連載:EBS、HyperionユーザーのIFRSガイド(2)
E-Business Suiteを使ったIFRS対応の実際とは
村川洋介、西垣智裕
IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社
2009/12/10
Oracle E-Business SuiteはIFRSで対応が求められる各要件をどのように処理できるのだろうか。用意されている機能を説明し、対応例と課題を挙げよう(→記事要約<Page 3 >へ)
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Oracleアプリケーションでの対応
EBSにおいて各論点となっている処理を実現する場合には、どのような機能が用意されているのであろうか。また工夫・検討が必要となる課題は何であろうか。
(1)収益認識
EBSにおいて、収益を認識するタイミングのコントロールは、Receivables(債権・入金管理モジュール、以下AR)で「イベント基準の収益管理」機能を使用することにより実現できる。
この機能を使用するとARは、手入力もしくはOrder Management(オーダー管理モジュール、以下OM)からのインポートで取り込んだ受注・出荷済みの請求書データを、即時に収益として認識するか、条件が整うまで繰延収益として認識するかを判断する。条件(偶発)は「取消」「搬送(完了)」「明示的受入」などあらかじめ用意されているほかに、ユーザーが独自に作成することもできる。これらの条件がクリアされるイベント(偶発削除イベント)が発生した時点で、収益として認識される。
具体的には以下の業務手順とすることにより、着荷基準もしくは検収基準での収益認識が実現される。
- 顧客向けに物品を出荷
- 請求書に偶発として「明示的受入」を設定してOMからARに送付(販売金額を繰延収益として認識)
- 顧客に物品が着荷するもしくは受入検収される
- OMに受け入れを入力(偶発削除イベント「顧客受入」が発生し、ARで販売金額を収益として認識)
また偶発削除イベントは、基準日から一定の日数が経過するとイベントが発生したと見なすように、あらかじめ属性を設定しておくことも可能である。先の例でいえば、偶発削除イベント「顧客受入」の属性として、「出荷確認日」から「3日」経過した場合に自動的に成立するといった設定をしておくことができる。このように設定しておけば、出荷から着荷まで通常3日かかることが分かっている場合に、いちいちOMに手入力せずに自動的に処理するような簡略化した業務プロセスにすることが可能となる。
なおARでイベント基準の収益管理を使用する場合、OMにおけるパラメータ設定などでパフォーマンスを向上させることも可能なため、システム上の配慮も必要となる。
積送中の棚卸資産については、Inventory(在庫管理モジュール、以下INV)において受注出庫することで収益の認識状況とは独立して管理することが可能である。
(2)有形固定資産
EBSの固定資産管理モジュール Assets(以下FA)で管理する台帳には、会計用資産台帳と税務台帳の2種類が存在する。
税務報告に使用する税務台帳は、国内基準の会計用資産台帳から一括コピーしてメンテナンスすることが可能となっており、それぞれの台帳で異なる償却計算を設定できるようになっている。この仕組みを利用して、IFRS基準の償却台帳を別途保持することも可能である。
例えば連結会計をIFRS基準、単体会計を国内基準で報告する場合、以下のような台帳構成で固定資産管理を行うことができる。
(A) 全固定資産のマスタ管理台帳となる会計用資産台帳
(B) 連結決算用のIFRS基準による資産台帳
(C) 税法基準による償却資産税用台帳
(D) 税法基準による法人税用台帳
この時、(B)(C)(D)の各台帳への資産登録は、(A)の会計用資産台帳からの一括コピー機能により行う。(A)の台帳では、基本的に国内基準の償却計算を設定するが、国内基準とIFRS基準でそもそも固定資産として登録すべき対象範囲が異なる場合には、初年度の登録月に全額償却しきる設定をするなどの工夫が必要となってくる(リース資産、後述の開発費など)。
コンポーネントアカウントへの対応については、管理番号に枝番を付ける、あるいは付加フィールドを活用するなどの方法で管理できる。登録時に枝番号を付した構成要素ごとに資産カテゴリを定義し紐付けることで、償却計算の項目が自動的に設定される。
固定資産管理にEBSを使用する企業において、IFRS対応プロジェクトを検討するうえでは、既存の登録済み資産の移行にかかる工数が課題となる。既存のEBS FAモジュールに登録されている資産を移行する場合は、IFRS基準の資産台帳を新規に作成し、IFRS基準で合理的な耐用期間、残存価額、償却方法を個別に設定しながらデータ移行することになる。1対1の移行であれば、機械的な変換プログラムで対応することも可能であるが、コンポーネントアカウント対応で資産を分割登録する場合は、個別の手作業に頼ることになる。船舶などの輸送機器や大規模な機械装置などを大量に保有している企業の場合は、注意が必要である。