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連載:コンバージェンス項目解説(5)

金融商品の市場リスクを定量化、時価開示の新指針とは

大谷真之
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
2010/2/8

時価情報の開示対象を金融商品全般に拡大する適用指針が適用される。企業が求められるのは、企業が保有する金融商品を定量的に分析し、結果を開示することだ。対応のポイントを説明しよう。(→記事要約<Page 3>へ)

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市場リスクが開示対象に

 2008年3月10日に企業会計基準適用指針19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、適用指針19号)が公表された。国際財務報告基準(以下、IFRS)へのいわゆる会計コンバージェンスをにらんだ会計基準で、従来、有価証券など一部の金融商品に限定されていた時価情報の開示対象を金融商品全般に拡大している。また、リスク管理体制の記載についても、従来は派生商品(デリバティブ)に関する部分のみに限定されていたが、金融商品全般に対して認識された重要なリスクについて記載を求めるなど、投資家に提供する財務情報の充実を図っている。

「コンバージェンス項目解説」連載インデックス
  第3回 適用直前、セグメント会計の再点検をしよう
  第4回 一般企業にも影響がある賃貸等不動産の時価開示
第5回 金融商品の市場リスクを定量化、時価開示の新指針とは?

 

 適用指針19号は、基本的には2010年3月31日以降に終了する年度末財務諸表から適用されるが、そのうち一部の開示内容については2011年3月31日以降に終了する年度末財務諸表から強制適用となる。この「一部の開示内容」とは、具体的には以下のものをいう。

 貸借対照表の科目ごとに、貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価およびその差額並びに当該時価の算定方法を注記する(第4項(1))金融商品について、

  1. リスク管理上、市場リスクに関する定量的分析を利用している金融商品については、当該分析に基づく定量的情報およびこれに関する情報

  2. リスク管理上、市場リスクに関する定量的分析を利用しない金融商品については、リスク管理上、市場リスクに関する定量的分析を利用していない旨、リスクの変数の変動を合理的な範囲で想定した場合における貸借対照表日の時価の増減額及びこれに関する情報。ただし、当該情報が企業の市場リスクの実態を適切に反映していないと考えられる場合には、その旨及びそのように考える理由

 つまり、会社が保有している金融商品(負債も含む)に含まれる市場リスクが重要であると考えられる場合には、重要と判断した市場リスクについて定量化を行い、その結果を開示することになる。社内のリスク管理体制の中ですでにバリュー・アット・リスク(以下、VaR)などを用いて定量的管理を行っていれば、その内容を開示すれば良く、定量的管理を行っていない場合にはベーシス・ポイント・バリュー(以下、BPVという)による合理的な想定を行い、その結果を開示することになる。
 以下、2011年3月期から開示対象となる市場リスクの定量的情報について解説する。

対応のポイント

 適用指針19号にて開示対象となっているのは、前述のとおり市場リスクである。市場リスクとは「市場価格の変動に係るリスク」(第3項(2)その2)であり、具体的には金利リスク、為替リスク、株価リスクなどがある。ここでいう「市場」価格とは、金利であれば英国銀行協会公表の銀行間取引レート(いわゆるLIBORレート)、株価であれば東京証券取引所の各銘柄の終値といった、公設市場(あるいは、それに準じた市場)で付けられる価格をいう。従って買掛金は金融商品であり、時価開示の対象であるが、例えば、造船業において資材調達に当たり鉄鋼会社との間で取り決めた鋼板価格のような相対価格は、ここでいう「市場」価格には含まれない。

 さて、市場リスクの定量化手法には、代表的なものとして前述のVaRやBPVがあり、適用指針19号もこの2つを例示している。ここでVaRとは「市場の変動等に基づき、今後の一定期間において特定の確率で、ある金融商品に生じ得る損失額の推計値」(第16項)をいい、BPVとは「例えば、金利が1ベーシス・ポイント(0.01%)変化したときの価値の変動」(第16項)をいう。

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