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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(6)

最適資本構成からかけ離れた東芝の危機

高田直芳
公認会計士
2010/9/16

これまで数回に渡って不況に悩む電機各社を分析して来たが、今回は東芝をメインに取り上げる。東芝型の操業度率のデータから深刻さを検証し、そこから「東芝の資本構成に潜む不安」を炙り出してみたい(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年4月24日)

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 これまで数回に渡って不況に悩む電機各社を分析して来たが、今回メインで採り上げる東芝も例外ではない。東芝は先の2009年4月17日に、「2009年3月期における当期純利益が3500億円の赤字になる」と発表した(業績予想の修正に関するお知らせ)。3か月前に発表された2800億円の赤字予想から、さらなる業績の下方修正となった。

 東芝にとってこれが1年間で3度目の下方修正になることからも、事態の深刻さがわかるというものだ。業績悪化に伴い、自己資本比率は半分以下に目減りしており、この6月には5千億円規模の増資を行なう予定だという。

 そこで今回は、第4回コラムで掲載した東芝型の操業度率(実際の稼働状況)を〔図表1〕に再掲するところから話を始め、その深刻さを検証しながら、「東芝の資本構成に潜む不安」を炙り出してみよう。

 なお、シャープ型とソニー型の各操業度率については、第4回コラムを参照していただきたい。

〔図表1〕東芝の操業度率

 〔図表1〕においては、09年3月期はまだ正確な業績が発表されていないため、横軸が08/12(08年12月期)までとなっている。この08/12において、2つの操業度率が90%のところでクロスしているのが、東芝型の特徴だ。そこに注目して、2通りのシミュレーションを行なうことにする。

 まず、実際売上高を一定にしたまま総コストを増加させてみると、2種類の操業度率は共に急降下し、東芝型はなんとシャープ型に変転する。

 今度は、その反対に総コストを減少させてみる。するとこちらは2種類の操業度率が共に急上昇し、ソニー型になるから驚きだ。

 すなわち〔図表1〕の東芝型は、急降下するシャープ型と、急上昇するソニー型のどちらかに転ぶか、「運命の選択を迫られているパターン」だと言える。“ナイフエッジ型”と呼んでもよいだろう。

 以前のコラムでも触れたように、東芝型は、シャープ型と並んで上場企業の多くに見られる。第1回コラムに掲載したニッサンの〔図表2〕を再確認して欲しい。ニッサンは、東芝型の亜種なのである。

 それではこれから、数多(あまた)あるファイナンス関連書籍、大学(大学院)、ビジネススクールなどでは決して教えてくれない「最適資本構成」の問題を利用し、東芝が抱えている「リスクの本質」に迫ってみよう。

いまだ提示されていない
最適資本構成の“実務解”

 これについては、比較分析するとわかり易いため、競合他社と併せて論じることにする。

 「ファイナンス理論における最適資本構成問題」といえば、ノーベル経済学賞の対象ともなった「MM理論」が有名である。これは1958年に、経済学者であるモディリアーニとミラーが、〔図表2〕の命題を論証したことに端を発している。

〔図表2〕「MM理論」の3つの命題


  この3つの命題を図解したものとして、ファイナンスの書籍で必ず掲載されるのが〔図表3〕である。

〔図表3〕MM理論のグラフ

  〔図表3〕において、使用総資本の全額が自己資本の場合は、他人資本がゼロとなるから、原点Oのところで企業価値は高さOAとなる。

 また、横軸の他人資本を増やしていくと、右上がりの直線ABCDに沿って縦軸にある企業価値は高まって行く。倒産リスクを想定しなければ、企業価値は点Bを超えて点C→点Dへと徐々に高まって行くのだ。

 だが実際には、他人資本を点Bあたりにまで増やしていくと、負債の過剰感が強まり、倒産リスクが徐々に増えて行く。この倒産リスクを想定すると、点Bから点Eへと分岐する。点Eよりもさらに他人資本を増やすと、企業価値は減少に転ずる。

 したがって、「企業価値が最も高い点Eから横軸へ鉛直線を引いた点Fのところで、最適資本構成が存在するはずだ」とするのが「第3命題」である。

 そこで問題になるのが、「〔図表3〕の横軸上にある“最適資本構成”は具体的にどうやって求められるのか」である。

 ところが、MM理論が公表されて50年も経つというのに、最適資本構成に関する一般公式や実務解は、いまだ提示されていない。研究論文などでは「実務での検証が望まれる」といったところが、大方のオチだ。これを「羊頭狗肉のファイナンス理論」と私は呼んでいる。

最適資本構成の一般公式と実務解を
本邦初公開の「タカダ理論」で導く!

 だが、「羊頭狗肉」と他人を批判する(吠える?)だけなら、わが家の柴犬“クメハチ”にもできる。匿名による批判に留まることなく、自ら名乗って「対案」を示すのが、栃木の野に下ったサムライの意地である。

 責難は成事にあらず──。筆者の愛読書『十二国記/華胥の幽夢』(小野不由美)に登場する言葉を、噛みしめたい。

 それでは、半世紀もの間「開かずの扉」となっていた最適資本構成の問題について、筆者オリジナルの「一般公式」を示し、東芝型、シャープ型、ソニー型に当てはめて、その「実務解」を求めてみよう。

 まずは〔図表4〕を見ていただきたい。

〔図表4〕MM理論の一般公式化を導くグラフ

 〔図表4〕では、左下から「他人資本の対数曲線」が伸び、右下から「自己資本の対数曲線」が伸びていることがわかるだろう。

 この2本の対数曲線を加え合わせたものとして、お椀をかぶせたような曲線が上方に描かれている。

 何故このような3本の曲線が描かれるのかについては、指数対数や微分積分の説明を要するので、詳細は拙著『戦略ファイナンス』(日本実業出版社)306ページ以降を参照願いたい。

 お椀の曲線上にある点Pにおいて、縦軸にある作業量wは最大の効果を表わす点Qに達する。また、点Pに対応する横軸上にある構成割合vは、点Rとなる。この点Rが、筆者の唱える「最適資本構成」だ。

 〔図表4〕の上方に描かれたお椀の曲線に、何やら怪しげな方程式が鎮座している。これは、お椀の曲線に関する方程式だ。その式にあるlnは自然対数であり、その他の記号の説明は前掲書を参照していただきたい。

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