企業価値向上を支援する財務戦略メディア

連載:日本人が知らないIFRS(3)

「利益は過去しか表さない」が示唆すること

高田橋範充
中央大学 専門職大学院国際会計研究科 教授
2009/10/27

IFRSでは、投資意思決定に有用な情報を提供することが財務報告の目的とされている。しかし利益情報こそが投資意思決定情報として決定的であるとの考えもある。今回はこの問題を考える (→記事要約<Page 3>へ)

前のページ1 2 3次のページ

PR

 例えばソフトバンクのケースを考えてみよう。ソフトバンクは、周知のようにコア事業を何度も転換している。1981年から1993年まではソフトウェア、出版事業を中心に事業を展開している。1996年から1999年までは、ヤフーに代表される主に米国企業の買収・出資を中心とする投資事業の第1期だった。1999年から2002年まではナスダック・ジャパンを開設して、インターネット関連ベンチャー企業への投資を中心とする投資事業の第2期である。その後、インターネットバブルが崩壊すると、2001年にはADSLサービス事業に注力して、固定通信事業である日本テレコム、ケーブル・アンド・ワイヤレス・IDCの買収、携帯電話事業のボーダフォンの買収を進めて、現在では、通信事業がコア事業になっている。

 ソフトバンクのように、急速に事業内容を変化させる場合には、過去の利益で将来を予測することは不可能に近いのではないだろうか。ここで発想を転換して、持株会社としてのソフトバンクがどのような会社を支配し、その株価がどのような状況にあるかを、ソフトバンクそのもの将来性に関する判断基準とした方が、より合理的ではないだろうか。過去の利益よりも、現在の資産価値に重点を移すのである。

 以上のようなケースでは、「利益は過去しか表さない」という英国型の発想は納得できるであろう。

会計担当者の役割が変わる

 IFRSが資産価値の集約としてのバランスシートあるいは財政状態報告書(Statement of the financial position: 2008年のIAS1改定後の名称)を表示しようとする背景には、会計的な発想ではなく、むしろファイナンスの影響が強く見受けられる。金融機関には、ファイナンスの基礎教育を受けた人材が国境を越えて存在し、彼らの共通認識に合致する情報をIFRSが提供しようとしているのであろう。将来のキャッシュフローの予測適合性は、過去の利益情報よりも企業の資産価値にあるとする思想も分からないではない。

 この企業の資産価値重視の考えは、従来の会計の機能を大きく変化させる。会計担当者の役割も大きく様変わりさせることになるだろう。会計担当者、経理担当者の基本的役割は、従来はデータの入力・整理が中心であったといえる。しかし、今後はそれらのルーティンワークよりも企業価値のそのもの評価といった、極めて戦略性の側面が重視されることになる。いわば、CFO(Chief Financial Officer)の領域の仕事が会計担当者のメインの機能となっていくであろう。

 さらに、IFRSの進展はストック重視の会計情報への変貌をも意味し、その変化は企業の予算評価システムなど多くの側面に重大な影響を与えるであろう。とりわけ、会計情報システムを中核とする経営情報システムは、大幅な見直しを要求される可能性がある。

 現在、わが国において議論されている、IFRSの会計情報システムに対する影響は、ある意味、IFRSの表面的要求に応えようとするものであり、本稿で議論しているような投資意思決定に直結する財務情報開示の議論には至っていない。欧米においても、その段階に到達した議論はそれほど多くはないが、散見され始めている。

前のページ1 2 3次のページ

@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID