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連載:IFRS準備のイロハ(2)

IFRS対応ロードマップの作り方

榎本義広、伊藤雅彦(監修)
株式会社日立コンサルティング
2009/8/31

限られた時間やリソースの中でIFRS導入を円滑かつ確実に進めるためのキーとなるのが、「IFRS導入の影響度を踏まえたロードマップの策定」だ。その必要要素を説明しよう(→記事要約<Page 3>へ)

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ロードマップ策定の作業手順

 次に、ロードマップ策定の標準的な作業内容・手順は以下の通りとなる。

(1)会社実態把握(アセスメント)

 子会社含めた自社の会計処理や業務プロセス等、必要な項目についての調査を行い、実態を把握する。ここで、時間をかけて細部まで調査することは可能だが、時間をかけた割に必要な情報が少ない、情報が細かくなりすぎて全体感が見えづらくなる、といったことが起こりがちなので、ロードマップ策定のゴールを達成できるレベルでポイントを押さえた調査を行うことが重要。

(2)差異項目の把握と取組課題の明確化(勘定科目レベル、業務処理レベル)

 会社の実態を把握できたら、IFRS対応項目とも照らし合わせながら、会計上のギャップ(差異項目)を把握し、それぞれの差異項目について、どこにギャップ要因があるのかを分析を行う。分析作業の結果認識できたことを、課題としてリスト化する。

(3)差異項目ごとの対応施策の検討(収益認識、固定資産、連結など)

 上記取組課題の明確化を行いながら、把握したそれぞれの差異項目について対応施策を検討する。ここでは、まず一旦考えられる施策を洗い出し、議論の土俵に乗せることが重要。(実現可能性等を考慮し、優先度をつけるのは後のステップ)

(4)対応方針の設定(組織・業務・システム)

 対応施策を、組織・業務・システム等の軸で整理し、それぞれの切り口にて対応方針を設定する。ここで1つの方針に決まるものもあれば、複数の対応方法が考えられるもののあり、後者については、無理に1つに決めるのではなく、選択肢として残しておく。また、それぞれの切り口での方針設定において不足する情報があれば、適宜追加調査を行う。

(5)対応施策の評価実施

 上記(4)までで洗い出された各施策に対し、重要度・緊急度・難易度等、自社に適した評価軸を設定し、評価を行う。また、評価にあたって、施策実行の投資対効果算定、リスク要因の洗い出しを実施する。

(6)対応施策の優先順位付け

 評価結果に基づき、各施策の優先順位付けを行い、施策間の関係性整理、作業ステップへの落としこみ、時間軸の設定といった作業を経て、ロードマップとして取りまとめる。

 以上のステップで着実に検討を進め、とりまとめを行うことで、各社の実態に即した、実効性のあるロードマップの策定が可能になる。

日立コンサルティングが提供サービスの中で定義している作業ステップ


  IFRS導入の取り組みは各社各様であり、自社にとって最適なやり方を選択し、推進していくことが重要になる。そのためには、まず、IFRSで対応すべきことを、自社の状況に当てはめ、いつ、どのような対応を行うかを見極めることがポイントである。早い段階で手順を示すことで、IFRSという黒船来航への不安を払拭し、IFRS導入を計画的・効率的に進めることが可能となる。「IFRS対応ロードマップ」は、この航海図の役割を果たし、IFRS導入の第一歩として重要な意味合いを持つといえる。

筆者プロフィール

榎本 義広(えのもと よしひろ)
株式会社 日立コンサルティング
シニアマネージャー

大手コンサルティングファーム、通信系ベンチャー会社などを経て、2006年に日立コンサルティングに入社。製造業、建設業、不動産業の大手に対して、業務改革、会計システム再構築、事業再生などを手がける。


伊藤 雅彦(いとう まさひこ)

株式会社日立コンサルティング

シニアディレクター

会計事務所で税務を担当後、外資系企業の韓国法人と日本法人でCFO(最高財務責任者)を10年間務める。VCF(Value Create Finanace)をコンセプトに決算早期化、シェアードサービス設立、経営情報充実化、会計システム導入などを担当し、現在に至る。

日立コンサルティング

要約

 IFRS導入に向けては、単なる会計制度の見直しのみならず、業務、ITシステム、体制、要員育成、文書整備、各種調整等の検討が必要。仮に2015〜2016年にIFRS強制適用とした場合、2013年までには IFRS導入の準備を完了させておくことが望ましく、十分な時間があるとは言えない。

 限られた時間やリソースの中でIFRS導入を円滑かつ確実に進めるためのキーとなるのが、「IFRS導入の影響度を踏まえたロードマップの策定」である。

 IFRS導入は、大きく、「調査・分析」→「適用・構築」→「運用・改善」という3ステップで進めていくことが望ましい。特に「適用・構築」フェイズに十分な期間を見込んでおく必要がある。「調査・分析」フェイズでは、自社にとって最適な計画を策定することが重要になる。IFRSロードマップは、「調査・分析」フェイズの初期段階で策定する。

 ロードマップ策定は、できる限り早いタイミング、可能であれば2009年度中に取り組んでおくことをお薦めする。IFRS適用の準備完了に至るまでにどのくらいの期間・工数・コストを要するのか、早い段階で見極めることが重要。時間をかけることでより高いメリットを生み出す選択肢の採用や、経済状況等に応じた柔軟な投資予算・リソース配分、トレーニング・試行・検証等に対する十分な期間の確保、といったことが可能になる。

 実際のロードマップ策定は、会社実態把握(アセスメント)など6つのステップに分けることができる。ステップごとに着実に検討を進め、とりまとめを行うことで、各社の実態に即した、実効性のあるロードマップの策定が可能になる。

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