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連載:M&A新時代へ(2)

JTの大型買収から考えるIFRSの「のれん」

岡俊子
アビームM&Aコンサルティング株式会社
2009/10/13

IFRS適用によってさまざまな会計処理が変わるが、その中でM&Aに最も大きな影響を与えるのは「のれん」の取り扱いだ。IFRSによって「のれん」の取り扱いに2つの大きな変化が生じる(→記事要約<Page 3 >へ)

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 ところが、経常利益にのれんを足して試算した「のれん償却前経常利益率」によると、買収を加速させたことによって経常利益率は低下したわけではないことが分かります。なお、JTは平成20年3月期では、海外連結子会社で発生したのれんは償却せず減損の有無を判定する方針をとっていましたが、平成21年3月期は、原則5年から20年の償却年数で償却するように会計方針を変更しています。

 またJTの有価証券報告書によると、総資産に占める、のれんの割合は、2008年3月期で41%、2009年3月期で38%と大きな割合になっていることが分かります。


 仮にJTがIFRSを適用していたらどのようになるのでしょうか?

 JTの有価証券報告書によると、Gallaher社買収によって発生したのれんは、約1兆7200億円です。平成21年3月期における経常利益は、のれんを償却していますので、約3000億円です。

 しかし仮に、JTがIFRSを適用していたとすると、のれんの償却を行う必要がなくなるので、JTの経常利益は約3000億円から約4000億円へと大きく上昇することになります。

 ただしGallaher社の業績が悪い場合には、減損テストの結果によっては減損処理を行うことが必要となります。大きな減損損失を計上すると、下手をすると一気に経常利益ベースで赤字に転落してしまうこともあります。

 IFRS下では、M&A後に買収した会社の価値を毀損しなければ償却(費用計上)する必要はない一方で、毀損すると大きな損失を被る可能性があります。今後は、ポストM&Aにおいて買収した会社の企業価値を毀損させない自信が持てない買い手は、やみくもに高値でM&Aを実施することができなくなるでしょう。このように見ると、IFRS導入は、健全なM&Aを推進させる1つの要因になると考えることもできます。

筆者プロフィール

岡 俊子(おか としこ)
アビームM&Aコンサルティング株式会社
代表取締役社長

アビームコンサルティング 戦略事業部長を兼任。明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科、青山学院大学大学院法学研究科の非常勤講師のほか、対日投資有識者会議、M&A研究会等の政府委員会の委員などを務める

要約

 IFRS適用によってさまざまな会計処理が変わるが、その中でM&Aに最も大きな影響を与えるのは「のれん」の取り扱いだ。IFRSが適用されると「のれん」の取り扱いに2つの大きな変化が生じる。

 1つ目の変更点は、日本の会計基準とIFRSとでは「のれん」の定義が異なる点。もう1つは、日本の会計基準では償却していた「のれん」をIFRSでは償却しない点だ。

 日本の現行の会計基準では、M&Aにおける取得価額と買収した会社の貸借対照表の時価純資産との差額を「のれん」と認識し、買い手の貸借対照表に無形固定資産として資産計上する。計上された「のれん」は、20年以内に均等償却される。

 一方、IFRSでは、取得価額と買収した会社の貸借対照表の時価純資産との差額、いわゆる日本の会計基準でいう「のれん」を、さらに顧客名簿、ブランド価値、フランチャイズ契約、ソフトウェアなどの無形資産に配分し、最後に残った部分を『のれん』とする。

 そのため、IFRSで「のれん」の金額を確定させるためには、これまで日本では認識してこなかった資産を無形資産として評価する作業が極めて重要になる。

 もう1つの相違点は「のれん」の償却。日本の会計基準では「のれん」は20年以内に償却することが求められるが、IFRSでは「のれん」を償却しない。なお「無形資産」の一部については、一定年数で償却されるが、「のれん」や償却しない「無形資産」は、当初見込んだとおりの収益が減損テストにおいて実証できなければ、減損処理の対象となる。

 「のれん」として計上される金額は、財務諸表にどのくらいの大きさの影響を与えるのか。JT(日本たばこ産業)の英Gallaher社買収を例に考えてみる。

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