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連載:国際会計基準の会計処理を理解しよう(2)

IFRSの代表的な会計処理、日本基準との違いは?

山田和延
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/7/28

第2回ではIFRSの会計基準として代表的な収益認識、研究開発費、リース、金融商品・デリバティブと、そのほかIFRSで特徴的な会計処理を、日本基準との違いを説明しながら解説する。(→記事要約<Page 3>へ)

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金融商品 ―― デリバティブ

金融資産・負債の分類

 IFRSにおける金融商品の定義は、日本の会計基準の定義とほぼ同じである。金融資産には現金や売掛金、貸付金などがあり、金融負債には買掛金、借入金、社債などがある。また、持分金融商品には企業自身が発行する株式などがある。

 金融資産は(1)損益計算書を通じて公正価値で測定される金融資産、(2)満期保有投資、(3)貸付金及び債権、(4)売却可能金融資産の4つに分類される。これらを日本の会計基準の分類と対応させると、(1)は売買目的有価証券、(2)は満期保有目的債券、(3)は金銭債権、(4)はその他有価証券がそれぞれ相当する。ただ、IFRSの(1)の定義は日本の売買目的有価証券の定義とは異なるため、日本の区分より範囲が広くなる場合があると思われる。

 IFRSにおける金融資産の期末の測定は、(1)は期末の公正価値で測定し、差額は損益に計上、(2)(3)は償却原価で測定し、同じく損益に計上、(4)は期末の公正価値で測定し、差額はその他包括利益に計上される。

 なお、金融商品において「公正価値」とは、「取引の知識がある自発的な当事者の間で、独立第三者間取引条件により資産が交換され、または負債が決済される価額」をいう。具体的には活発な市場で取引される価格やブローカー価格、それらに相当するものがなければ割引キャッシュ・フローモデルなどで合理的に算出される価格を意味する。

 一方、金融負債は金融資産の(1)と同様に、損益計算書を通じて公正価値で測定する金融負債と、その他の金融負債に分けられる。前者は期末の公正価値で測定し、差額は損益計算書に計上されるが、後者は償却原価で測定され、差額は損益計算書に計上される。

デリバティブ

 デリバティブとは金融派生商品であり、具体的にはオプション取引、金利スワップや為替予約などをいう。デリバティブに関してIFRSと日本の会計基準で異なる点として、日本では差金決済できることがデリバティブの条件であるのに対し、IFRSでは将来決済が行われるか否かが条件で、差金決済できるかどうかは条件ではない。ここで差金決済とは購入と売却の差額で決済をすることをいう。

 デリバティブを利用する目的は、リスクヘッジや投機、裁定取引であり、金融機関等ではデリバティブを投機対象や裁定取引で利用していることもあるが、一般企業では主としてヘッジすなわち、為替や金利などの変動リスクを回避するための手段として利用されることが多い。

 IFRSにおいて、デリバティブは公正価値で評価され、評価差額は当期の損益となる。ただし、デリバティブがヘッジの要件を満たす場合は、評価差額の処理はヘッジの方法にしたがう。

そのほかの特徴

 そのほか、IFRSで特徴的な会計処理があげられるものとしては次の項目がある。

有形固定資産

 有形固定資産に係る会計処理で特徴的な点として、すでに基礎編第2回で解説したように借入費用や重要な構成要素への分解がある。これ以外でも、減損の戻し入れや、有形固定資産を公正価値(市場価格)で再評価する再評価モデルもあるが、再評価モデルについては、先行するヨーロッパでもあまり利用されていない。

引当金

 IFRSにおける引当金は、現在の債務を対象としている。したがって、日本の会計基準で計上されている引当金のうち、IFRSでは引当金にあたらないものもある。例えば現在の債務とはいえない特別修繕引当金や債務保証損失引当金などのような非債務性引当金は負債に計上されず、貸倒引当金のような評価性引当金はIFRSでは引当金とは分類されない。

◇◇

 今回はIFRSの代表的な項目として、収益、研究開発費、リース、金融商品を中心に取上げた。このうち収益、リース、金融商品については2011年6月までの検討項目として、会計基準自体の見直しがされている。今後の動向にも注目していただきたい。

筆者プロフィール

山田和延(やまだ かずのぶ)
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
ファイナンス&アカウンティング シニア マネージャー 公認会計士

東京工業大学工学部卒。一般事業会社を経て、朝日アーサーアンダーセン株式会社(現プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社)に入社、現在に至る。制度連結システムの導入、グループレポーティングシステムの構想、連結予算管理システムの構想と導入、決算早期化、企業組織再編、各種規定整備、内部統制等のコンサルティングに従事。会計制度変更による影響や対策、管理会計の取り組みに関する講演・雑誌寄稿等多数。共著に「IT業界のための『工事進行基準』完全ガイド」(日経BP社)他

要約

 入門第2回目はIFRSの会計基準として代表的な収益、研究開発費、リース、金融商品・デリバティブと、その他IFRSで特徴的な会計処理を解説する。

 

 収益に関する会計基準としてIFRSでは、IAS18号「収益」があり、この基準に基づき収益が認識・計上される。収益における役務の提供とは、サービスのことであり、IFRSではこのサービスの提供に係る収益を進行基準で認識している。進行基準とは提供するサービスの進ちょく度合いに応じて収益を認識する方法だが、取引の成果について信頼性をもって見積ることができなければならない。

 

  研究開発費については、日本の会計基準では費用処理をしなければならない。一方、IFRSでは一定の条件に当てはまる開発費は資産計上することになる。開発とは、新しい製品やサービスなどを生産するための計画・設計に、研究成果や他の知識を応用することで、商業生産や商業利用の前に行われるものをいう。仕掛中の研究開発については、購買または企業結合により取得したもののうち、一定の要件を満たす場合は資産計上される。

 

  一定の条件に当てはまる開発費は資産計上が必要だが、実際、欧州の事例を見ると、開発費の資産計上を行っている業界と、行っていない業界がある。

 

  リースは日本の会計基準と同様に、IFRSでもファイナンスリースとオペレーティングリースに分けて会計処理をしている。ファイナンスリースのファイナンスとは資金調達のことであり、ファイナンスリースとは、お金を借りてリース物件を購入すること、あるいは分割払いで購入することと同じようなものである。したがって、ファイナンスリースに当てはまるものは、経済実態に合うようにリース物件を売買したように処理し、リース資産とこれに対応するリース債務を計上する。


  金融商品とは、一方の企業に金融資産を、他方の企業に金融負債または持分金融商品を同時に発生させる契約。IFRSの会計処理は日本の会計基準とほぼ同じである。金融資産には現金や売掛金、貸付金などがあり、金融負債には買掛金、借入金、社債などがある。また、持分金融商品には企業自身が発行する株式などがある。


  金融資産の期末の測定には「公正価値」を利用する。金融商品における公正価値とは、「取引の知識がある自発的な当事者の間で、独立第三者間取引条件により、資産が交換され、または負債が決済される価額」をいう。具体的には活発な市場で取引される価格やブローカー価格、それらに相当するものがなければ割引キャッシュ・フローモデルなどで合理的に算出される価格を意味する。


  そのほかの特徴的な会計処理としては有形固定資産、引当金などがある。

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