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連載:見えてきた「次世代IFRS」(1)

2つの特徴で読み解く「次世代IFRS」への対応

井上寅喜
株式会社ヒューロン コンサルティング グループ
2010/2/3

変化し続けるIFRSをどうとらえて、どう対応していくのか。「次世代IFRS」のキーワードから、企業が考えるべきことを挙げてみよう(→記事要約<Page 3>へ)

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IFRSを検討する上での留意点

 では、次世代IFRSの存在を前提として、日本企業は将来のIFRS適用に関し、どのような点に留意するべきであろうか。さまざまな点が挙げられるが、長期的観点と短期的観点から、特に以下の点に着目し、本稿の総括としたい。

(1)長期的観点――発想の転換

 上述したように、次世代IFRSは資産・負債アプローチあるいは全面時価主義等、従来の日本会計基準とは異なる発想をもつ会計基準であると考えられる。

 これはいかに次世代IFRSを適用し、会社の財務実態を表現するかという問題が生じることはもちろん、何をもって「業績がよい」と判断されるのかという価値観を大きく変化させる可能性をはらんでいると考えられる。

 会計処理の変更等の技術論のみならず、IFRSひいては次世代IFRSという基準を通して、今の企業がどのような企業として表現されるのか、そしてそれを踏まえどのような企業を目指すのか、IFRSの適用の前提として、明確なイメージを描くことが求められるであろう。

 IFRS適用により(会計のあり方としては矛盾するのではあるが)、企業としてのあり方に影響を及ぼし、会計処理のみならず組織体制や経営上の価値観に影響を与えるかもしれない。

(2)短期的観点――どのようにIFRSを導入・適用していくか

 IFRSを導入・適用していく上で、実務上、以下の点については最低限留意が必要であろう。

1.適用の時期

 IFRSの初度適用においては、原則として初度適用事業年度末時点において有効なIFRSに基づく必要があり、当該IFRSに基づき、初度適用事業年度を含む過去3期分の財政状態計算書および過去2期分の包括利益計算書などを、遡及して作成することが求められる。一方、一般的な目安ではあるが、IFRSを適用するうえでは、影響分析や会計方針の策定などでその準備に2年〜3年(場合によってはそれ以上)の期間が必要となる。

 つまり、上記の点を考慮すると、適用準備のために意識するべきIFRSを準備期間の早い段階で識別する必要があり、この段階で次世代IFRSの内容をどこまで捕捉できるかがポイントとなると考えられよう。

 2009年6月に金融庁企業会計審議会より公表された「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」(以下、「ロードマップ意見書」という)によると、2010年よりIFRSの任意適用を許容の方向性を示す(2009年12月11日付で公布された連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令等により、正式に2010年3月31日以後に終了する連結会計年度より一定の会社について任意適用が可能となっている)とともに、強制適用時期については2015年または2016年と示唆し、IFRS適用の時期にある程度の幅を持たせている。

 とすれば、この任意適用期間に着眼し、すでに適用準備が進んでいる会社においては、より早い段階で現行IFRSを任意適用し、次世代IFRSが公表・施行された段階でこれを遡及適用なしで反映することが考えられる。逆にIFRSの強制適用時における導入を目指す会社においては、次世代IFRSの方向性を意識したうえで準備を開始することも考えられよう。

2.次世代IFRSで何が変わるのか

 次世代IFRSの公表によってすべての企業がすべての項目において影響を受けるとは限らない。例えば、金融商品をほとんど有さない企業にとっては次世代IFRSの到来による金融商品関連の影響はほとんどないということになろう。一方金融商品を多数保有する金融機関においては、次世代IFRSの中で金融商品会計に関連する項目がどのような内容になるか、IFRSと米国会計基準のコンバージェンスの状況などを通して十分なモニターが必要になり、場合によっては金融商品関連の基準が公表されるまで一部の準備を先送りすることも想定されるかもしれない。

 すなわち、IFRSの適用の準備を進めるうえでは、それぞれのフェーズにおいて、各企業のビジネスの内容や保有資産・負債の内容に応じ各項目の優先順位を決定し、次世代IFRS適用に向け柔軟に対応することが望まれる。

3.日本会計基準改訂の動き

 IFRSの適用を先送りする場合、代わりに日本会計基準のコンバージェンスの影響 を受けることとなる。(2)1.で指摘したIFRSの適用時期、そして(2)2.で指摘した準備項目の優先順位を検討するうえでは、足下の日本会計基準の変更状況への配慮、そしてIFRSの改訂動向との比較衡量が必要であると考えられる。

筆者プロフィール

井上 寅喜 (いのうえ とらき)
株式会社ヒューロン コンサルティング グループ
マネージング ディレクター
公認会計士

1980年にアーサーアンダーセンに入社以来、朝日監査法人、あずさ監査法人(KPMG)で会計監査、会計アドバイザリー業務、財務デューディリジェンス業務に携わる。2008年7月には、株式会社ヒューロンコンサルティング グループのマネージングディレクターに就任。複雑な会計処理に関するアドバイザリー業務、米国会計基準及び国際会計基準へのコンバージョン支援業務、買収後の統合支援業務などに従事している。2010年7月、株式会社アカウンティング アドバイザリー 代表取締役社長就任。

要約

 次世代IFRSはどのような性質か。その性質を表すキーワードは「資産・負債アプローチ」「全面時価主義」など。次世代IFRSに基づき作成される財務報告の特徴としては、バランス・シートにおける情報が極めて重視される一方、各種情報の中で期間損益概念に関する重要性が相対的に小さくなっている点が挙げられる。また、各種情報の多くが公正価値によって測定されることになることから、株価や金利要因等の外部要因などにより影響を受けやすい。

 次世代IFRSを適用するということは、資産・負債アプローチあるいは全面時価主義といったこれまでの日本会計基準の財務報告とは大きく異なる思想をその基礎として受け入れ、財務報告として表現することが求められることになるのである。

 では、日本企業は将来のIFRS適用に関し、どのような点に留意するべきであろうか。長期的観点としては、発想の転換が必要になる。次世代IFRSは資産・負債アプローチや全面時価主義など、従来の日本会計基準とは異なる発想を持つ。これは何をもって「業績がよい」と判断されるのかという価値観を大きく変化させる可能性をはらんでいると考えられる。

 また、短期的観点としては、どのようにIFRSを導入・適用していくかを考える必要がある。IFRSを適用する上では、影響分析や会計方針の策定等でその準備に2年〜3年(場合によってはそれ以上)の期間が必要となる。そのため、適用するIFRSを準備期間の早い段階で識別する必要があり、この段階で次世代IFRSの内容をどこまで捕捉できるかがポイントとなると考えられる。

 次世代IFRSにすべての企業がすべての項目で影響を受けるとは限らない。例えば、金融商品をほとんど有さない企業にとっては次世代IFRSの到来による金融商品関連の影響はほとんどないということになる。IFRSの適用の準備を進める上では、それぞれのフェーズにおいて、各企業のビジネスの内容や保有資産・負債の内容に応じ各項目の優先順位を決定し、次世代IFRS適用に向け柔軟に対応することが望まれる。

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