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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(26)

大企業が“正しい決算書”を作らない理由

高田直芳
公認会計士
2012/2/9

本連載では、これまで数多くの上場企業を取り上げてきた。しかしその東証1部上場の母集団のほとんどが、いわゆる「ドンブリ原価計算」なのではないか、と筆者は疑っている。なぜ上場企業までがドンブリ勘定なのか。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年2月19日)

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上場企業で「実際原価に基づく
決算書が横行する理由

 日頃から「実際価格×実際数量=実際原価」の会計処理を行なっている企業が、〔図表 1〕にある「実際原価に基づく決算書」を作成しているのであれば、至極まっとうな決算書である。

 ただし、東証1部にまでのぼりつめた企業が「実際価格×実際数量」のコスト管理では、もの笑いの種になる。

 それにもかかわらず、期中では「予定価格×実際数量=予定原価」の会計処理を行なっているはずの上場企業が、〔図表 2〕にある「予定原価に基づく決算書」ではなく、〔図表 1〕に戻ってしまうのは一体どういうことか。1年かけて準備万端整えたコース料理を、期末決算整理の最終段階で「えいやっ!」とばかりにドンブリに盛ってしまったようなものだ。

 どうして、このような首尾一貫性を欠く決算処理が行なわれるのだろうか。

 直接的な原因は、もし、忠実に〔図表 2〕に基づいた決算書を作成しようとするならば、「4. 原価差額」に計上される金額が、異常に巨額なものになるからだ。おそらく、法人税基本通達 5-3-3に定める「1%ルール」を大きく上回るものとなるはず。これでは上場企業のメンツ丸つぶれである。

 間接的な原因は──これが最大の原因であるわけだが──ニッポン企業の大多数が採用している「工数」にある。年間予算額に延べ人数や延べ日数の調整を行なう、あの「根拠不明で大味な」仕組みである。

 その結果、期中では予定価格を採用しておきながら、決算整理の段階になって多額の原価差額に恐れをなし、〔図表 1〕にあるようなドンブリものに調理し直して、「へい、一丁上がり!」とする決算書ができあがるのだ。

 そんな決算書で「コスト削減に努力しました」「固定費削減に成功しました」といわれても、ドンブリものを食した後に、ヘソで沸かした茶を飲まされる気分である。

 「実際原価に基づく決算書」が横行するのは、上場企業という肥大化した組織における革新の難しさを象徴しているともいえる。他社も同様の様式を採用しているのだから当社も大丈夫だ、という横並び主義も顔をのぞかせている、とも指摘できるだろう。

 国際会計基準(IFRS)や内部統制などへの取り組みも結構だが、足許にもっと大きな問題が転がっている気がするのは、筆者だけだろうか。

「実際原価に基づく決算書」は
コスト管理に自信がない証拠

 本来、原価差額が多額になる場合は、〔図表 3〕の決算書になるはずである。


 〔図表 3〕の特徴は、損益計算書の期末製品棚卸高4,000と、貸借対照表の製品4,050が一致しない点にある。一致しないのは、原価差額が多額となった場合に「1%ルール」を当てはめた場合の「正しい会計処理」の結果である(注)。
(注)企業会計審議会『原価計算基準』四七参照。

 それに対して〔図表 2〕は、原価差額が「1%ルール」内に収まった場合の、これまた「正しい会計処理」の成果である。

 1%内外という違いはあるにせよ、〔図表 2〕と〔図表 3〕はどちらも「予定原価に基づく決算書」である点に変わりはない。これが、東証1部にまで登りつめた「オトナの企業」が採用すべき「正しい決算書の姿」である。

 ビジネスは、結果が勝負だ。経営分析においては決算書が結果を表わし、それのみによって企業は評価される。

 〔図表 2〕を公表する企業は「ほほぉ、年間を通して発生した原価差額が1%に収まったのか。それはすごいな」と感心される。

 〔図表 3〕を公表する企業は「原価差額が1%を超えてしまったのだな。コスト管理は大丈夫だったのだろうか」と疑われる。そして、その疑いを避けるために、大多数の上場企業は〔図表 1〕にある「実際原価に基づく決算書」に戻るのだろうが、これは「コスト管理に自信がない証拠だな」と弾劾されるべき内容なのだ。

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