大勢いるかと思う。だが、どんなに簡単なKPIであっても、次のポイントさえ押さえていれば「成果の見える化」する上では抜群の効果を発揮する。自信を持って、堂々とアピールすれば良い。

  • 事実であるもの
  • 理論的に否定されないもの
  • よって、自信を持ってアピールできるもの

 ただ、KPIというと「あまりにシンプルだと説得力が落ちるのでは……?」などと不安に思う人もいるかもしれない。そこであえて一つだけ付け加えておこう。“KPIを作ること自体”にハマってはいけない

 もちろん、誰もが「おお!」と感心するような“高度なKPI”が提示できればそれに越したことはない。だが“KPIの高度化そのもの”に苦労するのは本末転倒である。

また、忘れてはならないのは、「PMOの成果をアピールする」以上、「プロジェクトは成功する・している」という前提に立っている、ということだ。あくまでも、その「成功にどう貢献したか・しているか」をアピールするためのKPIなので、成果さえ分かってもらえれば、“KPI自体の高度さ”をアピールする必要などまったくない。目的を考えれば、むしろ簡単・完結に伝えれられるシンプルなKPIの方が良いくらいである

 せっかく苦労してマネジメントして、プロジェクトを成功に導いた、あるいは導いているのだ。その大変さを少しでも理解してもらうことが見える化の一つの目的なのだから、それさえ達成できれば、何も本業以外のところで好き好んで苦労なんかしなくても……ということである(好きなら止めませんが)。

 以下の図2にこれまでに紹介してきたKPIの例と解説した連載回をまとめた。ぜひ参考にしてほしい。

管理領域
KPI例
解説した掲載回
スコープ管理 管理対象数
スコープ精度
調整介入数
――
スケジュール管理 管理対象数
調整介入数
マイルストーン順守率
第3回
品質管理 問題指摘数
改善寄与数
――
課題/リスク管理 課題検知数
課題解決数
第2回
コスト/調達管理 コストダウン達成率
予算精度
第4回

図2 これまでに紹介してきたKPIの例。解説した連載回と併せて簡単にまとめたので、ぜひ参考してほしい

KPIを活用すれば、個人・チームの継続的なスキルアップも可能

 一方、見える化のもう一つの目的、「PMOやPMOメンバーのスキルアップ」については、各自がKPIを記録する→KPIを集計する→集計結果を報告することでスキルアップのPDCAサイクルを回すことができる。これは本連載の各回で少しずつ解説しているので、ぜひ「スキルアップ」という言葉に注意して読み返してみてほしい。

 簡単にまとめると、まずKPIを記録することで、自身の行動や結果を振り返ることができるし、記録によって記憶が強まる。次に、他のメンバーの分も集計することで、その偏差から自身や他人の強み・弱みを共有・把握できる。最後に、プロジェクトオーナー等へ集計結果を報告することで期待値を理解し、それに向けて活動を補正できる。すなわちチーム全体のスキル向上が図れる

ALT 図3 KPIの記録→集計→報告→期待値に向けた補正というPDCAサイクルを回せば、継続的に個人・チームのスキルアップが図れる

 さらに、こうしたPDCAサイクルを継続的に回すことで改善活動を定常化できるのである。プロジェクト全体の期間にもよるが、1カ月ごとの報告サイクルが集計負荷や改善サイクルとして適当ではないかと思う。


 さて、筆者が本連載で伝えたかったことは以上である。これまでにご紹介してきたことが、皆さんのプロジェクトマネジメント力の向上や、皆さんの苦労をプロジェクトオーナーにご理解いただくための一助になっていたら幸いである。最後に「プロジェクトマネジメントの見える化のポイント」をあらためて列挙して、本連載の筆を置きたい。

・成果は可能な限り、定量的に示す

・成果を示すKPIは簡単でいい、自信を持ってアピールする

・KPIの基礎情報は定常的に記録する

・KPIは定期的に集計する

・集計結果はメンバーで共有する

・これらの取り組みを定常スキーム化する

 これまで、5回にわたる連載にお付合いただいたことを感謝するとともに、皆さんのプロジェクトマネジメント力の発展を心よりお祈り申し上げる。

筆者プロフィール

荒浪 篤史(あらなみ あつし)

日立コンサルティング シニアマネージャー。大手ネットワークベンダーにて、さまざまな業種の企業および団体、官公庁のオープンシステムの設計プロジェクト・マネジメントを手掛け、IT企業の立ち上げにも参画した。2007年より現職。これまで大手メーカのITインフラ再構築プロジェクト、大手商社の全国240拠点のITインフラ構築、運輸運送業情報システム子会社のプレゼンス向上などに携わった実績を持つ。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ